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122・風の道標
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グラスに向かって目を凝らす。やっぱり見間違いじゃない。映っているのはアメティスタと、ジルコンだ。寮の花壇に水撒きをしているジルコンに、門扉を開けて近寄っていくアメティスタ。片手を軽く振りながら歩いていく彼に、ジルコンもすぐに気づいて手を止める。
「やぁやぁジルコン、ご精が出ますなぁ」
「アメティスタ。珍しいな、お前がわざわざ外に出向いてくるとは」
「やだなぁジルくん、人を引きこもりみたいに言わないでよぉ」
「……その呼び方はやめろ」
嫌そうな顔をするジルコンに、アメティスタは構わず距離を詰めていく。暗色のぞろりとしたローブが地面を擦る。ジルコンの言い草もごもっとも、こうして見るとつくづく太陽の下が似合わないやつだ。
「あんねぇ、今日はちょっとキミに聞きたいことあって。んでわざわざこんなとこまで来たんだぁ」
「それは構わないが……お前、仕事はどうした」
「だからぁ、そのシゴトの話だよぉ。大事な大事なオシゴトの話」
「大事な仕事?」
「ジルコン。キミは、『預言』についてどう思う?」
その単語が出た瞬間、ジルコンの表情がすっと変わった。手にしたジョウロを下に置き、アメティスタに正面から向き直る。
「それは、お前の個人的な興味からの質問か。それとも『預言者アメティスタ=玻璃』としてのお言葉か」
「えぇー? どぉだろ。どっちでも同じじゃない? 僕はそう思ってるけど」
「なるほど。ではこちらも礼を尽くしてお答えしましょう」
胸の勲章に手を当てて、ジルコンは深々と頭を下げる。空気が変わった。会議の場のような緊迫感に、グラス越しの俺も思わず姿勢を正す。
「恐れながら私見を述べさせて頂きますと、預言とは、現時点での未来。それ以上でも以下でもございません」
「へぇ。つまり預言それ自体はキミにとっては恐るるに足らず、ってことでいいのかな」
「僭越ながら、そう取って頂いて構いません。預言とは言わば風の道標。流されるまま行けばいずれはそこに辿り着く。しかし自らの手で舵取れば、望む方角を目指すことは十分に可能。その意味においては、預言はむしろ、覆すことにおいてのみ価値があるものと存じます」
「ふぅーん……」
もう一度下げられたジルコンの頭を、アメティスタは薄笑いを浮かべながら見下ろしている。相変わらず不気味な微笑だが、しかしなんとなく悪意は見えない、ような気がする。むしろ楽しみを見つけた子供のような、無邪気とも言える嬉しそうな笑み……に見える、俺には。わかんねーけど。
いや、そんなことよりジルコンの言葉だよ。今の俺には正直、響いた。俺の存在を忘れてるはずなのに、俺に希望を与えることばっか言いやがる。もしかしたら、こいつなら俺を文字通りの王子サマとして、白馬的なものに乗って颯爽とさらいに来てくれるかも、なんて思わせるような。うう、かっこいいぜちくしょー! でもこれ言いっぱなしで終わったらマジ微妙だぞ! 頼むしお願いしますし助けに来てくれ!
「やぁやぁジルコン、ご精が出ますなぁ」
「アメティスタ。珍しいな、お前がわざわざ外に出向いてくるとは」
「やだなぁジルくん、人を引きこもりみたいに言わないでよぉ」
「……その呼び方はやめろ」
嫌そうな顔をするジルコンに、アメティスタは構わず距離を詰めていく。暗色のぞろりとしたローブが地面を擦る。ジルコンの言い草もごもっとも、こうして見るとつくづく太陽の下が似合わないやつだ。
「あんねぇ、今日はちょっとキミに聞きたいことあって。んでわざわざこんなとこまで来たんだぁ」
「それは構わないが……お前、仕事はどうした」
「だからぁ、そのシゴトの話だよぉ。大事な大事なオシゴトの話」
「大事な仕事?」
「ジルコン。キミは、『預言』についてどう思う?」
その単語が出た瞬間、ジルコンの表情がすっと変わった。手にしたジョウロを下に置き、アメティスタに正面から向き直る。
「それは、お前の個人的な興味からの質問か。それとも『預言者アメティスタ=玻璃』としてのお言葉か」
「えぇー? どぉだろ。どっちでも同じじゃない? 僕はそう思ってるけど」
「なるほど。ではこちらも礼を尽くしてお答えしましょう」
胸の勲章に手を当てて、ジルコンは深々と頭を下げる。空気が変わった。会議の場のような緊迫感に、グラス越しの俺も思わず姿勢を正す。
「恐れながら私見を述べさせて頂きますと、預言とは、現時点での未来。それ以上でも以下でもございません」
「へぇ。つまり預言それ自体はキミにとっては恐るるに足らず、ってことでいいのかな」
「僭越ながら、そう取って頂いて構いません。預言とは言わば風の道標。流されるまま行けばいずれはそこに辿り着く。しかし自らの手で舵取れば、望む方角を目指すことは十分に可能。その意味においては、預言はむしろ、覆すことにおいてのみ価値があるものと存じます」
「ふぅーん……」
もう一度下げられたジルコンの頭を、アメティスタは薄笑いを浮かべながら見下ろしている。相変わらず不気味な微笑だが、しかしなんとなく悪意は見えない、ような気がする。むしろ楽しみを見つけた子供のような、無邪気とも言える嬉しそうな笑み……に見える、俺には。わかんねーけど。
いや、そんなことよりジルコンの言葉だよ。今の俺には正直、響いた。俺の存在を忘れてるはずなのに、俺に希望を与えることばっか言いやがる。もしかしたら、こいつなら俺を文字通りの王子サマとして、白馬的なものに乗って颯爽とさらいに来てくれるかも、なんて思わせるような。うう、かっこいいぜちくしょー! でもこれ言いっぱなしで終わったらマジ微妙だぞ! 頼むしお願いしますし助けに来てくれ!
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