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158・私のいいひとと書いて私情
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「なあ、再三言うようだが悪い話じゃねえだろ? 特にお前、チュー太郎にとってはな」
俺の落ち込みをすくい上げるみたいに、フォルコが片手を持ち上げる。
「オレたちはずっとお前を見てきた。そっちの僕ちゃんだけがちやほやされて、お前一人不当に冷遇されてるとこもな。かわいそうになあ、お前だってみんなのために力になろうと、お前なりに一生懸命頑張ってきてたってのに。不公平だよなあ。こんなことが許されていいのかって、心の底で思っちまっても当然だよなあ?」
「う……」
語るフォルコの声は妙に優しい。その甘い言葉には確実に裏があると知りつつも、ついつい聞き入ってしまうくらいに。
「なあに、何もこいつらを見捨てるわけじゃねえ。むしろお前はこいつらのために、遠くに嫁に出るとでも思えばいいんだ。もちろんこっちでの待遇は保証する。なんならお前の望むハーレムでも逆ハーレムでも、好きなように作ればいい。ツラのいいのはオレ見りゃわかんだろ? 男でも女でも、折り紙付きのを見繕ってやろうじゃねえか。たっぷり可愛がってやるぜ、なあ、お姫様?」
「お、男でも女でも……!?」
「馬鹿か! 釣られるんじゃない」
ジルコンに叱られて、ハッと我に返った。あ、あぶねえあぶねえ。くそう、翼人族のやつらめ、敵ながら恐ろしい誘惑を仕掛けてきやがるぜ。
「何度甘言を重ねようが、こちらの解答は変わらない。チュー太郎は渡さない」
俺本人の答えを待つことなく、ジルコンはもう一度断言した。
「どうも誤解があるようだが、黄銅の灯士は決してバックアップなどではない。むしろ国を護る耀燈の一部として、クリスタルの灯士と同様、我らにとって決して欠くことのできない至宝。渡すだの嫁に出すだの、道具まがいの扱いなど言語道断だ」
「ジ、ジルコン……」
じーんとなりながらジルコンを見上げる。揺らいでごめん。やっぱ俺の居場所はここだ。いやほんとに。
「は、わかってねえな。国の宝なんてご大層な銘が打たれたもんほど、取引材料に使ってなんぼだってのに。そっちの商人様なんかもそう思うクチだろ?」
「ははっ、確かに、その意見自体には一理あるな」
「ト、トパシオ!」
敵に同調し始めるトパシオを、ランジンが慌てて諌める。ぶれねえなこいつ。
ともかくジルコンが譲る気配はないと悟ったのか。フォルコは崩していた姿勢を正し、机の上で手を組んだ。
「一つだけ尋ねる。その決断はもちろん、万民の輝かしい王子様、ディアマンテ=ジルコニアス=エーデルシュタイン様の御名に置いてご決断あそばされてんだよな?」
「無論。しかし」
平然と答えたジルコンが、一瞬だけ俺の目と目を合わせる。それから不敵にふっと微笑んで、また真正面からフォルコと対峙した。
「仮に王子としての俺がこの取引を是認したとて、俺自身──ジルコン=ラタナキリとしての俺自身が、全力でぶち壊しにかかると明言しておく。正真正銘混じり気無しの、私情でな」
「……!」
思わず息を呑む。王子として、みんなの中心になる支えとして。ずいぶんとんでもないことを言い放ったジルコンは、だがダイヤモンドのような意志と視線をもって、堂々とフォルコを刺していた。
俺の落ち込みをすくい上げるみたいに、フォルコが片手を持ち上げる。
「オレたちはずっとお前を見てきた。そっちの僕ちゃんだけがちやほやされて、お前一人不当に冷遇されてるとこもな。かわいそうになあ、お前だってみんなのために力になろうと、お前なりに一生懸命頑張ってきてたってのに。不公平だよなあ。こんなことが許されていいのかって、心の底で思っちまっても当然だよなあ?」
「う……」
語るフォルコの声は妙に優しい。その甘い言葉には確実に裏があると知りつつも、ついつい聞き入ってしまうくらいに。
「なあに、何もこいつらを見捨てるわけじゃねえ。むしろお前はこいつらのために、遠くに嫁に出るとでも思えばいいんだ。もちろんこっちでの待遇は保証する。なんならお前の望むハーレムでも逆ハーレムでも、好きなように作ればいい。ツラのいいのはオレ見りゃわかんだろ? 男でも女でも、折り紙付きのを見繕ってやろうじゃねえか。たっぷり可愛がってやるぜ、なあ、お姫様?」
「お、男でも女でも……!?」
「馬鹿か! 釣られるんじゃない」
ジルコンに叱られて、ハッと我に返った。あ、あぶねえあぶねえ。くそう、翼人族のやつらめ、敵ながら恐ろしい誘惑を仕掛けてきやがるぜ。
「何度甘言を重ねようが、こちらの解答は変わらない。チュー太郎は渡さない」
俺本人の答えを待つことなく、ジルコンはもう一度断言した。
「どうも誤解があるようだが、黄銅の灯士は決してバックアップなどではない。むしろ国を護る耀燈の一部として、クリスタルの灯士と同様、我らにとって決して欠くことのできない至宝。渡すだの嫁に出すだの、道具まがいの扱いなど言語道断だ」
「ジ、ジルコン……」
じーんとなりながらジルコンを見上げる。揺らいでごめん。やっぱ俺の居場所はここだ。いやほんとに。
「は、わかってねえな。国の宝なんてご大層な銘が打たれたもんほど、取引材料に使ってなんぼだってのに。そっちの商人様なんかもそう思うクチだろ?」
「ははっ、確かに、その意見自体には一理あるな」
「ト、トパシオ!」
敵に同調し始めるトパシオを、ランジンが慌てて諌める。ぶれねえなこいつ。
ともかくジルコンが譲る気配はないと悟ったのか。フォルコは崩していた姿勢を正し、机の上で手を組んだ。
「一つだけ尋ねる。その決断はもちろん、万民の輝かしい王子様、ディアマンテ=ジルコニアス=エーデルシュタイン様の御名に置いてご決断あそばされてんだよな?」
「無論。しかし」
平然と答えたジルコンが、一瞬だけ俺の目と目を合わせる。それから不敵にふっと微笑んで、また真正面からフォルコと対峙した。
「仮に王子としての俺がこの取引を是認したとて、俺自身──ジルコン=ラタナキリとしての俺自身が、全力でぶち壊しにかかると明言しておく。正真正銘混じり気無しの、私情でな」
「……!」
思わず息を呑む。王子として、みんなの中心になる支えとして。ずいぶんとんでもないことを言い放ったジルコンは、だがダイヤモンドのような意志と視線をもって、堂々とフォルコを刺していた。
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