転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ！

１６４・オタクが早口で喋り出すときは

　かんかん照りの太陽が、逃げ場なく頭上から照りつけている。後ろ手に手すりをぎゅっと握った。慎重に、頭に浮かんだ感情を言葉に変える。

「まず前提として……ジルコンのことは、好き、だよ。あ、恋愛じゃなくて好感度的な意味でね、とりあえず」
「……ほう」
「理由はまあ、今さら語るまでもないだろうけど……なんつーか、ほら、カッコいいじゃん？　仲間に対しても自分に対しても、ストイックだけど思いやりがあって、嫌味なくらい自信満々だけどそれに見合う実力もちゃんとあってさ。まあ現代のコンプラ的に見ると色々どうかと思うとこもあるけど、それでも、うん、いざってなると優しい奴だし。あ、あと顔！　やーこれはもう言わずがもなって感じだけど、マジで神様を呪いたくなるくらいのイケメンじゃん？　まあそこに関してはお前らみんなそうだから、あんまり言ってもしょうがないことなんだけど。えーっと、なんの話だっけ？　とにかく物理的にも精神的にも、ジルコンはマジで宝石みたいにキラキラしてて、眩しい王子様そのものなんですよ。俺にとってはね」
「そうだな。それについては俺も同感だ」

　聞かれてもないことまで早口で語る俺に、サフィールの表情が少しだけ緩んだ。あ。またやってしまった。でも今、言葉にしてみて初めて自覚したこともある。いつの間にかジルコンって存在は、俺の中でこれだけ語れるくらいになってたんだな。

「で、うん。肝心の、恋愛的なことについて……だよな」
「ああ。教えてくれ」
「うん。素直にね。素直に話せっつったから、素直な話するよ？　怒んないでね？」
「ああ」

　恐る恐る予防線を張りつつ、手すりに背をもたせて青空を仰ぐ。

「……正直、ね。薄々自覚はしてるんすよ、これでも。一緒にいると楽しいし、距離が近づくとドキドキするし。ジルコン自身のことを教えてくれたときは胸熱だったし、俺のこともなんやかんやで喋っちゃったし。うん……でも、これでいいのかなってのは……思う」
「いいのかな、だと？」
「あ！　ジルコンに対してどうこうって話じゃないよ、そうじゃなくて……俺が、いいのかな、って言うか……」

　眉をしかめたサフィールに、言い訳するかのように言葉を繋ぐ。出てくる言葉が的確なのかは、自分でもまだよくわからない。

「俺さあ。自分で言うのもなんだけど、すぐ弱音吐くし、ミーハーだし欲深いし空気読めないし、人間として色々ダメダメじゃん？」
「そうだな」
「わあ、まさかの全肯定……いやまあ、他人から見てもそうなら、なおさら俺が……あ、愛しても、いいのかなってさ」

　小声で呟いたこっぱずかしい一言に、サフィールはさらに首をかしげた。

「それは……つまり、貴方自身の家柄や人格を気にしているということか？　この国の王子たるジルコンとお前とでは、釣り合いが取れないと」
「釣り合い……やーもう、それ以前の話っすよ。つまり、俺がジルコンのことをいくら好きだと思ってたって、それはその、いわゆる……ちゃんとした、愛なの？　的な。俺の気持ちなんてたぶん全然綺麗なもんじゃないし、そんな邪道なもんを人前に出したところで、みんなにも……ジルコンにも、迷惑かなって」

　吐露した心情に、なぜか鼻の奥がつんとなる。自分でも初めて気づいた、俺こんなこと考えてたのか。根深ぇなあ、俺。なんだか他人事みたいにそう思う。