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176・模造・人造・類似石
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「ジルッ……!」
声を上げかけて、慌てて口を塞ぐ。今は彼の気を逸らしちゃ駄目だ。二人の鍔迫り合いは俺の目にすらわかるほどまったくの互角。一瞬でも気を抜いた方が打ち負ける。
「ぐ、っ、おおおおっ!!」
『……』
雄叫びを上げたジルコンが、かろうじて紙一枚分、漆黒の剣を横に受け流す。影の体勢がほんのわずかにぶれた。歪みを突き崩すようにジルコンがもう一歩踏み込もうとした、その刹那。
『何故』
地の底から響いてきたような低い声は、確かに影の口から聞こえた。
意表を突かれたのか、ジルコンの動作に急ブレーキがかかる。その隙をことさら狙うこともせずに、影は剣と剣を鍔元で噛み合わせたまま、無感情に呟き始めた。
『何故、俺だった。安寧の地を取り上げられ、偽物を意味する名を押し付けられたのも。糞ったれな運命に手駒として選ばれたのも。何故。何故、何故、俺が、俺が』
「何の話をしている。貴様の恨み言か」
怪訝そうにジルコンが問いかける。黒く染まった端正な顔は、石のようにぴくとも表情を変えない。
『確かに。俺なら容易い。造作もない。ダイヤモンドの振りをしろと言われれば、世界一の硬度をもって輝いてもみせよう。今日まで積み上げてきた鍛錬と、仲間たちとの日々をもって』
「……は。木偶人形が一丁前に撹乱のつもりか」
『だがもし、俺が砕けたら?』
その一言に。ジルコンの眉がかすかに上がった。
ハッと息を呑んだ。はたから見れば動揺とも呼べないような、微妙な変化だ。だがその変化がどれだけの意味を持つか、俺は知っている。
影ジルコンのわずかに開いた唇から、淡々と言葉が紡がれる。まるで感情の見えない声で、古の呪詞を歌うみたいに。
『どうする、俺は。民や仲間の信頼も、期待も、希望も、すべては俺の上に積まれている。積んできた、自ら。だが俺は知っているはずだ。己は所詮、真に輝ける金剛石には程遠い。同じ形に削り出されただけの、偽物だと』
「……やめろ」
『耐えられなくなる日が来たら、どうする。砕けたらどうする。己を慕っていた者たちが。纏った輝きに眩まされていた者たちが。そして俺自身をダイヤと信じ、輝きを映した瞳で見つめてくれたあのひとが。この身と諸共崩れ落ち、砕け散る日が、もしも、いずれ、早晩──』
「やめろ!!」
声を上げたジルコンの剣が、一瞬、激しい閃光をまとう。溢れんばかりの魔力の光をしかし影は難なく受け流し、そのまま大きく後ろへ跳んだ。構わずジルコンは性急に突っ込んでいく。無防備になったその背中が、フォルコのいる側に向いたのにも気づかずに。
「おおおおおっ!!」
「……! ジルコンっ!!」
くずおれたままのフォルコがかすかに口端を上げる。だらりと膝に預けられていたその手が、ジルコンの背に向けてゆっくりと上がる。
生み出された黒い光弾が、ジルコンに直撃する寸前──
なりふり構わず俺は、円台の上に飛び上がっていた。
声を上げかけて、慌てて口を塞ぐ。今は彼の気を逸らしちゃ駄目だ。二人の鍔迫り合いは俺の目にすらわかるほどまったくの互角。一瞬でも気を抜いた方が打ち負ける。
「ぐ、っ、おおおおっ!!」
『……』
雄叫びを上げたジルコンが、かろうじて紙一枚分、漆黒の剣を横に受け流す。影の体勢がほんのわずかにぶれた。歪みを突き崩すようにジルコンがもう一歩踏み込もうとした、その刹那。
『何故』
地の底から響いてきたような低い声は、確かに影の口から聞こえた。
意表を突かれたのか、ジルコンの動作に急ブレーキがかかる。その隙をことさら狙うこともせずに、影は剣と剣を鍔元で噛み合わせたまま、無感情に呟き始めた。
『何故、俺だった。安寧の地を取り上げられ、偽物を意味する名を押し付けられたのも。糞ったれな運命に手駒として選ばれたのも。何故。何故、何故、俺が、俺が』
「何の話をしている。貴様の恨み言か」
怪訝そうにジルコンが問いかける。黒く染まった端正な顔は、石のようにぴくとも表情を変えない。
『確かに。俺なら容易い。造作もない。ダイヤモンドの振りをしろと言われれば、世界一の硬度をもって輝いてもみせよう。今日まで積み上げてきた鍛錬と、仲間たちとの日々をもって』
「……は。木偶人形が一丁前に撹乱のつもりか」
『だがもし、俺が砕けたら?』
その一言に。ジルコンの眉がかすかに上がった。
ハッと息を呑んだ。はたから見れば動揺とも呼べないような、微妙な変化だ。だがその変化がどれだけの意味を持つか、俺は知っている。
影ジルコンのわずかに開いた唇から、淡々と言葉が紡がれる。まるで感情の見えない声で、古の呪詞を歌うみたいに。
『どうする、俺は。民や仲間の信頼も、期待も、希望も、すべては俺の上に積まれている。積んできた、自ら。だが俺は知っているはずだ。己は所詮、真に輝ける金剛石には程遠い。同じ形に削り出されただけの、偽物だと』
「……やめろ」
『耐えられなくなる日が来たら、どうする。砕けたらどうする。己を慕っていた者たちが。纏った輝きに眩まされていた者たちが。そして俺自身をダイヤと信じ、輝きを映した瞳で見つめてくれたあのひとが。この身と諸共崩れ落ち、砕け散る日が、もしも、いずれ、早晩──』
「やめろ!!」
声を上げたジルコンの剣が、一瞬、激しい閃光をまとう。溢れんばかりの魔力の光をしかし影は難なく受け流し、そのまま大きく後ろへ跳んだ。構わずジルコンは性急に突っ込んでいく。無防備になったその背中が、フォルコのいる側に向いたのにも気づかずに。
「おおおおおっ!!」
「……! ジルコンっ!!」
くずおれたままのフォルコがかすかに口端を上げる。だらりと膝に預けられていたその手が、ジルコンの背に向けてゆっくりと上がる。
生み出された黒い光弾が、ジルコンに直撃する寸前──
なりふり構わず俺は、円台の上に飛び上がっていた。
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