あつろうくんかわいそう

スイセイ

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あつろうくんかわいそう

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 同級生の嶋田敦郎くんは、とってもかわいそうな人です。
 なんせ夢と希望を抱いて田舎から上京したとたん、ご両親の経営する工場がばったり倒産してしまった。もともと余裕のあるおうちではなかったけど、予定してた仕送りどころか大学の学費さえ一円も出せなくなった。奨学金に頼るにしたって今すぐお金が貰えるわけじゃないし、元々そんな親しい友達もいなかったから、今や明日のご飯にも困るありさま。かわいそー。令和の世の中でこんなことあるのかって苦学生ぶりです。それ売りのYouTuberにでもなればちょっとは稼げるかもね。
 でもいちばんかわいそうなのは、そんなときに俺みたいのが近くにいたことなんだな。



 鼻歌を歌いながら部屋の鍵を開けた。都内某所の駅から2分、34階の2LDK。売り出しのときにちらっと目にした、『楽園はここにある』とかいうコピーはクソダサだったけど、今の俺ならそんなマンションポエムも共感性マックスで受け入れちゃうね。玄関先で靴を脱ぎ捨てて、すぐ横のディスプレイにキーナンバーを入力する。ガシャン、と聞き慣れた重い音。廊下と玄関を隔てる鉄格子が開く。俺にとっての、楽園の入り口。

「たっだいまぁ」

 いつもなら小さく聞こえるおかえり、は、なぜだか今日は返ってこなかった。あれ、と首をかしげて、一瞬後に気づいた。そうだそうだ。今日はちょっと、特別だったんだ。朝から敦郎くんに仕掛けていった新プレイ。首尾を想像すると口の端が吊り上がる。
 スキップに近い足取りで廊下を抜けて、部屋につながるドアを開けた。煌々と光る照明の下、ソファに丸まっている敦郎くんが見えた。

「あっつろーくん。ただいまー」
「……ッ」

 眠ってるわけじゃないことはわかってたから、遠慮せず明るく声を掛けた。不健康なくらい細っこい体に、真っ白なシャツと細身のパンツを着込んだ敦郎くんは、朝とおんなじ真っ赤な顔で、自分の身をきつく抱いたまま俺を見上げた。

「ただいま、敦郎くん。おかえりは?」
「…………お、かえり、なさい」
「うん。ただいま」

 ソファの背もたれから手を伸ばして、少し伸びた黒髪をくしゃりと撫でる。途端に敦郎くんの全身が跳ねた。食いしばった歯の間から、んんっ、という声にならない喘ぎが漏れる。

「ありゃ。はは、きもちくなっちゃった?」
「ッ、う、うぅッ……は、ず、も、外しっ、外して、くださいっ……!」
「いいよー。じゃ、今度はちゃんと言うこと聞いてね」
「はひ……ッ!」

 背もたれを乗り越えて敦郎くんの足元に座る。その程度の刺激でも悶絶してしまう彼が相変わらずかわいい。溢れる笑みを抑えずに、まずは股間のチャックを開けてやった。いつも学校に通ってたときと同じ、きっちりした格好の彼の股から、違和感の塊みたいな銀色の金属塊がまろび出る。朝に仕込んだ貞操帯だ。先っぽのスリットから大量の我慢汁が流れ出て、下着なしで着せたズボンをドロドロに汚している。

「っはは、スケベ。朝からずっと濡らしてたの」
「う、ふううぅっ」
「ほら。こういうときどう言えばいいんだっけ?」

 腰回りを優しく撫でながら、今朝とまったく同じに問いかけた。鋭く俺を睨みつけた眼差しは、貞操帯の先を指で弾いてやった途端、あぁっ、という情けない声とともにとろけた。

「……お、小田巻、さんの」
「名前」
「っぐ……きょうじ、さんの……」

 華奢な肩がぶるりと震える。目尻の涙がまばたきで散った。火照りきった顔を隠すようにソファに押し付けながら、敦郎くんは悲鳴みたいな声で叫んだ。

「亨二さんの、ちん……おちんちん、を、俺の、お、お、おまんこ……に、入れっ、て、欲しい、ですっ……」
「うん。それから?」
「ふっ、ぁっ、お、俺のお尻のおまんこ、おちんちんで、亨二さんのおちんちんでっ、いっぱいきもちよくしてください……っ!」
「……んー。まあ、いいかな」
「あっ……あ、ああっ……♡」

 本当はちゃんと顔を見て言って欲しかったけど、今日のところは許してあげよう。放心したように漏らした息の、甘ったるく溶けた語尾がかわいかったから。ぐちゃぐちゃのパンツを一気に下ろして、ついでにシャツの前も開けてやる。ちょっと前までは激しく抵抗してた敦郎くんも、今じゃ自分からやりやすいように脚を開いてくれる。健気でかわいい。俺の敦郎くんは、マジでかわいい。
 尻ポケットから鍵を取り出して、重たい貞操帯を外してあげた。銀塊がゴトリと床に落ちる。同時に敦郎くんのペニスが、跳ねるように勢いよく上向いた。

「ふふふ。元気ねー、敦郎くんのちんこ」
「あっ、は、ぁうっ、んんんッ♡♡」
「どうする? こっちでイッちゃう? いいよ別に、今日はこっちだけにしても」
「やっ、うぁっ、やぁっ、やらぁっ♡♡♡」

 俺の言葉が終わるより先に、敦郎くんがぶんぶんと首を振る。潤んだ瞳がすがるように俺を見上げる。ああ、ほんと、かわいい。

「やら、お尻っ……お、おまんこでして、おまんこがいいっ、おまんこでいきたいのっ!」
「ええ、マジでぇ?」
「んぅっ、らっへ、もうだめ、ぇうっ、ちんこじゃむりぃ……いけないの、もうおちんちん挿れてもらわなきゃいけないのぉっ!」
「っはは、やーばぁ。敦郎くんもう完全にオンナんなってんじゃん」
「んん、ぅんっ、いいっ、もぅっ、オンナでいいからぁっ! 俺亨二さんのオンナだからっ、だからはやくちんぽ入れてえっ!!」

 慎みのかけらもないセリフと一緒に、敦郎くんは穴を見せつけるように両手で尻たぶを開いた。喋るたびに口から涎が飛び散る。あーあ、はしたない。でもそんなふうに彼をはしたなくしたのは俺だ。そう実感するだけで心はもうお腹いっぱい。そしてもちろん、体の方はこれからが本番だ。
 俺が命じるまでもなく座面から浮いている敦郎くんの尻を、下から掬い上げるように鷲掴みした。まだギリギリ恥じらいが残ってるのか、今度は腕で顔を覆い隠した敦郎くんの、引き締まった腰は発情した犬みたいにへこへこと揺れている。指を滑らせた尻の谷間、縦に割れたアナルは溶けそうなくらいに柔らかくて、触れただけの指先を勝手に飲み込もうとしていた。

「あっは、いいじゃん。もうすっかりチンポ待ちって感じ?」
「あぅ、うん、早く、はやくぅっ♡」
「はいはい。じゃ、いくよ」

 濡れる機能は持たないそこにローションで滑りを補って、俺のちんこをひたりと押し当てた。入り口がひくひくと収縮している。ほんのちょっと力を込めるだけで、括約筋は呪文でも唱えられたようにあっさりと開き、俺のモノを自ら引き込むように受け入れ始める。

「あぁっ、は……、あぁー……っ♡♡♡」
「……っく、……っふふ」

 挿入に合わせて敦郎くんの口から漏れたのは、温泉にでも入ったみたいな幸福感に満ちた声。そうそう、それでいい。今の敦郎くんの幸せは、俺にちんこを入れてもらうこと。何度も囁いた教えがしっかり根づいているのがわかって、俺も嬉しい。
 陰毛を擦り付けるくらい深くまで挿れてから、かたちを馴染ませるようにしばらく静止する。奥までひくつく肉の筒は、こうしているだけでも充分すぎるほど気持ちいい。ぷっくり腫れた前立腺がとくんとくんと脈打って、俺のちんこも一緒にときめかせてくれる。

「あー……やっぱすっげ、気持ちいい。ねえ、敦郎くんも気持ちい?」
「はぁっ、んっんっいいっ、きもちいいぃっ♡」
「んふ、よかったぁ。じゃあもっときもちくしてあげる、ねっ」
「ああっ、あっあっあああっ♡♡♡ いいっ、いいいいぃっ♡♡♡」

 きゅんきゅんと吸いついてくる内壁を引き剥がし、腹の方に押しつけながらずりずりと引き抜いていく。先っぽが見えかけたあたりで動きを止めた。カリ首の凹凸に食い込むくらいきつく締まる括約筋が、加減を知らない処女みたいだ。そんなに俺のちんこが名残惜しいんだろうか。密かにほくそ笑みながら、抜き去りかけたモノを一気に押し込んだ。

「あぁ!? あっ、ひゅっ、あぅ、あぐぅっ!」
「そんなぎゅーってしなくても、ね、だいじょぶだいじょぶ、ちゃーんと突いてあげるから」
「はぅっ、あっ、いい、いいっ、おく、いいっ♡♡ ちんぽいい、きもちいい、おまんこきもちいいぃぃ♡♡♡」

 入れて、抜く。入れて、抜く。ねっちりと絡む肉を味わいながら、次第にテンポを上げて繰り返す。敦郎くんはみっともないアヘ顔を晒しながら、口の端から白い泡を吹いている。無様だ。かわいい。かわいいかわいいかわいいかわいい、俺の、俺だけの敦郎くん。

「はっ、あ、ね、敦郎くん……あし、ぎゅってして」
「ぅんぁっ、ふかい、深いのぉっ、んああぁっ♡」
「っは、あー……っ、やべ、もう、俺も出す、中に出すよ、敦郎くん、あつろーくん……っ!」
「あはぁんっ、来て、きて、きてぇっ♡ おまんこのいちばん奥に、あついのいっぱい出してぇっ♡♡♡」

 俺の腰に絡めた脚を引き寄せて、敦郎くんが自ら尻を押し付ける。じゅぶじゅぶという湿った音と、肉と肉のぶつかる乾いた音。子供を孕めるわけじゃない敦郎くんの体に、欲望の結果でしかない精液をたっぷり注ぐ。それって俺の自己満足以外の何物でもないけど、敦郎くんだって今は、望んでくれている。

「ふっ、くっ、敦郎くん、好き、あつろーくん……あつろーくんっ」
「ひぁ、はぁん、いいっ、あーいいぃっ♡ 亨二さんのちんぽすごいっ、ちんぽすき、ああっ、おちんぽきもちいいぃ♡♡♡」
「……っ、敦郎くんっ、あー出る、でるっ……受け取って……っ!」
「あ、あああ、ああぁぁあっ♡♡ いくっ、いく、いっくぅうんっ♡♡♡♡♡」

 脳の奥が白く染まった。お望み通りのいちばん奥に、どくどくと精液が送り出されていく。俺に絡む敦郎くんの手足が強張って、一瞬後にずるりとほどけた。

「……っ、はぁ……っ」
「あぁ……は、っ、でてる……っ♡」

 ふたりの腹に挟まれた敦郎くんのちんこから、とくとくと力なく白濁が漏れる。
 幸せいっぱいで迎えた絶頂の瞬間、なぜだか俺は、ちょっと前までの敦郎くんのことを思い出していた。





──小田巻亨二くん、だっけ。俺、嶋田敦郎。これからよろしくね。
──えっ、亨二もこのバンド好きなの? うそ。同じ趣味の人初めて会った。俺田舎だったしさ、周り誰も知らなくて。えー、嬉しいな。あ、じゃあさ、よかったら今度一緒に……。
──……うん? ああ、何でもない。いやほんと、気にしないで。うん。ただ……そうだな。……ごめん。もしかしたら今度のライブ、一緒に行けなくなるかもしれない。
──マジで、本気で言ってるの、それ? 本当に? ほんとに、ほんとにいいの? も、もちろん! するする、するよ、何でもする! うわ、もう、こんな……ありがとう。感謝してもしきれない、亨二は俺の一生の恩人だよ。ほんと……ありがとう。
──……何、それ。なんだよそれ……嘘だろ、冗談言うなよ。嫌かって……そ、そりゃそうだよ、おかしいよこんなの。おかしいだろ絶対。だってこんな、やり方……え、ちょっ、何!? うそ、おま、なにやってっ……!!

 うすい虹色をした敦郎くんとの思い出が、頭の中にいくつも、シャボン玉みたいにふわふわと浮かんでいる。だいぶ昔のことみたいにも、昨日のことにも思えるそれらの記憶は、ゆらめき歪みながら大きく膨れては、唐突にぱちんと弾けて消えていく。まるで走馬灯だ。死ぬのかな、俺。みっともないなあ、こんなカッコで。でもまあ敦郎くんと繋がったまま死ねるなら、それはそれで悪くはないか。
 薄れゆく意識の中で、けれどどうにか俺を繋ぎ止めてくれたのは、背中にしがみつく敦郎くんの細い腕だ。

「あつ、ろ、くん……?」

 うっすらと目を開く。敦郎くんは優しい夢の中に取り残されてるみたいな、純粋に幸福そうな笑みをまっすぐ俺に向けている。
 その唇が、微かに動いた。

「……きょ、……じ」
「……っ!」

 息が止まるかと思った。敦郎くんだ。俺が押しつけた恋人の呼び方じゃなくて、友達として俺を呼んでくれていたときの敦郎くんだ。思いがけず涙が出そうになる。昔のこわれてない敦郎くんが戻ってきて、俺を自分の意志で優しく抱きしめてくれてるみたいだ。
 もちろんそんなのは錯覚だ。昔と同じ呼び方だって、単純に語尾が消えたからそう聞こえたに過ぎない。だって俺は俺のことを抱きしめてもらうためだけに、自分の手で敦郎くんを壊したんだから。



 敦郎くんがここにいることは、俺以外の誰も知らない。エレベーターだって各戸別々の、プライバシー重視のマンションだ。警察が来たって名探偵を呼んだって、迷宮入り間違いなしって断言できる。
 ナイフもある。ロープもある。なんだったら現金だって束で用意してる。かわいそうな君が三年くらい汗水垂らしてもまるで追いつかない額だ。言うまでもなく、足もつかない。
 だから敦郎くん。もし君が本気でここから出ていきたいと思ったら、手段なんていくらでもあるんだよ。その手を取らないのは君の優しさか義理か真面目さか、それとも臆病さのせいかは知らないけれど。
 本当の理由がどうであれ、俺みたいな人間は都合よく、それは敦郎くんの愛ゆえだ、なんて解釈しちゃうから。あるいは君は知ってか知らずか、俺のどうしようもない思い込みを自ら促す行為に出てしまうから。
 やっぱり敦郎くんは、かわいそうだ。
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