最後のヤクザ~咆哮~

神子上

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 暴対法や暴排条例ができるかなり前。
 北九州市。
 製鉄業界とともに栄え、製鉄業界とともに沈んでいった都市。
 人口の減少が続いている中。何故か?ヤクザ渡世は活気があった。
 この都市には、2つのヤクザ組織があった。
 1つは、新興の組織で門司区に総本部を置く。構成人員約600名から成る2代目「岩田會」。
 もう1つが、戸畑区に総本部を置く。老舗の博徒団体で、構成人員約700有余名を抱える。5代目「花田一家」である。
 両組織とも、15年前は、死者・重軽傷者100名近く出す。大抗争を行い「九州の火薬庫」と言う負のイメージを持たれていたが、山口県下関市を中心に隠然たる力を持つ6代目「土門一家」総長。川谷拓三が仲裁の労を取り、両組織は5分の手打ちと相成り、今に至っている理由(わけ)である。

      2
 15年前の珍しくこの地方に大雪が、降った時の夜。
 門司区内のある料亭。
 その一室にいたのが、大物と言われた門司区及び小倉北区選出の市会議員を上座に初代「岩田會」会長の岩田源九郎が、議員2人に酌をして行き、
「先生方頼みますよ。」
と、懇願していた。
 その時である。部屋の外が騒がしくなった。
 岩田は、隣の間に控えていた会長秘書の石橋洋一に、顔で合図を送った。
 石橋は、頷き、同じ部屋に居た子分3人と様子を見に行った。
 「先生方。心配はありませんよ。」
と、岩田は、言って、酌をした。
 部屋の障子戸が開き、石橋が、
「会長。殴り込みです。」
と、言った瞬間、殴り込んだ男の放った銃弾の餌食になった。
 石橋は、二度と起き上がることはなかった。
 岩田の子分達が、必死に岩田や大物市会議員達を守ろうとしたが、無駄であった。
 男の銃弾で、帰らぬ人となった。
 残ったのが、岩田と大物市会議員だけであった。
 「お前。「花田一家」の人間だな?」
 「組とは関係ありませんよ。これは「私怨」です。」
男は、岩田が着物の袖から出した拳銃に気づき、岩田の腕ごと持っていた長ドスで、切り落とした。
 部屋中がひっくり返りそうな大騒ぎになる。
 「うるさい。この強欲ども。」
 岩田が叫んだ。と、同時に間髪入れず、男のドスが岩田を袈裟に切りつけた。
 岩田の返り血が、男の顔にかかる。
 そして、岩田は、二度と立ちあがることはなかった。
 男は、畳の上に、血のついたツバを吐き、助けを求める市会議員に対し、
「死ぬまでやってろ。」
と言い残し、部屋を出た。
 途中。「恐怖」におののいていた料亭の女将に、男は、
「迷惑かけました。これは、全部「私怨」でやったことなんで、勘弁してください。」
と、言って、頭を深々と下げ、料亭を出た。
 勿論。警察が待っていた。
 「お前。昌弘か?」
 「斎藤さんですか?定年前に御迷惑おかけします。」
男は、そう言って、持っていた銃刀類を斎藤の部下の刑事に渡し、   両腕を大人しく差し出した。
 斎藤は、何の迷いも無く、男の両腕に手錠をかけた。
 そして、部下に男を預け、自分は、料亭の中に入って行った。
 男を乗せたパトカーが、強烈なサイレンを鳴らしながら、走り去って行った。
 斎藤は、それを見送りながら、
「茨道よ。昌弘。」
と、言った。

       3
 裁判所。
 法廷。
 傍聴席には、料亭に殴り込んだ男の舎弟もいた。
 被告人の男が、大人しく入って来た。
 裁判長が入って来た。
 被告人の男も含め、全員が起立し、一礼し、着席した。
 「これより開廷します。」
 裁判長は、
「判決理由は、後回しにして、主文を先に読み上げます。」
と、言った。
 法廷に緊張が走る。
 「主文。被告。藤野昌弘を懲役15年6月とする。」
 被告。藤野昌弘は、ホッとした表情になった。
 裁判長が、判決理由を述べようとした時、昌弘は、
「裁判長さん。悪いが判決理由なんてどうでもいいですよ。この事件は組どうしの事件じゃなくて、あくまで自分の「私怨」ですので、控訴もしません。上告もしません。裁判長さんの判決文で、俺は十分です。本当にありがとうございました。このまま閉廷にしてください。」
叫んだ。
 裁判官3人が話し合う。
 3~4分後。
 「解かりました。貴方の言う通りにしましょう。身体だけは、気を付けてくださいね。」
 「ありがとうございます。その言葉。胸に刻みつけておきます。」
 「これにて閉廷にいたします。」
 昌弘は、何も言わず獄に着いた。
 
       4
 5代目「花田一家」若頭補佐。藤野昌弘は、「花田一家」のお膝元。戸畑区のとある食堂の一人息子として、生を受けた。









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