神と遊戯の勇者と魔王

もりもり

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第三話 洞窟での戦闘

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 俺は倒れた二体のオークを見つめ、上手く奇襲が成功した事に安堵する。

 一体目のオークに使った、刺さった剣から空気を流し込み、内側から破裂させる殺し方は俺のよく使う手だ。

 武器を伝って魔法を使用する技術はあまり広まっていない。
 付加魔法ならともかく、自分の身体ではない物に魔力を流すのは、相当の技術と魔力が必要になるからだ。
 例え出来たとしても、大量の魔力を流された武器は負荷が大きく、長くは持たない。

 その為、大金をかけて腕利きのドアーフに依頼し、自分の魔力の波長に合わせた武器を作るか、魔装をメインとして戦う人ぐらいにしか使われない技術だ。

 例外を言うなら、自分の専用武器である神器を持つ勇者ぐらいか。
 だから魔人族でも使える者は少ないだろう。

「……さて」

 入口から洞窟の奥を覗く。
 青白く光る通路の奥から、他のオークが近づいてくる気配はない。
 まだ自分の存在は気づかれていないだろう。
 他のオークもこの調子で仕留められればいいのだが。
 俺は、どうかばったりオークとでくわしませんようにと祈りながら洞窟に入った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 おかしい。
 この洞窟は絶対おかしい。

 もう何時間下に降り続けてるだろう。
 ずっと青白く光る通路が続くばかりなので、もしかしたら大して時間が経っていないのかもしれないし、思ったより長時間歩いてるのかもしれない。
 なだらかだが延々と下に続いている通路は、人間は勿論オークが通れるほど広い。

 入口にオークが居た事から中にも居るのは間違い筈だが、本当に住み着く為にこんな所に来たのだろうか。

 長い間、冒険者として魔族の巣を潰して来た俺でも、この様な洞窟は見たことがない。
 横穴も無く、ただひたすら一本道で降るだけのこの洞窟は気味が悪くて仕方がない。

 嫌な予感がして、引き返したい欲求に駆られた時、奥に通路より一際明るく光る空間が見えた。

 奥の空間には、オークらしき影が三つ、近くに身を潜めると話し声が聞こえてきた。

「隊長、これが目的の物ですか?」
「ああ。魔王様のおっしゃる通りだった。まさか本当に存在するとは……」

 隊長と呼ばれたオークは、他のオークよりも一回り大きく、特徴的な腹がより膨らんでいる。

 ていうか、今魔王って言ったか?
 “七人居る”魔王の内、どの魔王に仕えてるのか分からないが、魔王がこんな場所に何の目的で……。

「どいてもらえるかしら」

 突然、背後から掛けられた声に、俺とオーク達は全く気が付かなかった。
 オークは振り向き、俺は全力で隠れた。
 ……いや、ほんともう全力で。

 幸い、オーク達は気付かなかったようだ。
 俺は恐る恐る振り返り、声の正体を探した。
 ーー少女だ。
 顔は暗くてよく見えないが、こんな所に高価そうなドレスに身を包んだ小柄な少女がそこにいた。

 一瞬、少女の紅い瞳が俺を捉えたが、直ぐ興味をなくしたように逸らし、少女は歩き出した。

 少女が見つめているのは、オークが先程まで囲んでいたこの空間の中心。
 そこにあるのはただ光る穴。
 穴から漏れ出した青白い光は、通路の光よりも強い。
 中に何があるのか、俺がいる位置からは見ることができない。

「嬢ちゃんよ。悪いがここは魔王軍のオレ達が頂いたんだわ。残念だが……て、おい!」

 ……無視である。
 少女は隊長と呼ばれていたオークを完全に無視し、スタスタと穴に向かって歩いていく。
 まるで眼中にないかのようなその態度は、オーク達を怒らせるには十分だった。

「テメェ。隊長を無視してんじゃねーよ!」

 怒ったオークの一人が、少女に向かって大きな腕を振り上げる。
 しかし、その腕は降ろされることなく、オークは内側から破裂し息絶えた。

「は?」
 
 オークの一人が、素っ頓狂な声をあげた。

 多分、癖になってしまっていたのだと思う。
 少なくともこの行動に、少女を守る為だとか、そんな考えは一切なかったことは断言できる。
 まぁ、こんな場所にいる時点でただの少女ではないのだろうが……。

 正面からの戦闘を避けて、不意打ちによる決着を繰り返していた俺にとって、目の前のオークが行なった行為はあまりに隙だらけだったのだ。
 目の前の敵が全て少女に意識をとられた状況で、俺には様子見という選択肢はなかった。

 同胞の肉片が飛び散る。
 その様子を見て一瞬固まったオーク二体に向かって俺は剣を持っていない方の腕を振るった。

 指先から圧縮された水が放出され、部屋の壁にガリガリと傷をつけながらオークに迫る。

「グァ!」

 一体目のオークの首が、まるで鋭い刃物に切られたようにスパンと切り飛ばされた。
 しかし、二体目のオークは咄嗟に身体を伏せて水の刃から逃れた。

 躱しやがった。
 やはりというべきか、魔法を避けたのは隊長と呼ばれていたオークだ。
 奇襲が躱されたことで、今度は俺が不利な状況になる。

「テメェ!」

 隊長オークの右腕がバチバチと帯電し、雷が放たれた。
 強い光が部屋中を照らし、初めて俺と隊長オークはお互いの姿をハッキリと視認する。

 魔力で作られた雷や水、炎などは本来のものと同じ性質を持ってはいるが、それは全て使用者本人が操れるレベルに制御されている。
 自身の持つ耐性を超える威力の魔法を使えば、使用者本人すらダメージを受けてしまうからだ。

 魔力制御が苦手である魔族の、それも下位、中位の魔族が使う魔法はシンプルだ。
 力の放出。ただそれだけである。
 しかし、単純な魔法式であるということは、一つ一つの魔法に込められる魔力が高くなるということだ。

 巨大な雷が迫る。
 俺は瞬時に氷の剣を変化させ、氷の盾を生成した。
 正面から受ければ、いくら盾で防いでも衝撃で吹き飛ばされるだろう。
 だから俺は盾を斜めに構える。

「……ッ!」

 雷は受け流され、通路を伝い上へ上へと登っていく。
 鈍い衝撃が両手に伝わるが、動かせなくなる程ではない。
 俺は再び盾を剣に変化させ、風魔法による突風を推進力として一気に距離を詰めた。

 狙うのは隊長オークの喉元。
 魔法を放つ為に腕を振り切った状態でこの攻撃は躱せない筈……。

ガギィッ

 斬りつけた剣から嫌な音が聞こえた。
 手元を見る。

 喉を切り裂く筈だった剣は、隊長オークの口を少し切るだけにとどまり、その刀身は隊長オークの分厚い歯によって止められたのだ。
 ニヤリと、口で剣を止めた隊長オークが勝ち誇ったように笑い、腕を振り上げる。

「ばーか」

 俺は慌てることなく魔装を解除し、氷の剣を水に戻した。

 ピシャッと水が隊長オークの顔にかかる。
 別の魔法式を込められた水はどんどん増え、隊長オークの顔を覆いだす。

「グボッ⁉︎ プハァ!」

 流石と言うべきか、隊長オークは水が完全に顔を覆う前に大きく跳びのき脱出した。

 奇襲を躱され、剣も止められた。
 お互いに正面から向き合うこの状況は、俺が最も苦手とする状態だ。
 だが俺に焦りはない。

 ーーもう終わったからだ。

「グアアアァッ⁉︎」

 隊長オークが絶叫を上げる。
 隊長オークの身体から突如、氷の剣が生えてきたのだ。
 いや、正確には先程体内に侵入した俺の魔力を宿した水が、再び氷となり内側から隊長オークの身体を突き破ったのだが。

 二本、三本と氷の剣が次々と身体を貫き、やがて花の様に咲き乱れ砕け散った。
 隊長オークは既に肉塊となり、その血は床一面に広がっている。

 これで問題はあと一つ。

「じゃれ合いは終わったかしら」

 隊長オークとの戦いを終えて、一息ついた俺に、少女がさして興味もなさげに話しかけてきた。
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