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とある少女の告白
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私は間違いを犯した。
自分でも、何故そうしたのか分からない。
大好きだったお父様。
そして友人である“彼女”が“神を自称する者”に殺されてから約千年。
残ったのはこの小さな世界と、なんでも言うことを聞く執事が一人。
不老に近い寿命を持つ私達の種族は、千年経とうが見た目にそれほどの変化はない。
大切だった人を一度に失った私は、その間ただ無気力に過ごしていた。
どんな命令も、どんな暴言も、澄まし顔で受け流し、まるで腫れ物を扱うように私に仕える執事。
大切にされているのはわかる。
だけど、彼が私に仕えているのはお父様に忠誠を誓っていたからだ。
彼は私に、お父様のような振る舞いを求めているのだと思う。
この世界で……私は一人だ。
千年の長い年月は、私から感情を奪うのに充分な時間だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
昔は外の世界を見るのが好きだった。
人族や魔族が、まるで出来の悪い物語のように生活している。
私は理由があって、外の世界に干渉出来ない。
けれど結末の見えない物語は、見ているだけで楽しむことができた。
しかし、今はもう人族と魔族の物語を楽しむことは出来ない。
ーーー『災禍の魔獣』
破壊の化身。
憎っくき神の創造物。
そして大切だった人。
私にも苦々しい記憶を残すこの生き物は、ある時代では勇者を殺し、またある時代では魔王を喰らった。
完璧であった筈の物語は『災禍の魔獣』というイレギュラーによって荒らされ、勇者や魔王は繰り返す代替わりに不具合が生じたのか、時代毎に数を増やしていった。
その頃から私は、世界の仕組みが大きく狂い始めたのを感じた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
私は『災禍の魔獣』を倒す為の手段を探した。
あの生き物を突き動かすのは計り知れない憎しみや怒りの感情だ。
解放してあげたかった。
『災禍の魔獣』は“神を自称する者”の手によって世界の理から外れた生き物だ。
だから“私でも”干渉できる。
しかし、世界中に無数に存在する歪みを行き来する『災禍の魔獣』は捕捉すら困難だ。
だから歪みから塞ぐことにした。
そんな矢先だ。彼に出会ったのは。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
歪みを塞ぐことは、空間魔法を使える私にしか出来ない。
千里眼で探して、人目につかないように歪みを塞ぐ。
その過程で、『災禍の魔獣』の眷属と遭遇することは多々あった。
厄介な相手ではあるが、一人であればいくらでも逃げられる。
だが、彼は勇者だった。
決して優秀と呼べるような力が無いことは、魔眼を通して直ぐにわかった。
しかし、勇者は世界に欠かせない存在だ。
だから、彼を逃がそうと考えた。
空間魔法で地上まで飛ばすか、時間を稼いで自力で脱出してもらおうかと考えた時、彼は私の前に出た。
その行動に、私は驚きを隠せなかった。
“勇者が魔族を守ろうとする”なんて、まるで“彼女”のようで、勇者が取るべき行動からかけ離れた行いだからだ。
結果、彼は致命傷を負った。
片目と腕を失い、腹から内臓をぶちまけられた。
あまりに呆気なく、抵抗の余地もなかった。
当然の結果だ。神器も持たない勇者が、『災禍の魔獣』の眷属に勝てるわけもない。
私は彼を自分の世界に飛ばした。
通常の治癒魔法では間に合わないことは明白だった。
ーー馬鹿な男。
恐怖に身を震わせていたくせに、私が敵である魔族だと知っているにも関わらず助けようとするなんて。
本当に馬鹿で、お人好しで、無茶苦茶なことをする。
そんな姿がどうしても“彼女”と被ってしまって……。
私は彼を助けた。
それが間違いだと知っていた筈なのに。
この方法では、彼の結末がどうなるかわかっていた筈なのに。
私は間違いを犯した。
自分でも、何故そうしたのか分からない。
大好きだったお父様。
そして友人である“彼女”が“神を自称する者”に殺されてから約千年。
残ったのはこの小さな世界と、なんでも言うことを聞く執事が一人。
不老に近い寿命を持つ私達の種族は、千年経とうが見た目にそれほどの変化はない。
大切だった人を一度に失った私は、その間ただ無気力に過ごしていた。
どんな命令も、どんな暴言も、澄まし顔で受け流し、まるで腫れ物を扱うように私に仕える執事。
大切にされているのはわかる。
だけど、彼が私に仕えているのはお父様に忠誠を誓っていたからだ。
彼は私に、お父様のような振る舞いを求めているのだと思う。
この世界で……私は一人だ。
千年の長い年月は、私から感情を奪うのに充分な時間だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
昔は外の世界を見るのが好きだった。
人族や魔族が、まるで出来の悪い物語のように生活している。
私は理由があって、外の世界に干渉出来ない。
けれど結末の見えない物語は、見ているだけで楽しむことができた。
しかし、今はもう人族と魔族の物語を楽しむことは出来ない。
ーーー『災禍の魔獣』
破壊の化身。
憎っくき神の創造物。
そして大切だった人。
私にも苦々しい記憶を残すこの生き物は、ある時代では勇者を殺し、またある時代では魔王を喰らった。
完璧であった筈の物語は『災禍の魔獣』というイレギュラーによって荒らされ、勇者や魔王は繰り返す代替わりに不具合が生じたのか、時代毎に数を増やしていった。
その頃から私は、世界の仕組みが大きく狂い始めたのを感じた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
私は『災禍の魔獣』を倒す為の手段を探した。
あの生き物を突き動かすのは計り知れない憎しみや怒りの感情だ。
解放してあげたかった。
『災禍の魔獣』は“神を自称する者”の手によって世界の理から外れた生き物だ。
だから“私でも”干渉できる。
しかし、世界中に無数に存在する歪みを行き来する『災禍の魔獣』は捕捉すら困難だ。
だから歪みから塞ぐことにした。
そんな矢先だ。彼に出会ったのは。
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歪みを塞ぐことは、空間魔法を使える私にしか出来ない。
千里眼で探して、人目につかないように歪みを塞ぐ。
その過程で、『災禍の魔獣』の眷属と遭遇することは多々あった。
厄介な相手ではあるが、一人であればいくらでも逃げられる。
だが、彼は勇者だった。
決して優秀と呼べるような力が無いことは、魔眼を通して直ぐにわかった。
しかし、勇者は世界に欠かせない存在だ。
だから、彼を逃がそうと考えた。
空間魔法で地上まで飛ばすか、時間を稼いで自力で脱出してもらおうかと考えた時、彼は私の前に出た。
その行動に、私は驚きを隠せなかった。
“勇者が魔族を守ろうとする”なんて、まるで“彼女”のようで、勇者が取るべき行動からかけ離れた行いだからだ。
結果、彼は致命傷を負った。
片目と腕を失い、腹から内臓をぶちまけられた。
あまりに呆気なく、抵抗の余地もなかった。
当然の結果だ。神器も持たない勇者が、『災禍の魔獣』の眷属に勝てるわけもない。
私は彼を自分の世界に飛ばした。
通常の治癒魔法では間に合わないことは明白だった。
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本当に馬鹿で、お人好しで、無茶苦茶なことをする。
そんな姿がどうしても“彼女”と被ってしまって……。
私は彼を助けた。
それが間違いだと知っていた筈なのに。
この方法では、彼の結末がどうなるかわかっていた筈なのに。
私は間違いを犯した。
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