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第二話・メシ(爬虫類)の時間ですよ!

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 ジーナは背負っているバッグの中から、チェック柄の敷物を取り出し地面に広げた。

「さすがジーナ! 準備がいいな!」

「でしょー?」

 勇者とジーナは早速敷物の上に座る。

「お弁当もあるんだよー。飲み物は自分のやつでね」

 バッグから取り出した袋の中には、丸いバンズのサンドイッチと唐揚げが入っていた。
 紙に包まれているが、油が染み出しているのが切ない。
 しかしこれらを三人分並べてみると、かなりピクニックらしい雰囲気になった。
 
 モンスターが潜むダンジョンの前にいることを忘れそうだ。

「えぇ?……何でそんなに準備がいいんですか?」

「メイソンも座りなよ!」

「はぁ……」

 ジーナに言われ、敷物に座ってみる。
 当初の目的と違いすぎて抵抗があったが、こうしてみると意外に落ち着く。

 木々が風で揺れる音や、少し遠くで鳥のさえずりも聞こえる。

「……まあ、ちょうど疲れてたし。たまにはこういうのもいいかもしれませんね」

「でしょ?」
 
 やはり得意げなジーナが言う。

「うまいな! この唐揚げ!」

 ギャヴィンはいきなり肉から手を付けている。

「でしょ? 定番のワイバーン肉を、特製のタレに漬け込んで揚げたんだよ」

「ゲテモノじゃないですか」
 
 どうやら爬虫類系のモンスターの肉が原料らしい。
 メイソンは『海賊のスキルでよくそんな空の大物を捕獲できたな』と思ったが、普通に店で買ったという線もありえる。
 どっちにしても食欲がわかない一品だ。

「いや、本当にうまいぞ。お前も食べてみろ」
 
 ギャヴィンが手づかみで差し出す。
 彼の手はすでに油まみれだ。

「いや、自分の分あるからいいです」

「食べるんだね!?」

 ジーナが期待のまなざしで見つめている。

「…………」

 海賊とはいえ若い女子に期待されては、食べないわけにもいかない。
 ピックが刺さっている唐揚げ(爬虫類)を取り、震えまくる手で何とか口まで運ぶ。

 ――こんなもん絶対生臭いだろ……!

 口に入れた瞬間吐き出すかもしれない。
 しかし一口くらいは頑張らなくては。

 そう思いながら、控えめに肉をかじる。

 カリッ……

「――……!」

 予想に反し、香ばしい味わいが口の中に広がる。
 
 ――いや、でも後からくる系かもしれないぞ。

 世の中には、遅れて臭みや辛味がやってくる部類の料理もある。
 用心深く、ゆっくりと噛む。

 しかし、驚くほどクセがなく、それでいて噛むほどに肉の味わいがにじみ出るのだ。

「何だこれは……! 一口でわかる衣の香ばしさ、後から来る肉のうまみ……。臭みは消えているのに、素材の味は死んでいない……なぜだ? タレか? 衣に染み込んだ芳醇なタレに秘密があるのか……?」

 これまで食べた唐揚げの中で、一二を争う美味しさだった。
 ちなみに一二を争っているもう一つは、お母さんが作った唐揚げである。

「よくわかんないけどおいしいってことだね?」

「魔法が使える上に食レポもできるのかー。さすがだな」

 二人の声で、メイソンはハッと我に返る。

「べ、別に……! 美味しいは美味しいですけど料理を褒めたのであってあなたのことを褒めたわけじゃ……!」

「おいしいってことだね! やった!」

「…………」

 誉め言葉と受け取ったらしく、ジーナは手を叩いて喜んでいる。

「……さっさとこれ食べて帰りましょう」

 メイソンは二つ目の唐揚げをピックで刺した。

「……む?」

 サンドイッチの包みを開けていたギャヴィンが、突然動きを止める。

「どうしました?」

 耳を澄ますと、足音が近づいてくるのがわかった。
 ほどなくして、近くの茂みから一組の男女が現れた。

「はぁー、やっと道に出たよ……っと、お?」
 
 出てきた二人と目が合う。
 目つきの悪い男は腰に剣を下げていて、女の方は若い――というか、せいぜい10歳くらいの子供だった。
 金色の二つの三つ編みを輪にして、リボンで止めている。
 黒いワンピースと杖の装備から察するに、魔導士なのだろう。

 つまりは別のパーティーと遭遇したようだった。
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