ダンジョンがお休みだったのでここでピクニックをします

成川十

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第三話・ダンジョンの前でご飯を食べるのはマナー違反です

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「えっ、この人たちごはん食べてるー。いいなー」
 
 幼……少女が羨ましそうな目で見ている。
 ギャヴィンは包みを開けたばかりのサンドイッチを見て悩むが、そっと自分の背後に隠した。

「はいはい羨ましがらない。ごはんならさっき食べただろうが」

「メシマズー」

 少女は舌を出して、大げさにマズそうな顔を作った。

「マズくて悪かったな!!」

 その態度に勇者Aは気分を害したようだ。
 

「ねぇねぇあの人たち何で茂みから出てきたのかな?」

「迷ったんじゃないか?」

「でも大きい道は一本だったよね? たまに看板あったし」

「方向音痴ってやつですよ。それか変な好奇心出して脇道にでも入ったんでしょう」


「おい聞こえてんぞ」
 
 三人はひそひそと話したが、大自然の中で気が大きくなっていたせいか、思い切り本人に聞こえていた。

「俺のせいじゃねぇよ。こいつがどっか行ったせいで探すはめになって、気付いたら迷ってただけだ」

「嘘だぁー。私おトイレに行ってただけでちゃんと戻ってきたもん。そしたら子犬がいたとか言って追いかけてるから……」

「あーあー聞こえねぇーなぁー!」

 勇者Aは自分の耳をふさいで大声で言い、聞こえないふりをした。

「えっ、あの人何で嘘ついたの?」

「多分、恥ずかしかったんじゃないか? でも小さい女の子のせいにするのは卑怯だな」

「ロリコンのくせに優しいわけでもないんですね……ゲスの匂いがします」

 もはや普通の音量で会話していた。

「お前ら初対面で悪口言い過ぎだろ!! どんだけ性格歪んでんだよ!?」

 勇者Aはますます怒り出す。
 
「あ、ここにダンジョンがあるよー」

 少女は今になってダンジョンを見つけ、入口を指さした。

「自由だなお前……ん? ダンジョンがあるじゃねーか。ラッキーだな」

 勇者Aはダンジョンを見て自分の幸運を喜んでいる様子だった。

「ええっ!? ダンジョンを攻略しに来たわけじゃないんですか? じゃあ一体何のためにこんな山道を……?」

 メイソンは衝撃を受け、ドン引きするあまり青ざめた顔になる。
 まさか好き好んで山を登っていたとでも言うのだろうか。

「何でもいいだろ! いちいち気に触る奴らだな! ……おい、ところでお前ら何でダンジョンの前で飯食ってるんだよ」

「…………」

 今更な質問に、三人は黙り込む。

「えーっと……たしか……」
 
 ジーナは何か言おうとする。
 しかし言い終わるのを待たずに、

「他のパーティーに迷惑だろうが!!」

 勇者Aが三人を指さして言った。

「え。迷惑? 迷惑なのかな?」

「いや大丈夫でしょう。あの人たち以外のパーティー見てませんし」

「そうだな……いや、でも山のルールはよく知らないしもしかしたらそういう決まりがあるのかも」

 迷惑と言われて、相談をはじめる三人。

「いいや迷惑だ! ダンジョンの前で飯を広げるなんぞ、店の前でたむろってるのと同じだぜ! 明らかにマナー違反だし、営業妨害だ!!」

 力説する勇者A。
 その言葉には不思議な説得力があった。

「ああ……ここでピクニックしちゃいけなかったんだ……」

 自分の行いを後悔し、ジーナは涙目になった。
 二人はその姿を哀れに思ったが、勇者Aは勝ち誇った顔で見ている。

「そうは言っても今日は休……――」

「そうだな! じゃあもうちょっとあっちの方でやろうか!」

 メイソンが助け舟を出そうとしたが、ギャヴィンが大声で遮った。
 ギャヴィンは二人を乗せたまま敷物を引きずっていく。

「へっ。わかりゃいいんだよ。お前らも勉強になったな」

 勇者Aは遠ざかる三人に向かって捨て台詞を吐いた。
 
「ねー早くダンジョン入ろうよー」

「おう。そうだったな。せっかくだから稼いでいかないとな」

 少女とともに、ダンジョンの中に入って行った。

 ギャヴィンは先ほどより少し離れた場所で敷物を引きずるのをやめ、座りなおした。
 
「このへんでいいか」

「ねー私靴置いてきちゃった」

 泣いていたジーナが顔を上げ、靴がないことに気付く。
 彼女だけ靴を脱いで座っていたため、元いた場所にサンダルが置き去りになっていた。

「よし。取ってくる」

 ギャヴィンが再び立ち上がり、サンダルを取りに行く。

「何だと!?」

 サンダルを拾い上げたとき、ダンジョンの中から勇者Aの声が聞こえた。

 それからすぐに、勇者Aがダンジョンから速足で出てきた。

「待ってよー」

 少女が後からついてくる。


「おい!! ダンジョン休みじゃねーか!!」

 勇者Aはギャヴィンに怒鳴りつけた。

「休みだがそれがどうした?」
 
 平然と返すギャヴィン。

「何で教えてくれねーんだよ!! モンスターいっぱいいると思って期待したじゃねーか!!」

「ははは、期待したのか。……――ざまあみろ」

 ギャヴィンは穏やかな笑顔で言った。

「こいつムカつく――!!」

 はらわたが煮えくり返っている勇者Aを、少女は面倒くさそうな顔で見上げていた。
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