ゴルゴーンロンド

2章 夜見のパーティー

16話 地下牢

　やばい。殺される。仮面があるし魔眼の石化がうまく作用するかわからない。どうしたら…
「アタシのために死んでねぇ？」
　リリンが僕のドレスを長く鋭い爪で裂く。さらば、我が人生。叶うことならまたマスターのオムライスが食べたい…。
「ちょっと、アンタ…騙したわね？」
　リリンの爪が止まる。
「えっ？」
「男じゃないのよ！！！ありえないんだけどぉ！！」
　ガッと襟首を捕まれる。首が絞まって苦しい。
「も～っ！この前といい今日といいとんだ検討違い！！いいもん。アンタ、エリちゃんの餌にしてやるんだからね」
　エリちゃん？エリちゃんてなんだ。リリンがドレッサーの机の上にある何かのスイッチを押す。ガパンッと床が音をたてて開いた。
「うわっ!?」
「ばいば～い？」
　落ちる落ちる落ちる！！どこまで落ちるんだこれ！と、思っていると水面に直撃する。
「あばばば」
　臭い水。たぶん下水だろう。口に入れたくなくてもがく。すると体の下にするりと小さい生き物が入ってきた。
「うわっ！」
「大人しくしてな。助けてやるから」
　女の子だ。それもとても小さい。泳ぎがうまくて、僕を担いでいてもスイスイと地面まで泳いでしまった。
「リリンにおとされたんだろ？」
「そ…そう…。ゲホッ…君は…？」
　女の子は手慣れた様子で服を絞っている。
「私はユリィ。三日くらい前にここに落とされた」
「へぇ…僕はローレン。今落とされた。ユリィはなんで落とされたの？」
「リリンの持ってる皮を解放しようとした」
　皮ってあの、少女達の皮か。なぜ、というか解放とはどういうことだろう？
「あの皮はまだ生きてる。私はわかる。この目のお陰で」
　少女が目を開くと、トルファトーレの似顔絵の眼の輝きによく似ていた。
「この眼って」
　僕の義眼に良く似ている。色は僕の真っ赤な眼と違い夜空のような深い藍色だが。
「死神の眼。私は命が見える。私を拾った奴はこれが必要だから今ごろ必死に探してるだろうね」
「それって、トルファトーレ？」
「あのイカサマ狐のこと知ってるの？じゃあはやく縁切った方がいいよ。とんだペテン師だし。この屋敷にも、とある獲物狙いで泥棒に入ったんだ。で、私があの皮を見つけて、解放しようとしたらリリンに落とされた。皮にされるよりましさね。あいつは私を見捨てたんだよ」
　フンッと鼻を鳴らしてすする。暗くて良く見えないが、涙ぐんでいるようだった。
「そんなことないと思うけどなぁ」
「トルのこと全然わかってな…きた！走って！」
　ユリィが僕の腕を引いて走り出した。奥の下水から何かのうなり声が地響きになって聞こえる。
「エリちゃんだ！」