ゴルゴーンロンド

狸屋アキ

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2章 夜見のパーティー

17話 エリちゃん

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「な、なんだあれ!」
 僕らをドスドスと派手な足音で追い立てるのは、八本足の大きな鰐だった。
「落ちる前にリリンが言ってたろ!あれが、リリンのペット、エリちゃんことエリザベス6世だ!」
 グワオォォォッと身の毛もよだつ鳴き声付きである。
「おいっ、お前足遅いっ!速く走らないと…キャッ!」
 ユリィが女の子のような声をあげて倒れ混んだ。膝を擦りむいている。エリちゃんはどんどん距離を詰めてくる。
「置いてけ!私はいいから!」
 ユリィはそう叫ぶが、体が震えている。こんな小さい子を置き去りにしたら、バーのみんなに何て言われるか。それに、僕自身を助けてくれたユリィを見殺しに何てできない。覚悟を決め、ユリィをおぶる。
「ばか!やめろよ!ただでさえお前遅いのに…!」
「大丈夫だよ。バーではもっと重いもん運んでたんだから…!」
 ユリィをおぶって走り出す。しかし、エリちゃんは巨体のわりに動きがとんでもなく早い。
「うっ、ふっ、っ」
「もういい!降ろせ!トルに私は死んだと伝えろ!」
「いや、だ。トルファ、トーレから、君を、見つけて、くれって、言われたんだ」
 どんどん足音が近くなってくる。僕の足ではすぐに追い詰められるだろう。いちか、バチかだ。仮面を剥ぎ取り、エリちゃんに向かい合う。
「頼むっ、言うこと、聞いてくれ…!」
 真っ直ぐにエリちゃんを睨む。
「ウグォアアゥゥオオッ!!」
 唸り声をあげ、突進してくる。石化の兆候は見られない。しまった、失敗だー。僕のせいで、ユリィが…。ユリィを庇い、抱き込む形で守る。目を瞑る。僕のせいで、僕のせいでー
「う、ろーれん、ダイジョうぶ?」
 聞き覚えのある声。と、うううと金属の震える音。
「ディーバ…!?」
 いつものようなドレス姿ではない、仮面を被り髪をひとつにひっつめたディーバがチェーンソーでエリちゃんの口が閉じないように防いでいた。
「ご、めん。遅く、なった」
「ディ~~バ~~…」
 先程の緊張が解けたせいで、じんわりと目頭が熱くなる。
「泣いてる暇ないぞ、ろーれん!」
 ぷはっと僕の腕からユリィが顔を出す。言葉通り、ズリズリとエリちゃんに圧されてディーバが下がってきている。
「ディ、」
「ダイジョブ。みてテ」
 ガッとエリちゃんを弾くと、見事な手捌きでディーバがチェーンソーでエリちゃんの足、腹、尻尾と三枚おろしみたいに捌いていく。血が雨のように降る。
「すっげ」
 思わずユリィと声が合わさる程度に呆気にとられる。
「よかっタ、まに、あって」
「ディーバが来なかったら俺たち…」
 と、いいかけるがそれと同時に天井がミシリと音をたてて砕けた。
「うわ…ダビデ!?」
 落ちてきたのは、ナイフでリリンと戦うダビデだった。
「あっはぁ!殺してやるからねぇ!」
 リリンの声が、地下にこだまする。
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