白面は紫黒の猫と共に ~怪盗キャスパリーグ、かく盗めり~

夏冬春日

文字の大きさ
1 / 16
Episode.00 プロローグ/蒼のメリクリウス

File.01

しおりを挟む
コンテスト用に書き上げた小説です。
とりあえずの完結は2章全16話になります。
1話当たりは3000~5000字程度です。

それではよろしくお願いします。

――――――――――――――――――――――――――――――――――
 1月28日 23時40分 三居土博物館前


 夜。大通りの街頭テレビジョンに大写しされているのは小高い山にある一つの博物館だ。
 城の跡地にあるそれは、桜の見頃になると大いに賑わう場所ではあるのだが、まだ寒い時期、しかも夜となると人の来ない真っ暗闇であるはずだった。
 だが、もう日も変わろうとする時間だというのに博物館の周りには人がひしめいている。
 とは言えそれもある一定線までだ。博物館のそばには警察による規制線が張られ、一定以上には近づけないようになっている。
 それをカメラで捉えながらリポーターはしゃべっていた。

「はい、こちらが快盗キャスパリーグによる犯行予告のありました三居土博物館になります。ご存じの通り快盗は予告時刻の前後一時間以内に警察の前に姿を現さなければならないと、快盗法により定められています。ですがまだその兆候は見られません。警察も特にこれと言った動きを見せていないようです。また何かありましたら連絡します」

 カメラがスタジオに切り替わり、キャスターの姿が映し出された。

「ありがとうございます。それでは博物館の方で動きがあるまでの間、番組の入手した予告状について検証していきましょう」

 そうキャスターが言うと画面に一枚の紙が映し出された。そこにはこう書かれてある。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 28日、中天に月輝く時
 三居土博物館、青のメリクリウスを頂きに参上する

 快盗キャスパリーグ

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「なんとも簡素な予告状ですね」

 そんなキャスターのつぶやきにコメンテーターの一人が返す。

「とは言え快盗法で定められている予告義務は、日時・場所・物品の三つですから、条件は満たしていると言えますね」
「ですが、最近は謎解き要素の入った快盗予告がトレンドですので、それに比べるとキャスパリーグの予告状はシンプルすぎると言えるのではないでしょうか」

「いやいや、昨今は謎解き要素に凝りすぎて、場所の指定が曖昧だったり候補がいくつもある物もあるじゃないですか。ああいうのはいかがなものかと思うんですよ」
「それは確かに……。確か先日の事件では犯行時間の指定が誤っていたとされ予告義務を果たしていないと見なされて、現行犯外での逮捕をされた快盗がいましたね。ですがとなると、このキャスパリーグの予告状における時刻、『中天に月輝く時』というのは少し曖昧なのではないかという話しも……」

 キャスターの言葉にコメンテーターはふむと頷く。

「その件につきましては明確に時間が決まってますね。満月の場合の南中時刻は午前0時になります。28日の月齢は14.9ですのでそれよりも少しだけ前の時間。ちょうど今くらいの時間になります」
「ははぁ、なるほど……。ちなみにそのキャスパリーグが狙う【蒼のメリクリウス】とはどのような物なのでしょう」

「今はないヨーロッパのとある小国。その王笏、特にそのクラウンジュエルことを【蒼のメリクリウス】と言います」
「あ、これのことですね」

 画面が切り替わり翼と蛇の意匠を施された短杖を映し出す。その先端には紫紺の石がはまっている。

「これが【蒼のメリクリウス】ですか……。紺色の中にキラキラと輝きが見えて、まるで夜空みたいですね」
「ははは、確かに。ですがそれはアイオライトサンストーンと言って宝石としての価値はさほど高い訳では――」

 唐突に画面が切り替わる。映し出されたのは三居土博物館。傍らでリポーターが慌てた様子で画面に向けて語りかける。

「――皆様、現れました。快盗キャスパリーグです! 屋上をご覧ください。快盗キャスパリーグが現れました」

 キャスターが指さす方向、博物館の屋上に満月の青い光に照らされているのは人影が一つ。
 カメラがズームしていくと人影は、顔の半分を仮面で覆い黒のインバネスを装着していた。
 カメラに気づいたのか男は右手を掲げる。手に持つのは一本の短杖だ。

「ああーー! 手に【蒼のメリクリウス】を持っています。どうやら盗み出すことに成功したようです。いったいどのようにして警察の警戒線をかいくぐったのでしょうか! そして、どのようにしてこの場から逃げ出すつもりなのでしょうか。今日は満月、いつものようにハングライダーで飛んで逃げるのは難しいと思われますが――」

 叫ぶキャスターを尻目にキャスパリーグは屋上を駆ける。
 当然のごとく警察も動き、ライトもキャスパリーグを視界に納め続ける。

「あっとキャスパリーグ、屋上の端まで追い詰められました。いったいこれからどうするのか!? 前回と同じようにハングライダーで逃げるつもりなのか? ですが――」

 ――バララララッ。
 ヘリコプターのローター音が鳴り響く。

「ですがごらんのようにヘリコプターがすでに配備されています。こうなってしまっては袋のネズミ、ついに快盗キャスパリーグも捕まってしまうのか……。あ、どうやら警察も投降を促すようです」

 拡声器越しに警察の声が響く。

「快盗キャスパリーグ、もう逃げられんぞ。おとなしく投降したまえ。今投降すれば快盗法による刑罰の軽減が認められる。繰り返す、おとなしく投降したまえ」

 その言葉にキャスパリーグはニヤリと口の端を上げることで応える。
 そうして裏地の赤をはためかせるインバネスを胸にかき抱くと、屋上を飛び出しその身を宙へと投げ入れた。
 ――ガザザザ。
 木々をかき分け落ちていく音が聞こえた。

「落ちたぞ。追えっ、犬を放て」
「あっと、どうやらキャスパリーグは山の方へと落ちた、いえ逃げたようです。ですがこの三居土博物館のある山はぐるりと二次規制線が張られ猫の子一匹抜け出る隙はありません。快盗キャスパリーグの命運はもはや風前の灯火と言えるでしょう」

――――――――――――――――――――――――――――――――――
快盗法

平世12年に出来た法律。
怪盗には以下の義務がある。

・予告義務
・犯行時刻の前後1時間内に姿を現さなければならない
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...