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Episode.02 魔女からの挑戦状/夜明けのヘカテ
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■3月29日 03:00 埠頭
ぼぉぉぉぉぉぉ
暗闇の中、月明かりに照らされたセントメアリ号が汽笛を鳴らし、岸から離れようとしていた。
「やばい、もう出る」
岸壁沿いを白面をつけ、インバネスをまとった男。快盗キャスパリーグが疾風る
「にっ。とろとろしているからだよ」
「パリュは楽してるくせに」
肩に乗るパリュに毒づく。
「御託はいいから、ほら。跳びな」
声と同時にキャスパリーグは岸壁から身を躍らせる。
――振るうのは右手。
船にかけられたワイヤーがしゅると巻き取られ、キャスパリーグの身は空へと踊る。
たどり着いたのは客室のバルコニー。
人気のないそこにキャスパリーグはひとまず身を隠した。
パリュも肩から飛び降り、ひとまずベッドに陣取る。
「にっ。まずはあちの番だね」
パリュはしっぽをくゆらせる。
「《空に揺らめくは三つの幽世月、其らが魅せるは電脳の魔王》」
言の葉とともに、パリュのまわりにいくつもの半透明のウィンドウが浮かび上がる。
「いつも思うが、なんか魔王って感じの魔法じゃないんだよなぁ」
「にぃ。うるさいね。黙ってな」
口を開いたパリュだが、その目はウィンドウに流れる幾何学模様の文字を追いかけている。
やがて一言つぶやいた。
「うん、たぶん当たりだね。ぬしの予想通りだ」
「よかった……」
キャスパリーグもほっとしたようにベッドに腰をかけた。
「あんなえらそうに言っておいて、ハズレだったら、璃夜の方が当たりだったらと、ちょっと心配だったんだよね。ちなみにどんな理由で確証に?」
「まず一つ、この船には人がいない」
「まぁ確かにそうだな、外から見えるどの部屋も真っ暗だったし」
キャスパリーグは今いる部屋を見ながら言った。
「そうだけど、そうじゃない。文字通り人っ子一人がいないんだよ、運行部門のクルーも含めてね。これは二人きりで待つと言った、あの魔女の言葉に合致する」
「人っ子一人って……、じゃあ何でこいつは動いているんだ?」
キャスパリーグの視線の向こう。バルコニーから見える街の夜景はどんどん離れて行っている。
「リエージュの、時代の何歩も先を行く技術ってことだろうね」
「それっていいのか? さすがに安全上の問題が……」
「ぬしも言ってただろ? 魔女とその旦那には、それなりの権力があるって。それにぬしも知ってるじゃないか。あ奴らの会社にはそれが出来るだけの技術力があるって」
キャスパリーグが思い出すのは、時代を何歩も先に行くリエージュの技術力の結晶、VRの技術、トリアルナの世界。
同時に眠り続ける両親の顔もうかび、ぎりと歯を食いしばる。
「詳しくはわからないけどね。まあ、そこら辺の技術でもって運行しているんだろう。おかげであちからはアクセス出来やしない」
「パリュがか? それは……、すごいな」
「まあねえ。ルーツを考えれば当然とも言える……。ただ、おかげで【夜明けのヘカテ】がどこにあるのかがすぎにはわからない。ちと時間がかかる。あち達の魔法の根源の一つは月。ぬし、今日の月の入りは?」
「5時57分だ」
確認していたのであろう。キャスパリーグっはよどみなく答えた。
「にぃ。となると、時間が足りないか……」
パリュはぺたりと寝そべる。
そんなパリュをつまんで再度座らせた。
「大丈夫、それについては見当がついてる。もちろん外れてるかもしれないけど、ただ可能性は高いはずだ」
「ふに。いっぱしの顔をして……。本当に自信があるようだね」
「……まあな。パリュに言われて勉強もしたし」
「そうかいそうかい……」
パリュは目を細めた
「それじゃあ早速向かうとするかね。っとその前に……」
「なんだ?」
「ぬし、【夜の女王の涙】を持ってきてただろう? それをあちの首にかけてくんな」
パリュはキャスパリーグの前に首を差し出した。
「そいつは今のぬしが持っていても、しょうがないものだ。何かあったらいけないし、あちが預かっておくよ」
「あ、ああ」
キャスパリーグは懐から出した【夜の女王の涙】を、おっかなびっくりでパリュの首に二重に巻き付ける。
「そんなにおどおどやるんじゃないよ。大事な女性をスマートに着飾れるのも、いい男の条件だよ」
「うるさいなぁ」
ぼやくキャスパリーグを見つめ、パリュはにんまりと笑う。
「ま、初々しいのも、それはそれでいいもんだけどねぇ……。あともう一つ大事なもの、【蒼のメリクリウス】は持っているね」
「ああ」
キャスパリーグは軽く胸をたたく。
「ならいい。そいつは本当に大事だからね。ちゃあんと肌身離さず持っているんだよ」
「わかってるよ。こいつにはここ最近助けられてばっかりだし」
パリュはキャスパリーグ、いや麻琴をじっと見つめる。
「……理由はそれだけじゃないよ。前にも言ったろう【蒼のメリクリウス】から複数のエレメントを取り出せるようになったら、だんだんとその子を十全に扱えるようになるって」
「確かに言ってたな……」
「その子はアイオライトサンストーン。バイキングを北米に誘った導きの石。そして……」
パリュは一旦言葉を句切る。
「そして、ぬしの両親の精神をこちらに戻す道しるべ……。ぬしのイメージの中の海原を行く船はそのエレメントなんだろうね」
「な……」
突然の告白にキャスパリーグは絶句する。
「なんで今そんなことを言うんだ」
「さあて、何でだろうねぇ。まあ念のための保険みたいなものさね」
「保険って……」
パリュは白面越しに麻琴の顔を優しく見つめる。
「ぬしは本当に危なっかしい。大事なものを、目的を、どっかで取り違えそうな気がする。だから念のために確認しておいたのさ。ぬしの望みはなんだい?」
「……またみんなで食卓を囲むこと」
「そう、璃夜と両親とぬしと……。四人で食卓を囲んで笑うことだろう? 優先順位を間違えないようにね」
パリュはベッドからひらりと飛び降り、しっぽを振って外へと向かう。
「さあ時間がない、急ぐとしよう。ぬし? 【夜明けのヘカテ】はどこだい?」
ぼぉぉぉぉぉぉ
暗闇の中、月明かりに照らされたセントメアリ号が汽笛を鳴らし、岸から離れようとしていた。
「やばい、もう出る」
岸壁沿いを白面をつけ、インバネスをまとった男。快盗キャスパリーグが疾風る
「にっ。とろとろしているからだよ」
「パリュは楽してるくせに」
肩に乗るパリュに毒づく。
「御託はいいから、ほら。跳びな」
声と同時にキャスパリーグは岸壁から身を躍らせる。
――振るうのは右手。
船にかけられたワイヤーがしゅると巻き取られ、キャスパリーグの身は空へと踊る。
たどり着いたのは客室のバルコニー。
人気のないそこにキャスパリーグはひとまず身を隠した。
パリュも肩から飛び降り、ひとまずベッドに陣取る。
「にっ。まずはあちの番だね」
パリュはしっぽをくゆらせる。
「《空に揺らめくは三つの幽世月、其らが魅せるは電脳の魔王》」
言の葉とともに、パリュのまわりにいくつもの半透明のウィンドウが浮かび上がる。
「いつも思うが、なんか魔王って感じの魔法じゃないんだよなぁ」
「にぃ。うるさいね。黙ってな」
口を開いたパリュだが、その目はウィンドウに流れる幾何学模様の文字を追いかけている。
やがて一言つぶやいた。
「うん、たぶん当たりだね。ぬしの予想通りだ」
「よかった……」
キャスパリーグもほっとしたようにベッドに腰をかけた。
「あんなえらそうに言っておいて、ハズレだったら、璃夜の方が当たりだったらと、ちょっと心配だったんだよね。ちなみにどんな理由で確証に?」
「まず一つ、この船には人がいない」
「まぁ確かにそうだな、外から見えるどの部屋も真っ暗だったし」
キャスパリーグは今いる部屋を見ながら言った。
「そうだけど、そうじゃない。文字通り人っ子一人がいないんだよ、運行部門のクルーも含めてね。これは二人きりで待つと言った、あの魔女の言葉に合致する」
「人っ子一人って……、じゃあ何でこいつは動いているんだ?」
キャスパリーグの視線の向こう。バルコニーから見える街の夜景はどんどん離れて行っている。
「リエージュの、時代の何歩も先を行く技術ってことだろうね」
「それっていいのか? さすがに安全上の問題が……」
「ぬしも言ってただろ? 魔女とその旦那には、それなりの権力があるって。それにぬしも知ってるじゃないか。あ奴らの会社にはそれが出来るだけの技術力があるって」
キャスパリーグが思い出すのは、時代を何歩も先に行くリエージュの技術力の結晶、VRの技術、トリアルナの世界。
同時に眠り続ける両親の顔もうかび、ぎりと歯を食いしばる。
「詳しくはわからないけどね。まあ、そこら辺の技術でもって運行しているんだろう。おかげであちからはアクセス出来やしない」
「パリュがか? それは……、すごいな」
「まあねえ。ルーツを考えれば当然とも言える……。ただ、おかげで【夜明けのヘカテ】がどこにあるのかがすぎにはわからない。ちと時間がかかる。あち達の魔法の根源の一つは月。ぬし、今日の月の入りは?」
「5時57分だ」
確認していたのであろう。キャスパリーグっはよどみなく答えた。
「にぃ。となると、時間が足りないか……」
パリュはぺたりと寝そべる。
そんなパリュをつまんで再度座らせた。
「大丈夫、それについては見当がついてる。もちろん外れてるかもしれないけど、ただ可能性は高いはずだ」
「ふに。いっぱしの顔をして……。本当に自信があるようだね」
「……まあな。パリュに言われて勉強もしたし」
「そうかいそうかい……」
パリュは目を細めた
「それじゃあ早速向かうとするかね。っとその前に……」
「なんだ?」
「ぬし、【夜の女王の涙】を持ってきてただろう? それをあちの首にかけてくんな」
パリュはキャスパリーグの前に首を差し出した。
「そいつは今のぬしが持っていても、しょうがないものだ。何かあったらいけないし、あちが預かっておくよ」
「あ、ああ」
キャスパリーグは懐から出した【夜の女王の涙】を、おっかなびっくりでパリュの首に二重に巻き付ける。
「そんなにおどおどやるんじゃないよ。大事な女性をスマートに着飾れるのも、いい男の条件だよ」
「うるさいなぁ」
ぼやくキャスパリーグを見つめ、パリュはにんまりと笑う。
「ま、初々しいのも、それはそれでいいもんだけどねぇ……。あともう一つ大事なもの、【蒼のメリクリウス】は持っているね」
「ああ」
キャスパリーグは軽く胸をたたく。
「ならいい。そいつは本当に大事だからね。ちゃあんと肌身離さず持っているんだよ」
「わかってるよ。こいつにはここ最近助けられてばっかりだし」
パリュはキャスパリーグ、いや麻琴をじっと見つめる。
「……理由はそれだけじゃないよ。前にも言ったろう【蒼のメリクリウス】から複数のエレメントを取り出せるようになったら、だんだんとその子を十全に扱えるようになるって」
「確かに言ってたな……」
「その子はアイオライトサンストーン。バイキングを北米に誘った導きの石。そして……」
パリュは一旦言葉を句切る。
「そして、ぬしの両親の精神をこちらに戻す道しるべ……。ぬしのイメージの中の海原を行く船はそのエレメントなんだろうね」
「な……」
突然の告白にキャスパリーグは絶句する。
「なんで今そんなことを言うんだ」
「さあて、何でだろうねぇ。まあ念のための保険みたいなものさね」
「保険って……」
パリュは白面越しに麻琴の顔を優しく見つめる。
「ぬしは本当に危なっかしい。大事なものを、目的を、どっかで取り違えそうな気がする。だから念のために確認しておいたのさ。ぬしの望みはなんだい?」
「……またみんなで食卓を囲むこと」
「そう、璃夜と両親とぬしと……。四人で食卓を囲んで笑うことだろう? 優先順位を間違えないようにね」
パリュはベッドからひらりと飛び降り、しっぽを振って外へと向かう。
「さあ時間がない、急ぐとしよう。ぬし? 【夜明けのヘカテ】はどこだい?」
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