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序章: 聖女になるのにどれだけ大変だったと思っているの?
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これは夢だろうか。
懐かしい光景が広がっている。
それは仕切りのない、一部屋だけに三人が暮らせる小さな小屋。
どこにでもあるような農民の家こそ、イシリアの生まれ育った場所だった。
中央には食卓があって、そこに三人の男女が質素な料理を囲んでいる。
幼い頃のイシリアと、その両親だ。
イシリアは早くも食事に手を付けたい気持ちだが、両親は粛然と腕を組んで瞑目している。
「今日の糧と、家族の安寧に感謝致します。アーネット神様」
最低限の家具と農具しか置かれていない部屋だったが、壁の一面には手作りの祭壇が設けられ、そこに優しく微笑む小さな女神像が祀られていた。
かつては全面に貼られていたであろう金箔は細部を残して剥げ落ちてしまい、今は地金の銅だけが残っている。
「ねえ、何で食事の前は、お祈りするの?」
「いつもアーネット神が私達を見守ってくれるからだよ。畑の作物が育つのも、イシリアが病気もせず毎日元気でいてくれるのも、全部アーネット神様のお陰なんだ」
「そうなの? アーネット神様が畑を耕して、私の病気を治してくれるお医者様なの?」
「おいおい、それじゃぁ人間みたいじゃないか」
父親が神という抽象的な存在を幼いイシリアにどう説明したのかはよく覚えていないが、とにかくアーネット神は彼女達一家を守ってくれる存在だということは、この時教えられた。
まだ清純なイシリアも、そんな都合の良い神の存在を信じて疑わなかったのである。
――あの日、までは
イシリアが十二歳になったある日のこと。
成長して少しずつ父親の畑仕事を手伝うようになったイシリアが川の水を汲んで畑に戻って来た時のことである。
「お願いです! どうか、もう一年だけ頑張らせて下さい!」
畑の真ん中でイシリアの両親が身なりの良い太った男に縋りつくようにして、何かを懇願している。
その男は、確か地主と呼ばれる人間で、イシリア達の畑は彼から借り受けているものだそうだ。
「駄目だ。今年の収穫はお前達の家が一番少ないんだぞ。これで王都への年貢が納められるわけないだろう!」
「今年は日照り続きで、ライムギが育たなかったんです! 来年こそは豊作になるかもしれません。それまで、王都への年貢を待ってもらえませんか?」
「貴様らみたいな無能な小作農共に、これ以上大事な農地を貸してやるものか! わかったらさっさと荷物をまとめて出て行け!」
男は無情にも両親を見捨て、次の日からイシリア達は各地を放浪することになった。
少ない家財と食料を積んだ荷車にイシリアを載せ、父親が引っ張っていく。
「ねえ、これからどこへ行くの?」
イシリアはふと、傍らを疲れた表情で歩く母親に聞いた。
「そうね。もっと温かい、南の土地はどうかしら?」
母親は無理に笑顔を作って答えた。
懐かしい光景が広がっている。
それは仕切りのない、一部屋だけに三人が暮らせる小さな小屋。
どこにでもあるような農民の家こそ、イシリアの生まれ育った場所だった。
中央には食卓があって、そこに三人の男女が質素な料理を囲んでいる。
幼い頃のイシリアと、その両親だ。
イシリアは早くも食事に手を付けたい気持ちだが、両親は粛然と腕を組んで瞑目している。
「今日の糧と、家族の安寧に感謝致します。アーネット神様」
最低限の家具と農具しか置かれていない部屋だったが、壁の一面には手作りの祭壇が設けられ、そこに優しく微笑む小さな女神像が祀られていた。
かつては全面に貼られていたであろう金箔は細部を残して剥げ落ちてしまい、今は地金の銅だけが残っている。
「ねえ、何で食事の前は、お祈りするの?」
「いつもアーネット神が私達を見守ってくれるからだよ。畑の作物が育つのも、イシリアが病気もせず毎日元気でいてくれるのも、全部アーネット神様のお陰なんだ」
「そうなの? アーネット神様が畑を耕して、私の病気を治してくれるお医者様なの?」
「おいおい、それじゃぁ人間みたいじゃないか」
父親が神という抽象的な存在を幼いイシリアにどう説明したのかはよく覚えていないが、とにかくアーネット神は彼女達一家を守ってくれる存在だということは、この時教えられた。
まだ清純なイシリアも、そんな都合の良い神の存在を信じて疑わなかったのである。
――あの日、までは
イシリアが十二歳になったある日のこと。
成長して少しずつ父親の畑仕事を手伝うようになったイシリアが川の水を汲んで畑に戻って来た時のことである。
「お願いです! どうか、もう一年だけ頑張らせて下さい!」
畑の真ん中でイシリアの両親が身なりの良い太った男に縋りつくようにして、何かを懇願している。
その男は、確か地主と呼ばれる人間で、イシリア達の畑は彼から借り受けているものだそうだ。
「駄目だ。今年の収穫はお前達の家が一番少ないんだぞ。これで王都への年貢が納められるわけないだろう!」
「今年は日照り続きで、ライムギが育たなかったんです! 来年こそは豊作になるかもしれません。それまで、王都への年貢を待ってもらえませんか?」
「貴様らみたいな無能な小作農共に、これ以上大事な農地を貸してやるものか! わかったらさっさと荷物をまとめて出て行け!」
男は無情にも両親を見捨て、次の日からイシリア達は各地を放浪することになった。
少ない家財と食料を積んだ荷車にイシリアを載せ、父親が引っ張っていく。
「ねえ、これからどこへ行くの?」
イシリアはふと、傍らを疲れた表情で歩く母親に聞いた。
「そうね。もっと温かい、南の土地はどうかしら?」
母親は無理に笑顔を作って答えた。
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