13 / 13
1章: こんな所でくたばるわけにはいかないのよ
5
しおりを挟む
翌日、筋肉痛になった腕を鞭打って、イシリアはいつものように脱穀棒を挽き続ける。
仕事を貰えた身で文句は言えないが、ここでの稼ぎはイシリア一人で暮らす分で丁度といった具合だ。
単純作業だから仕方ないのかもしれないが、これでは帝国再建など夢のまた夢である。
聖女の座を追われて、こんな田舎で一生農作業をして日銭を稼いで暮らすのはイシリアのプライドが許さない。
自分を追い落した共和国の連中共を片っ端から成敗してやらなければ。
とりあえず、まとまった金が溜まるのを待って、次の稼ぎ口を探すとしよう。
「あの、イシリアさん、でしたよね?」
考え事をしていると、ふと隣で働く若い女に話し掛けられた。
気の弱そうなそばかすの娘がイシリアに興味ありげな視線を向けている。
「はい・・・・・・あの、何か?」
「いえ、たった二日でもう私よりも仕事が早くなったんだなって思って」
見ると半日分の出来高は既にイシリアの方が上回っている。
イシリアには多少なりとも経験があるせいか、向こうが不器用なのかはわからない。
「いい? まず、脱穀棒の持ち方はこうよ」
イシリアが上手く穂を裁いているのを彼女は感心したように見入っていた。
「あ、ありがとうございます。私、リンダっていいます。三ヶ月間ここでお世話になっているんですけど、まだ全然仕事を覚えられなくて」
「ちょっと、そこ。何を無駄話しているの?」
見咎めたのはバイシャというここでのいわゆるお局的存在である。
ここに来た当初はイシリアも仕事を教わったのだから頭は上がらなかった。
「す、すいません」
「それとリンダ、今日はこれ、アンタのノルマ分」
そう言ってリンダの前に、山のように仕事が積まれた。
今のリンダのキャパでは三日経っても終わる量ではない。
「え? これ全部ですか?」
「それ終わるまで今日は帰れないからね」
「そ、そんな・・・・・・」
困惑したリンダを見下ろしながら、バイシャとその取り巻き達がけらけらと笑った。
かつて大聖堂で働くイシリアには、それが悪意のある虐めであることはよく分かった。
聖職者のコミュニティーで暮らしていたとはいえ、そういう場面は何度も目にしたし、時にはイシリア自身が当事者になった時期もあったからだ。
「あの!」
イシリアの呼びかけにその場にいた全員が身動ぎした。
「何だい? 新入り」
「いくらなんでも、一人にこれだけの仕事量を押し付けるのは理不尽ではないですか?」
「何だい? 私の指導にケチをつけるのかい?」
「指導? ご冗談を。これは明らかな虐めではないですか?」
「部下に仕事を割り振ることの何が虐めなんだい? アンタは来たばかりだから知らないだろうけどね、ここでは秋の収穫時期になると、次から次へと目が回るくらい穀物が運ばれてくるんだ。それを裁くのに、毎年徹夜して働かなきゃいけないんだよ。だから今みたいにチンタラやっていたら、とてもじゃないけど回らないのさ。せめて、一日でこれ位の量はできないとね。それができないなら、ここにいる資格はないわ」
「じゃあ聞きますけど、あなたはこの量を終わらせられるんですか?」
「アンタ、失礼なこと聞くんじゃないよ! バイシャさんはね、この中で一番仕事のできる人なんだよ」
「そうよ! それだから私達のリーダーでいられるの! こんな使えない小娘の肩をどうして持つんだか」
「仕事ができるのかどうかは別として、同じ仲間なのに人を虐める権利はないはずです! そもそもここで使う脱穀棒は・・・・・・」
「もう止めて下さい! 全部私がどんくさいのがいけないんです!」
リンダが泣きながらイシリアとバイシャの間に割り込んだ。
「この仕事は今日中に終わらせます。それでいいんですよね?」
「そうね、さっさと仕事なさい。皆も、仕事に戻るわよ」
雇い主の地主が偶然作業場に顔を見せに来たこともあって、とりあえずその場は収まった。
リンダの作業効率は少し上がったにせよ、それでもバイシャに押し付けられた分は終わりそうにない。
さりげなく、イシリアが彼女の仕事を半分受け持った。
「イシリアさん?」
「いいから、今日中に終わらせるんでしょ?」
二人掛かりで作業して、遅くまで居残りして何とか仕事は片付いた。
仕事を貰えた身で文句は言えないが、ここでの稼ぎはイシリア一人で暮らす分で丁度といった具合だ。
単純作業だから仕方ないのかもしれないが、これでは帝国再建など夢のまた夢である。
聖女の座を追われて、こんな田舎で一生農作業をして日銭を稼いで暮らすのはイシリアのプライドが許さない。
自分を追い落した共和国の連中共を片っ端から成敗してやらなければ。
とりあえず、まとまった金が溜まるのを待って、次の稼ぎ口を探すとしよう。
「あの、イシリアさん、でしたよね?」
考え事をしていると、ふと隣で働く若い女に話し掛けられた。
気の弱そうなそばかすの娘がイシリアに興味ありげな視線を向けている。
「はい・・・・・・あの、何か?」
「いえ、たった二日でもう私よりも仕事が早くなったんだなって思って」
見ると半日分の出来高は既にイシリアの方が上回っている。
イシリアには多少なりとも経験があるせいか、向こうが不器用なのかはわからない。
「いい? まず、脱穀棒の持ち方はこうよ」
イシリアが上手く穂を裁いているのを彼女は感心したように見入っていた。
「あ、ありがとうございます。私、リンダっていいます。三ヶ月間ここでお世話になっているんですけど、まだ全然仕事を覚えられなくて」
「ちょっと、そこ。何を無駄話しているの?」
見咎めたのはバイシャというここでのいわゆるお局的存在である。
ここに来た当初はイシリアも仕事を教わったのだから頭は上がらなかった。
「す、すいません」
「それとリンダ、今日はこれ、アンタのノルマ分」
そう言ってリンダの前に、山のように仕事が積まれた。
今のリンダのキャパでは三日経っても終わる量ではない。
「え? これ全部ですか?」
「それ終わるまで今日は帰れないからね」
「そ、そんな・・・・・・」
困惑したリンダを見下ろしながら、バイシャとその取り巻き達がけらけらと笑った。
かつて大聖堂で働くイシリアには、それが悪意のある虐めであることはよく分かった。
聖職者のコミュニティーで暮らしていたとはいえ、そういう場面は何度も目にしたし、時にはイシリア自身が当事者になった時期もあったからだ。
「あの!」
イシリアの呼びかけにその場にいた全員が身動ぎした。
「何だい? 新入り」
「いくらなんでも、一人にこれだけの仕事量を押し付けるのは理不尽ではないですか?」
「何だい? 私の指導にケチをつけるのかい?」
「指導? ご冗談を。これは明らかな虐めではないですか?」
「部下に仕事を割り振ることの何が虐めなんだい? アンタは来たばかりだから知らないだろうけどね、ここでは秋の収穫時期になると、次から次へと目が回るくらい穀物が運ばれてくるんだ。それを裁くのに、毎年徹夜して働かなきゃいけないんだよ。だから今みたいにチンタラやっていたら、とてもじゃないけど回らないのさ。せめて、一日でこれ位の量はできないとね。それができないなら、ここにいる資格はないわ」
「じゃあ聞きますけど、あなたはこの量を終わらせられるんですか?」
「アンタ、失礼なこと聞くんじゃないよ! バイシャさんはね、この中で一番仕事のできる人なんだよ」
「そうよ! それだから私達のリーダーでいられるの! こんな使えない小娘の肩をどうして持つんだか」
「仕事ができるのかどうかは別として、同じ仲間なのに人を虐める権利はないはずです! そもそもここで使う脱穀棒は・・・・・・」
「もう止めて下さい! 全部私がどんくさいのがいけないんです!」
リンダが泣きながらイシリアとバイシャの間に割り込んだ。
「この仕事は今日中に終わらせます。それでいいんですよね?」
「そうね、さっさと仕事なさい。皆も、仕事に戻るわよ」
雇い主の地主が偶然作業場に顔を見せに来たこともあって、とりあえずその場は収まった。
リンダの作業効率は少し上がったにせよ、それでもバイシャに押し付けられた分は終わりそうにない。
さりげなく、イシリアが彼女の仕事を半分受け持った。
「イシリアさん?」
「いいから、今日中に終わらせるんでしょ?」
二人掛かりで作業して、遅くまで居残りして何とか仕事は片付いた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる