12 / 13
1章: こんな所でくたばるわけにはいかないのよ
4
しおりを挟む
「ウチで働きたいって?」
館を訪ねたイシリアに直接応対したのは痩せた初老の男だった。
質素な身なりだが、この辺の畑を一括で管理する地主なのだという。
「ええ」
「家は? この辺に住んでいるの?」
「実は・・・・・・」
「ああ、出てきて宿無しってクチか。別にいいよ。うちにはそういう子も一杯いるから」
下手に嘘をつく前に、向こうから勝手に勘違いしてくれて助かった。
「素性は深く聞かないけどさ、名前くらいは教えてくれないか?」
「イシリア・・・・・・オルグマートです」
「イシリア・・・・・・この前死んだ聖女様と同じ名前か」
「ええ、偶然にも」
偽名を使うよりかは、呼ばれ慣れている名前の方が馬脚を現しにくい。
よもや死んだはずの聖女が全く同じ名前を名乗っているなどと、誰も思わないはずだ。
「それでイシリアさん。ここでどんな仕事をしているのか知っているかい?」
「いえ、道行く人に偶然ここで働き手を集めているとだけ聞いたものですから」
「簡単に言うと、畑で収穫した穀物の脱穀作業さ。刈り取った作物から籾殻を飛ばす。どこかでやったことはあるのかい?」
「実家が農家でしたから、多少は経験が」
「それなら助かる。ぜひともウチで働いてもらいたいから、来てくれ」
早速採用となり、イシリアは館と別棟の細長い工場に連れられた。
何人もの女性達が黙々と刈り取った穂から実を剥ぎ取る仕事を続けている。
使っている道具は旧来の脱穀棒。
要するに穂を脱穀棒と床に置かれた作業台の間に挟み込んでしごくのだが、あまり長く続けると手の皮が剥けたり豆ができてしまう。
都市部ではもっと効率的に作業ができる機械が開発されているはずだが、この地方にはまだ普及していないようだ。
「バイシャさん、バイシャさん!」
地主が呼んだのは作業をしている中の一人の中年女性。
「こちらは今日から働くことが決まったイシリアさんだ。作業経験はあるらしいが、色々と教えてやってくれ」
「あいよ。それにしてもイシリアか。聖女と同じ名前だね」
自分はきっと、これから何度も名前を名乗った相手にそう言われ続けるのだろうか。
「よろしくお願いします」
「ついて来な。脱穀棒は持ったことある?」
「ええ、こうやるんですよね?」
実を言うと両親の実家に暮らして以来だから、あれこれ思い出しながらの作業である。
お世辞にも、周りで働いている同僚ほどに上手くはない。
「へっ、まあそんなものね。ウチは厳しいから、あんまり使えないと出て行ってもらうよ」
「が、頑張ります!」
その一日、イシリアは忘れかけていた畑仕事を思い出しながら脱穀棒を扱い続けた。
給料は日当制で、とりあえず一日分の宿代程度は稼げた。
「何とか、なったわね」
命からがら王都を脱出し、田舎で慣れない農作業で働くというハードスケジュールをこなしたせいだろうか。
イシリアは疲れてぐったりと眠り込んだ。
館を訪ねたイシリアに直接応対したのは痩せた初老の男だった。
質素な身なりだが、この辺の畑を一括で管理する地主なのだという。
「ええ」
「家は? この辺に住んでいるの?」
「実は・・・・・・」
「ああ、出てきて宿無しってクチか。別にいいよ。うちにはそういう子も一杯いるから」
下手に嘘をつく前に、向こうから勝手に勘違いしてくれて助かった。
「素性は深く聞かないけどさ、名前くらいは教えてくれないか?」
「イシリア・・・・・・オルグマートです」
「イシリア・・・・・・この前死んだ聖女様と同じ名前か」
「ええ、偶然にも」
偽名を使うよりかは、呼ばれ慣れている名前の方が馬脚を現しにくい。
よもや死んだはずの聖女が全く同じ名前を名乗っているなどと、誰も思わないはずだ。
「それでイシリアさん。ここでどんな仕事をしているのか知っているかい?」
「いえ、道行く人に偶然ここで働き手を集めているとだけ聞いたものですから」
「簡単に言うと、畑で収穫した穀物の脱穀作業さ。刈り取った作物から籾殻を飛ばす。どこかでやったことはあるのかい?」
「実家が農家でしたから、多少は経験が」
「それなら助かる。ぜひともウチで働いてもらいたいから、来てくれ」
早速採用となり、イシリアは館と別棟の細長い工場に連れられた。
何人もの女性達が黙々と刈り取った穂から実を剥ぎ取る仕事を続けている。
使っている道具は旧来の脱穀棒。
要するに穂を脱穀棒と床に置かれた作業台の間に挟み込んでしごくのだが、あまり長く続けると手の皮が剥けたり豆ができてしまう。
都市部ではもっと効率的に作業ができる機械が開発されているはずだが、この地方にはまだ普及していないようだ。
「バイシャさん、バイシャさん!」
地主が呼んだのは作業をしている中の一人の中年女性。
「こちらは今日から働くことが決まったイシリアさんだ。作業経験はあるらしいが、色々と教えてやってくれ」
「あいよ。それにしてもイシリアか。聖女と同じ名前だね」
自分はきっと、これから何度も名前を名乗った相手にそう言われ続けるのだろうか。
「よろしくお願いします」
「ついて来な。脱穀棒は持ったことある?」
「ええ、こうやるんですよね?」
実を言うと両親の実家に暮らして以来だから、あれこれ思い出しながらの作業である。
お世辞にも、周りで働いている同僚ほどに上手くはない。
「へっ、まあそんなものね。ウチは厳しいから、あんまり使えないと出て行ってもらうよ」
「が、頑張ります!」
その一日、イシリアは忘れかけていた畑仕事を思い出しながら脱穀棒を扱い続けた。
給料は日当制で、とりあえず一日分の宿代程度は稼げた。
「何とか、なったわね」
命からがら王都を脱出し、田舎で慣れない農作業で働くというハードスケジュールをこなしたせいだろうか。
イシリアは疲れてぐったりと眠り込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる