善行も野望もコツコツと ~叩き上げ聖女は追放されて帝国再建を計画する~

自慰煽情のアリア

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1章: こんな所でくたばるわけにはいかないのよ

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「ウチで働きたいって?」
 館を訪ねたイシリアに直接応対したのは痩せた初老の男だった。
 質素な身なりだが、この辺の畑を一括で管理する地主なのだという。
「ええ」
「家は? この辺に住んでいるの?」
「実は・・・・・・」
「ああ、出てきて宿無しってクチか。別にいいよ。うちにはそういう子も一杯いるから」
 下手に嘘をつく前に、向こうから勝手に勘違いしてくれて助かった。
「素性は深く聞かないけどさ、名前くらいは教えてくれないか?」
「イシリア・・・・・・オルグマートです」
「イシリア・・・・・・この前死んだ聖女様と同じ名前か」
「ええ、偶然にも」
 偽名を使うよりかは、呼ばれ慣れている名前の方が馬脚を現しにくい。
 よもや死んだはずの聖女が全く同じ名前を名乗っているなどと、誰も思わないはずだ。
「それでイシリアさん。ここでどんな仕事をしているのか知っているかい?」
「いえ、道行く人に偶然ここで働き手を集めているとだけ聞いたものですから」
「簡単に言うと、畑で収穫した穀物の脱穀作業さ。刈り取った作物から籾殻を飛ばす。どこかでやったことはあるのかい?」
「実家が農家でしたから、多少は経験が」
「それなら助かる。ぜひともウチで働いてもらいたいから、来てくれ」
 早速採用となり、イシリアは館と別棟の細長い工場に連れられた。
 何人もの女性達が黙々と刈り取った穂から実を剥ぎ取る仕事を続けている。
 使っている道具は旧来の脱穀棒。
 要するに穂を脱穀棒と床に置かれた作業台の間に挟み込んでしごくのだが、あまり長く続けると手の皮が剥けたり豆ができてしまう。
 都市部ではもっと効率的に作業ができる機械が開発されているはずだが、この地方にはまだ普及していないようだ。
「バイシャさん、バイシャさん!」
 地主が呼んだのは作業をしている中の一人の中年女性。
「こちらは今日から働くことが決まったイシリアさんだ。作業経験はあるらしいが、色々と教えてやってくれ」
「あいよ。それにしてもイシリアか。聖女と同じ名前だね」
 自分はきっと、これから何度も名前を名乗った相手にそう言われ続けるのだろうか。
「よろしくお願いします」
「ついて来な。脱穀棒は持ったことある?」
「ええ、こうやるんですよね?」
 実を言うと両親の実家に暮らして以来だから、あれこれ思い出しながらの作業である。
 お世辞にも、周りで働いている同僚ほどに上手くはない。
「へっ、まあそんなものね。ウチは厳しいから、あんまり使えないと出て行ってもらうよ」
「が、頑張ります!」
 その一日、イシリアは忘れかけていた畑仕事を思い出しながら脱穀棒を扱い続けた。
 給料は日当制で、とりあえず一日分の宿代程度は稼げた。
「何とか、なったわね」
 命からがら王都を脱出し、田舎で慣れない農作業で働くというハードスケジュールをこなしたせいだろうか。
 イシリアは疲れてぐったりと眠り込んだ。
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