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1章: こんな所でくたばるわけにはいかないのよ
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奇跡の大脱走を遂げたイシリアは数日掛けて、かつて暮らす大聖堂から遠く離れた集落に立ち寄っていた。
不思議なことに、大罪人の脱出にも関わらず、お上からイシリアが指名手配される動きはなかったのだ。
それどころか、処刑されるはずだった当日、民衆にはイシリアが獄中で病死したと共和国政府から公の発表があった。
なぜそんな話で片付けられたのか。
理由は恐らく二つあるのだろう。
一つは国民全員に処刑を宣言した罪人にまんまと逃亡されたとあっては、共和国政府の面目に関わるからだ。
国民全員ならまだしも、諸外国に知られれば内乱分子がいまだ健在であることを示す証拠となり、攻め込まれる危険もある。
もう一つは小娘一人が逃げ延びた所で、今更共和国の政権が揺らぐほどの脅威ではないからだ。
帝国の十字架を背負っているとはいえ、聖女に就任したばかりのイシリア個人に恨みを抱く人間はそれほど多くはない。
そんな人間を血眼で探すよりも、自分達が作り上げた権力基盤を維持することを、共和国政府は選んだのだろう。
賢明な判断だが、イシリアを野放しにしたのは大誤算だ。
「見ていなさいよ。いつかまた、いえ、今度こそは私がてっぺんの帝国を創ってやるんだから」
そう、彼女はまだ、奪われた既得権益を諦めきれずにいた。
自分が生きているうちに何としても帝国と同じ身分に返り咲きたい。
その異常なまでの俗物根性が、イシリアの心の支えだった。
とはいえ、今は無性に腹が減っている。
いかに帝国再編という高潔な理想を抱えようとも、野垂れ死にするようではしょうもない。
そういうわけで、イシリアの帝国再編計画の一歩は、当面の生業を探すことから始まった。
「どこかに、住み込みで働けるような仕事はないかしら」
一番先に思いつくのはメイドだが、こんな田舎の集落にメイドを雇えるほどの金持ちが暮らしているはずもない。
仕方がないから、もう一つの宛の娼婦の仕事を探してみることにした。
どうやら村の酒場に、そうした人間を雇う店があるらしい。
「大丈夫よ。これでも私、大聖堂の司教をたぶらかした実績があるんだもの。それにこの前だって、牢番を」
そう意気込んで、覚悟を決めて店の門を潜る。
その数分後――
「帰んな! ここはガキの働く店じゃねえぞ!」
店主にけんもほろろに追い返されてしまった。
「何よ! 私の可愛さがわからないっての! もういいわよ!」
「お嬢さん、仕事を探しているのかい?」
地団駄を踏んでいる所で、村の男から話しかけられた。
「え? まあ、でもあんまり危険なお仕事はごめんだからね?」
「だったらあの館を訪れるといい。この辺の畑の地主様が暮らしていて、アンタみたいな若い女に、手伝いの仕事をさせていると聞いたよ」
男の指さす先には村で一番しっかりとした造りの屋敷があった。
「地主か」
思えば地主こそが、イシリアの家族を追い出し、こんな波乱万丈な人生のきっかけを作った人種だ。
そんな連中に今更頼るのは複雑な心持だが、今は背に腹は代えられない。
イシリアは思い切ってその館を尋ねることにした。
不思議なことに、大罪人の脱出にも関わらず、お上からイシリアが指名手配される動きはなかったのだ。
それどころか、処刑されるはずだった当日、民衆にはイシリアが獄中で病死したと共和国政府から公の発表があった。
なぜそんな話で片付けられたのか。
理由は恐らく二つあるのだろう。
一つは国民全員に処刑を宣言した罪人にまんまと逃亡されたとあっては、共和国政府の面目に関わるからだ。
国民全員ならまだしも、諸外国に知られれば内乱分子がいまだ健在であることを示す証拠となり、攻め込まれる危険もある。
もう一つは小娘一人が逃げ延びた所で、今更共和国の政権が揺らぐほどの脅威ではないからだ。
帝国の十字架を背負っているとはいえ、聖女に就任したばかりのイシリア個人に恨みを抱く人間はそれほど多くはない。
そんな人間を血眼で探すよりも、自分達が作り上げた権力基盤を維持することを、共和国政府は選んだのだろう。
賢明な判断だが、イシリアを野放しにしたのは大誤算だ。
「見ていなさいよ。いつかまた、いえ、今度こそは私がてっぺんの帝国を創ってやるんだから」
そう、彼女はまだ、奪われた既得権益を諦めきれずにいた。
自分が生きているうちに何としても帝国と同じ身分に返り咲きたい。
その異常なまでの俗物根性が、イシリアの心の支えだった。
とはいえ、今は無性に腹が減っている。
いかに帝国再編という高潔な理想を抱えようとも、野垂れ死にするようではしょうもない。
そういうわけで、イシリアの帝国再編計画の一歩は、当面の生業を探すことから始まった。
「どこかに、住み込みで働けるような仕事はないかしら」
一番先に思いつくのはメイドだが、こんな田舎の集落にメイドを雇えるほどの金持ちが暮らしているはずもない。
仕方がないから、もう一つの宛の娼婦の仕事を探してみることにした。
どうやら村の酒場に、そうした人間を雇う店があるらしい。
「大丈夫よ。これでも私、大聖堂の司教をたぶらかした実績があるんだもの。それにこの前だって、牢番を」
そう意気込んで、覚悟を決めて店の門を潜る。
その数分後――
「帰んな! ここはガキの働く店じゃねえぞ!」
店主にけんもほろろに追い返されてしまった。
「何よ! 私の可愛さがわからないっての! もういいわよ!」
「お嬢さん、仕事を探しているのかい?」
地団駄を踏んでいる所で、村の男から話しかけられた。
「え? まあ、でもあんまり危険なお仕事はごめんだからね?」
「だったらあの館を訪れるといい。この辺の畑の地主様が暮らしていて、アンタみたいな若い女に、手伝いの仕事をさせていると聞いたよ」
男の指さす先には村で一番しっかりとした造りの屋敷があった。
「地主か」
思えば地主こそが、イシリアの家族を追い出し、こんな波乱万丈な人生のきっかけを作った人種だ。
そんな連中に今更頼るのは複雑な心持だが、今は背に腹は代えられない。
イシリアは思い切ってその館を尋ねることにした。
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