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FILE0: 女人禁制
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――絶対見てる
朝八時の秋葉原駅。
立つ場所さえやっと確保できる満員電車の中で偶然にも先客が立った後のの座席に座った鈴奈は対面に座るサラリーマン風の中年男性の視線が気になっていた。
スマホを手に取ってはいるが、その視線は明らかに画面から少し上にずれている。
その先には固く股を閉じた鈴奈の両足。
油断しているわけではないが、特にタイトスカートというのはどんなにガードを固めてもデルタの隙間ができてしまう。
そのスカートの薄闇の先を、男は何とか見透かそうとしているのだ。
これは鈴奈の被害妄想ではない。
試しに足を少し開いてみよう。
合わせて中年男性の瞼も少し広がった。
見たければ好きに見るがいい。
どうせこちらは動画内でスカートの中をわざとらしく見せびらかしている。
こうした経験は何も今朝の電車内に限っての話ではない。
駅の階段で待ちぼうけしながら、こちらの後を付いてくる若い男。
ボケたふりをして女子トイレを覗く老人。
鈴奈が勤める会社においてさえ、先月女子トイレを盗撮したとかで男性課長が懲戒処分を受けていた。
そんなクズ男ばかりしかいない世の中で、なぜこんなにも賃金の男女格差は横たわり続けるのだろう。
同じ仕事をしていて、同じだけ生活するのにお金が掛かるのに、性別が理由だけで男性を優遇する理由がどこにあるのか。
そんな世の中だから、鈴奈は自尊心を犠牲にして、こんな動画を製作しなければならなくなる。
その動画さえ、強欲な男達に飽きられて、収入減少の憂き目に晒されている。
これからの人生もずっと、搾取されなければならないのだろうか。
その日は一日考え事ばかりをしていたせいか、いつの間にか昼休みになっていた。
会社の休憩スペースで、一人一番安値のツナサンドをかじる鈴奈の耳にふと同僚達の話が飛び込んできた。
「本当なんだってばぁ!」
「うそぉ、そんな話」
「ぜったいやらせだよね~」
「でもネットとかでも友達がそういう目に遭ったとか、SNSに投稿があるって聞いたよ」
「それもどうだか。ねえ、柏原さんはどう思う? 柏原さん?」
「え? 私?」
話について行けてなくて、きょとんとする鈴奈の前に一人の同僚がスマホ画面を見せた。
鬱蒼とした森の中に佇む古びた鳥居の写真だった。
「これが?」
「今、都市伝説で噂の女人禁制地の山なんだって」
「ニョニンキンセイ?」
「ほら、女は入るなってやつ。御寺とか、昔あったでしょ」
「ひどいよね、明らかな男女差別だよね」
全くもってその通りだ。だから現代になってなお、こんな安月給で責任の重い仕事を押し付けられる。
「そうそう、でもね。そう言って、ここに入った女性が何人かいるらしいんだけど、それが本当に行方不明になったって」
「え、行方不明?」
「神隠しってやつ? 怖くない?」
「違うよ。絶対その投稿はガセだって」
彼女らの話によると、ネット界隈で最近、この話題で賑やかになっているとか。
だがその近況など、鈴奈にはどうでもよかった。
彼女には今、抱えている悩みを一挙に解決する妙案のことで頭が一杯だったからだ。
低迷気味の動画配信収入を挽回し、ついでに不条理な男社会に一矢報いる方策が。
朝八時の秋葉原駅。
立つ場所さえやっと確保できる満員電車の中で偶然にも先客が立った後のの座席に座った鈴奈は対面に座るサラリーマン風の中年男性の視線が気になっていた。
スマホを手に取ってはいるが、その視線は明らかに画面から少し上にずれている。
その先には固く股を閉じた鈴奈の両足。
油断しているわけではないが、特にタイトスカートというのはどんなにガードを固めてもデルタの隙間ができてしまう。
そのスカートの薄闇の先を、男は何とか見透かそうとしているのだ。
これは鈴奈の被害妄想ではない。
試しに足を少し開いてみよう。
合わせて中年男性の瞼も少し広がった。
見たければ好きに見るがいい。
どうせこちらは動画内でスカートの中をわざとらしく見せびらかしている。
こうした経験は何も今朝の電車内に限っての話ではない。
駅の階段で待ちぼうけしながら、こちらの後を付いてくる若い男。
ボケたふりをして女子トイレを覗く老人。
鈴奈が勤める会社においてさえ、先月女子トイレを盗撮したとかで男性課長が懲戒処分を受けていた。
そんなクズ男ばかりしかいない世の中で、なぜこんなにも賃金の男女格差は横たわり続けるのだろう。
同じ仕事をしていて、同じだけ生活するのにお金が掛かるのに、性別が理由だけで男性を優遇する理由がどこにあるのか。
そんな世の中だから、鈴奈は自尊心を犠牲にして、こんな動画を製作しなければならなくなる。
その動画さえ、強欲な男達に飽きられて、収入減少の憂き目に晒されている。
これからの人生もずっと、搾取されなければならないのだろうか。
その日は一日考え事ばかりをしていたせいか、いつの間にか昼休みになっていた。
会社の休憩スペースで、一人一番安値のツナサンドをかじる鈴奈の耳にふと同僚達の話が飛び込んできた。
「本当なんだってばぁ!」
「うそぉ、そんな話」
「ぜったいやらせだよね~」
「でもネットとかでも友達がそういう目に遭ったとか、SNSに投稿があるって聞いたよ」
「それもどうだか。ねえ、柏原さんはどう思う? 柏原さん?」
「え? 私?」
話について行けてなくて、きょとんとする鈴奈の前に一人の同僚がスマホ画面を見せた。
鬱蒼とした森の中に佇む古びた鳥居の写真だった。
「これが?」
「今、都市伝説で噂の女人禁制地の山なんだって」
「ニョニンキンセイ?」
「ほら、女は入るなってやつ。御寺とか、昔あったでしょ」
「ひどいよね、明らかな男女差別だよね」
全くもってその通りだ。だから現代になってなお、こんな安月給で責任の重い仕事を押し付けられる。
「そうそう、でもね。そう言って、ここに入った女性が何人かいるらしいんだけど、それが本当に行方不明になったって」
「え、行方不明?」
「神隠しってやつ? 怖くない?」
「違うよ。絶対その投稿はガセだって」
彼女らの話によると、ネット界隈で最近、この話題で賑やかになっているとか。
だがその近況など、鈴奈にはどうでもよかった。
彼女には今、抱えている悩みを一挙に解決する妙案のことで頭が一杯だったからだ。
低迷気味の動画配信収入を挽回し、ついでに不条理な男社会に一矢報いる方策が。
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