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3章: 威厳なき名家
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あれから一ヶ月ほどが経ち、前代未聞の決闘が士官学校の噂に上らなくなった頃。
レムダは他の学生達に混じって戦術に関する延々たる座学を聞いていた。
「ここに、大きな川があり、我が方の軍が橋を渡って対岸で待ち伏せていた敵と交戦しているとしよう。敵の数は少数だが、現在の我が方の戦力で突破できるほどの寡兵ではない。さて、諸君はこの後、どのような戦術を立てるかね?」
教授が質問を投げかけると、数人の学生がすぐさま手を上げた。
「すぐに増援部隊を投入し、対岸の制圧を図ります」
「その根拠は?」
「我が方の軍が多勢ではありますが、橋を渡らなければならない故、全軍の戦力を投入することができません。このような状況を覆すためには、一旦戦線を対岸側へ押し上げて、総攻撃をかけるのが得策だと思います」
「ふむ、一理ある。他に、これと意見の異なる者は?」
手を上げる者はいなかった。
講堂に百名あまりの学生がいながら、皆同じ意見というわけだ。
「そうだな。では、この学生に聞いてみるとしよう。レムダ=ゲオルグはいるかね?」
「はい?」
「君ならばどうする? ただし、土下座して敵軍に橋を通してもらうわけにはいかないぞ」
講堂中からくすくすと笑い声が上がった。
「僕ですか? 僕の意見が参考になるかどうかはわかりませんが、そもそもこのシナリオは侵攻作戦なんですかね?」
「それがこの課題の問いに何の関係が?」
「いえ、理不尽な侵攻であればそもそも初めからするべきではないかと」
「・・・・・・レムダ=ゲオルグ君。君は一つ重大かつ根本的な認識違いをしているようだ。我々は士官学校を学び出でた後、帝国軍の指揮官としてどんな作戦であれ、最善を尽くさなければならない。そもそも開戦と停戦の締結権は皇帝陛下に存するのだ。もう座りたまえ。それで、他に案のある者は?」
レムダが腰を下ろすのと引き換えに一人の手が上がった。
「君は、フェリス=トレスデン君か?」
「はい、私でしたら、この橋は渡らずに落とします」
「何? 橋を落とすだと」
講堂中が沈黙した。
「ええ、木っ端みじんに壊して二度と渡れなくします。そうすれば、敵軍は渡れなくなるでしょう」
「我が軍も渡れなくなると思うが?」
「それでいいです。この戦い、橋を渡るのは間違いです」
「根拠は?」
「まず敵の布陣が不自然です。少数兵力しかないのであれば、少なくとも橋の中程に前線を敷いた方が、大軍の兵力を各個撃破できるはず。それをなぜ対岸側まで下げる必要があるのか。それは恐らく、こちらの軍をある程度対岸に誘い込みたいからでしょう」
他の学生がいきなり立ち上がって叫んだ。
「誘い込むなど、あり得ない! そんなことを許せば、敵軍は我が軍の集中砲火を浴びることになるではないか!」
「そうでしょうか。確かにこのまま我が軍の全兵力が橋を渡り切ればそうなるでしょうが、それを敵が座視しているはずがありません。思うに橋を渡る手前にも、敵軍の伏兵がいるのではありませんか?」
フェリスの言葉を受けて講堂内が異様にざわめいた。
レムダは他の学生達に混じって戦術に関する延々たる座学を聞いていた。
「ここに、大きな川があり、我が方の軍が橋を渡って対岸で待ち伏せていた敵と交戦しているとしよう。敵の数は少数だが、現在の我が方の戦力で突破できるほどの寡兵ではない。さて、諸君はこの後、どのような戦術を立てるかね?」
教授が質問を投げかけると、数人の学生がすぐさま手を上げた。
「すぐに増援部隊を投入し、対岸の制圧を図ります」
「その根拠は?」
「我が方の軍が多勢ではありますが、橋を渡らなければならない故、全軍の戦力を投入することができません。このような状況を覆すためには、一旦戦線を対岸側へ押し上げて、総攻撃をかけるのが得策だと思います」
「ふむ、一理ある。他に、これと意見の異なる者は?」
手を上げる者はいなかった。
講堂に百名あまりの学生がいながら、皆同じ意見というわけだ。
「そうだな。では、この学生に聞いてみるとしよう。レムダ=ゲオルグはいるかね?」
「はい?」
「君ならばどうする? ただし、土下座して敵軍に橋を通してもらうわけにはいかないぞ」
講堂中からくすくすと笑い声が上がった。
「僕ですか? 僕の意見が参考になるかどうかはわかりませんが、そもそもこのシナリオは侵攻作戦なんですかね?」
「それがこの課題の問いに何の関係が?」
「いえ、理不尽な侵攻であればそもそも初めからするべきではないかと」
「・・・・・・レムダ=ゲオルグ君。君は一つ重大かつ根本的な認識違いをしているようだ。我々は士官学校を学び出でた後、帝国軍の指揮官としてどんな作戦であれ、最善を尽くさなければならない。そもそも開戦と停戦の締結権は皇帝陛下に存するのだ。もう座りたまえ。それで、他に案のある者は?」
レムダが腰を下ろすのと引き換えに一人の手が上がった。
「君は、フェリス=トレスデン君か?」
「はい、私でしたら、この橋は渡らずに落とします」
「何? 橋を落とすだと」
講堂中が沈黙した。
「ええ、木っ端みじんに壊して二度と渡れなくします。そうすれば、敵軍は渡れなくなるでしょう」
「我が軍も渡れなくなると思うが?」
「それでいいです。この戦い、橋を渡るのは間違いです」
「根拠は?」
「まず敵の布陣が不自然です。少数兵力しかないのであれば、少なくとも橋の中程に前線を敷いた方が、大軍の兵力を各個撃破できるはず。それをなぜ対岸側まで下げる必要があるのか。それは恐らく、こちらの軍をある程度対岸に誘い込みたいからでしょう」
他の学生がいきなり立ち上がって叫んだ。
「誘い込むなど、あり得ない! そんなことを許せば、敵軍は我が軍の集中砲火を浴びることになるではないか!」
「そうでしょうか。確かにこのまま我が軍の全兵力が橋を渡り切ればそうなるでしょうが、それを敵が座視しているはずがありません。思うに橋を渡る手前にも、敵軍の伏兵がいるのではありませんか?」
フェリスの言葉を受けて講堂内が異様にざわめいた。
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