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3章: 威厳なき名家

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「敵の戦略をまとめればこういうことではないでしょうか。対岸側の少数兵力を囮に、我が軍を川の対岸へ誘い込む。橋を渡ったところで、背後から伏兵が我が軍の後方を突き、橋を境にこちらの戦力を分散。そこへ対岸側から増援兵力が我が軍の前衛を殲滅し、後方支援の脆弱な兵力を全軍で叩き潰す。こうなっては我が軍は壊滅です。だからいっそ、こんな橋は落としてしまって、先に自分達がいる岸部の安全を確保するべきです。そうすれば敵は味方を助けたくても助けられない。後はゆっくり川を渡る方法を考えればいいのではないでしょうか?」
「・・・・・・見事だ」
 教授は眼鏡をずり下ろしながら拍手を打った。
「まさにこの課題の模範的解答だ」
「異議があります! 川の両岸に敵の戦力があるという条件は、そもそも提示されていません」
「提示されてはいませんが、それがないとは言い切れないでしょう? 実際の戦争はこの川の近辺だけに留まらない。少なくとも戦線全周の兵力に気を配らないと、命取りになりますよ?」
 度重なる反論を難なくやってのけるフェリスに、立ち向かう者は遂にいなくなった。
「一つ教えてくれ。フェリス君。君はこの話を、前もって他の誰かから聞いたのかね?」
「いいえ、さっきの教授のお話が初めてです」
「あの」
 レムダが間延びした声と共に手を上げた。
「まだ何かあるのかね? レムダ君」
「いえ、橋を落とす策略は妙案だと思いますが、実際にどうやって壊すんでしょうか?」
「そんなの・・・・・・橋げたを抜くなり、柱を切り落とすなりいくらでもあるでしょう?」
「もしその橋が、堅牢な石橋だとしたら? 橋を渡らないにしても、戦略は修正しなければなりませんよね」
「そんなこと・・・・・・実際の橋を見て考えればいいだけのことでは? 最終手段として、帝国には魔導士だって大勢いるのですよ」
「魔導士と言っても、有事となれば貴重な戦力の彼らを集結できるでしょうか?」
 ここで教授が咳払いをする。
「気は済んだかな? レムダ君。ともあれ、今の解答は実に興味深かった。皆も、教本の基本戦略によらず、フェリス君のように敵の戦術の真意を見抜くように。今日の講義はこれまでだ」
 タイミングよく鐘楼が正午を報せ、学生達は各々荷物をまとめて立ち上がる。
 そんな中、レムダはいち早く行動を出て行った。
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