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2章: 騎士団長の娘
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「ん? 誰ですか?」
まどろんだ学生の眼はイシルの姿をまだはっきりと視野に収めていなかった。
幼子のように無防備な姿勢で、片方の目をこすっている。
「アシェリー様! 失礼いたします!」
跳ね返るほどの衝撃で勢い良く開かれたドアの向こうから数人の影が現れる。
彼女の部屋の様子を普段から知っていたのか、片付けが行き届いた各所を見回し、最後にアシェリーと呼ばれた学生と、その隣に立つイシルに視線を落とす。
「あら、あなた。ここで一体何をなさっていますの?」
三人は同学年の学生だった。
このうち金髪のブロンドヘアの少女がずかずかと進み出てくる。
「掃除ですが?」
「掃除? 本当にそれだけですか? 今、アシェリー様に近づいて何かしようとしていませんでしたか?」
「いや、机を片付けるから起こそうかどうかと」
弁解するイシルを吊り目で睨みつける。
後続の二人がぼんやりとイシルを見つめるアシェリーを庇うかのように立ち回った。
「アシェリー様? 何か変わったことはありませんか? 物を盗られたとか、着衣が乱れるとか」
「まぁ!! アシェリー様! ネクタイの結び目が解けていますわ! さてはこの男!」
「違うって! うつ伏せに寝ていたんだからそんな所に手は届かないって!」
「アシェリー様! この男、台車にアシェリー様の衣服をたくさん積んでいますわよ!・・・・・・これは、下着? この男、アシェリー様の下着を盗んでいるわ!」
「洗濯もしないで部屋に置いとくからまとめ洗いするんだよ! こちとらそれが仕事なんだ!」
「言い訳はどうであれ、アシェリー様のお傍に近づくなんて言語道断。お世話係は私達だけで十分ですわ!」
「だったらどうして部屋がこうなるまで放置したんだよ!」
「アシェリー様の勉学のお邪魔をしないためよ。アシェリー様はお忙しいのよ。代々王国の騎士団長を務める高潔なグランフェルトの家系にして、やがてはこの冒険者学院を首席で卒業なさるのよ」
どうやらあの茶髪の女の子は偉い家柄の人間で、この乱入してきた三人組はその取り巻きらしい。
「わかったよ。で、この洗濯物の山はどうするんだ? アンタらが代わりに洗ってくれるのか?」
「何を言いますの? それはあなたの仕事なのでしょう。アシェリー様の麗しの肌に触れる物なのだから、シミ一つ残さず綺麗に洗濯して御返しなさい!」
「すいません。洗濯、よろしくお願いします」
奥からアシェリーが礼儀正しく頭を下げる。
「アシェリー様。このような下賤の者に頭を下げる必要などないのですよ!」
「でも・・・・・・」
「アシェリー様は、常に気高く、皆の模範として君臨されれば、それでよいのですわ!」
「・・・・・・コイツ」
イシルは憤りを堪えながら学院の片隅でタライを前に手洗いをする。
洗い物はアシェリーだけのものではない。
何人もいる学生のそれを、混在がないように明確に管理しながら物干し竿に掛けていく。
無論、位置関係も重要で下着類は常にシーツで隠した配置にしなければならない。
ある意味冒険者稼業より気を遣う仕事だ。
そう思いながら晴天の下に下着を吊るしていくイシルの前を何者かが横切った。
不審者ではなく、学院の厨房で働く寮母だった。
「どうかしたんですか?」
商売道具であるはずのフライパンをなぜか武器のように携えていたのを、イシルは不思議に思った。
「実は、またやられたのよ。ウチのパンが、泥棒猫に盗まれたみたいなの。ねえ、悪いけど猫退治を手伝ってくれないかしら?」
全く、イシルには安息というものがなかった。
まどろんだ学生の眼はイシルの姿をまだはっきりと視野に収めていなかった。
幼子のように無防備な姿勢で、片方の目をこすっている。
「アシェリー様! 失礼いたします!」
跳ね返るほどの衝撃で勢い良く開かれたドアの向こうから数人の影が現れる。
彼女の部屋の様子を普段から知っていたのか、片付けが行き届いた各所を見回し、最後にアシェリーと呼ばれた学生と、その隣に立つイシルに視線を落とす。
「あら、あなた。ここで一体何をなさっていますの?」
三人は同学年の学生だった。
このうち金髪のブロンドヘアの少女がずかずかと進み出てくる。
「掃除ですが?」
「掃除? 本当にそれだけですか? 今、アシェリー様に近づいて何かしようとしていませんでしたか?」
「いや、机を片付けるから起こそうかどうかと」
弁解するイシルを吊り目で睨みつける。
後続の二人がぼんやりとイシルを見つめるアシェリーを庇うかのように立ち回った。
「アシェリー様? 何か変わったことはありませんか? 物を盗られたとか、着衣が乱れるとか」
「まぁ!! アシェリー様! ネクタイの結び目が解けていますわ! さてはこの男!」
「違うって! うつ伏せに寝ていたんだからそんな所に手は届かないって!」
「アシェリー様! この男、台車にアシェリー様の衣服をたくさん積んでいますわよ!・・・・・・これは、下着? この男、アシェリー様の下着を盗んでいるわ!」
「洗濯もしないで部屋に置いとくからまとめ洗いするんだよ! こちとらそれが仕事なんだ!」
「言い訳はどうであれ、アシェリー様のお傍に近づくなんて言語道断。お世話係は私達だけで十分ですわ!」
「だったらどうして部屋がこうなるまで放置したんだよ!」
「アシェリー様の勉学のお邪魔をしないためよ。アシェリー様はお忙しいのよ。代々王国の騎士団長を務める高潔なグランフェルトの家系にして、やがてはこの冒険者学院を首席で卒業なさるのよ」
どうやらあの茶髪の女の子は偉い家柄の人間で、この乱入してきた三人組はその取り巻きらしい。
「わかったよ。で、この洗濯物の山はどうするんだ? アンタらが代わりに洗ってくれるのか?」
「何を言いますの? それはあなたの仕事なのでしょう。アシェリー様の麗しの肌に触れる物なのだから、シミ一つ残さず綺麗に洗濯して御返しなさい!」
「すいません。洗濯、よろしくお願いします」
奥からアシェリーが礼儀正しく頭を下げる。
「アシェリー様。このような下賤の者に頭を下げる必要などないのですよ!」
「でも・・・・・・」
「アシェリー様は、常に気高く、皆の模範として君臨されれば、それでよいのですわ!」
「・・・・・・コイツ」
イシルは憤りを堪えながら学院の片隅でタライを前に手洗いをする。
洗い物はアシェリーだけのものではない。
何人もいる学生のそれを、混在がないように明確に管理しながら物干し竿に掛けていく。
無論、位置関係も重要で下着類は常にシーツで隠した配置にしなければならない。
ある意味冒険者稼業より気を遣う仕事だ。
そう思いながら晴天の下に下着を吊るしていくイシルの前を何者かが横切った。
不審者ではなく、学院の厨房で働く寮母だった。
「どうかしたんですか?」
商売道具であるはずのフライパンをなぜか武器のように携えていたのを、イシルは不思議に思った。
「実は、またやられたのよ。ウチのパンが、泥棒猫に盗まれたみたいなの。ねえ、悪いけど猫退治を手伝ってくれないかしら?」
全く、イシルには安息というものがなかった。
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