落第のケルベロス~落ちこぼれ冒険者はチュートリアルダンジョンでヒロインを攻略することになりました~

自慰煽情のアリア

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2章: 騎士団長の娘

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 消灯時間。
 学生寮の明かりが次々と消えていく中、イシルは屋外で泥棒猫の巡回に駆り出されていた。
 寮母の話によればホシは開け放たれた窓から侵入して、大きな物音がしたかと思えば、机のバスケットに積まれていたパンを盗んだのだという。
 それもかなり図体の大きい奴らしく、窓には引っ掛かった時の毛が絡みついていた。
 色は茶色。
 さぞふてぶてしい顔をしたデブ猫に違いない。
 木々や草むらの揺れる音に注意しながら庭園を見回るイシル。
 彼の耳に風の音とは違う、高い唸りが届く。
 音はまるで人目を憚るかのように、講義棟として使われている建物の背後から聞こえてきた。
 斜めに差す月明かりが、音に伴って動く影を薄っすらと捉えている。
 しかしその動きは猫のそれとは何かが違う。
 真っ直ぐな背筋と長くたゆたう髪。
 案の定、影の正体は学院の学生だった。
 月の光を受けて輝くロングソードで虚空を斬りつけ、どうやら素振りの練習をしているようである。
「誰?」
 気配を察したのか、学生は素振りの途中でこちらを向いた。

 今日、部屋の片づけで色々受難の有ったアシェリーの横顔が白く輝く。
「すまない。驚かした」
「あなたは今朝の? こんな所でどうしたのですか?」
「食堂のパンを盗む泥棒猫退治に駆り出されてな」
「そうですか。遅くまでご苦労様です」
「そっちこそ、昨日は徹夜漬けの勉強で今日は遅くまで剣の稽古か?」
「はい、色々頑張らなきゃいけないものですから」
 イシルと話す時間も惜しいのか、彼女は素振りを再開する。
「あの取り巻き連中の前で示しがつかないと?」
「・・・・・・少し違いますかね」
「どういう意味だ?」
「・・・・・・あなただったらお話ししますけど、誰にも口外して下さいね。私、ここを卒業したら家を出ることになっているんです」
「家って、騎士団長の家系の?」
「私、どちらかと言えば剣とか魔法とかそんなに強くなくて、騎士団長の座は兄が継ぐことになっているんです。それで私は付き合いのある別の貴族の妾として婚約者が決まっていたのですけど・・・・・・」
「嫌だから親の反対を押し切って冒険者学院に進学した?」
 アシェリーは照れながら頷いた。
「子供っぽい理由と思われるかもしれませんが、子供の頃に読んだ冒険者譚にずっと憧れていて、自由な生活というものをしてみたかったんです。もちろん父は大反対で、それでも入学に踏み切った私は、卒業と同時に家を勘当されると宣告されています」
 勘当に猶予を持たせることで、在学中に自分の下へ娘が戻ってくるのを期待しているのだろう。
 騎士団長の父親も中々頭が切れる人物らしい。何より、最後まで娘を諦めたくない気持ちが窺い知れる。
「でも、冒険者の夢を諦めたくないから今も頑張っている。そういう、事なんだよな?」
「・・・・・・どうでしょうか。やっぱり私は冒険者に向いていなかったような気がします。私がそれほど優秀ではないことは、もう学院内でも噂になっていると思います。それでも私の周囲に皆が集まるのは、私自身がどうだからってわけじゃなくて、グランフェルトの家と交流を持った方が将来何かと得だと計算しているから。今日部屋にいたあの子達は皆、貴族の家の出身なんです」
「だったら、夢を諦めて親御さんと和解する選択肢も有りなんじゃないか? 不本意とはいえ」
「・・・・・・そう、考えたこともありますが」
 本人もまだ結論に至っていないのだろう。アシェリーの瞳は迷いで揺れていた。
 子供の頃から抱いてきた冒険者への憧れは自分の意思だけで簡単に捨てられるものじゃない。
 そのことはイシル自身がよくわかっている。
「腰を、捻った方がいい」
「はぁっ!? こんな時に何の話を?」
「剣の稽古の話だよ。ロングソードって武器は建前上は片手剣だが、その威力を膂力だけに任せるのは素人のやる事だ。振り下ろす時は剣の自重を使って、斬り上げや薙ぎ払いをする時は、腰まで捻って全身で剣に慣性を付けてやれば威力は段違いに上がる」
「あ、ありがとうございます。あの、あなたは一体?」
「昔、知り合いの冒険者に聞いたのさ」
 結果的に自分が恥ずかしい勘違いをしたのだと気付かされたアシェリーは早速イシルのアドバイスを不器用ながら実践する。
「じゃあな。頑張れよ」
 イシルも本来の業務に戻ったが、その晩お尋ね者の泥棒猫は見つからなかった。 
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