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しおりを挟むリオは私の出現に、かなり焦った様子だった。
「私は何をしている、と聞いたんだけど?」
「い、いや……これは……こいつが!」
自分ではなく、他人のせいにする。よくリオが他人に自分の失態をなすりつけているという報告も上がってきていた。
いきなりのことで、言葉を準備していなかったらしい。言いたい言い訳が上手くまとまらず、言葉に詰まっている。
リオは、ハッとして、少年の胸ぐらを掴んでいた手を離した。
「それで……リオ……いや、リィゥオル・パルドゥスト? 見たところ相手は一般市民のようだが、一体何をしていたんだい?」
深く微笑んでリオを見下ろした。真っ青になっていくリオの顔を冷たく見据えた。
「こ、これは……その……っ」
「答えられないと?」
「こ、こいつが……いきなり掴みかかってきてっ」
きっとこれも嘘だろうな。
「ほう? それでさらにこの善良そうな一般市民にリオ、お前は掴みかかったと? そういうことかい?」
「あ、ぅ……それは……」
下を向いて表情は見えないが、焦りながらも頭がフル回転させて言い訳や嘘を捻り出しているのがわかる。
「ぜ、善良な市民なんかじゃありません団長!こいつは……東の民で……み、身分を証明する物を所持していなかったんです! 財布をすられたからって逆上して掴みかかってきて……」
「ふぅん、なるほど……」
こんな短時間で、もっともらしい言い訳を思いつくリオはこういった場面に遭遇することが多かったのかもしれない。
とんだ特技だな。
リオの言い分を聞いたら、今度は少年の言い分を聞こうとそちらに目を向ける。
「それじゃあ、君の言い分を聞こうか」
「え……えっと?」
いきなり話しかけられてびっくりしているようだ。
目がくりくりとしている。
(あー、可愛い……)
語彙力が崩壊して可愛いしか言えなくなっている。だが事実、可愛いのだから仕方ない。
「身分証を持たない君がこの若騎士のリィゥオルに最初に掴みかかり、彼が応戦した、そう言うことでいいのかい?」
リオの主張を再度述べる。ギロリとリオが彼に圧をかけたのがわかった。
はぁ、と面倒くさそうに彼はため息を吐いた。従順そうにも見える彼の幼さを残す顔。だがその小さな口からは、全く予想外の言葉が吐き出された。
「いいえ、全く違います」
こちらを見据えてキッパリと断言する彼に、ますます興味を惹かれた。
「ほう? どう違うんだい?」
「おい! お前……っ!」
リオが少年の口を塞ごうと手を伸ばす。その手首を私は掴み、捻り返した。
「リオ、今はこちらに言い分を聞いている。お前は黙って聞いてろ」
彼とリオの間に体を入れ込んで、リオの体を押し出した。
「っ……ぃっ!」
リオは私にさらに手首を捻られて痛そうに顔が歪んだ。
中断された話の続きを促すように、私は彼に視線を向ける。彼は続きを話し始めた。
「このリオ? という騎士様は、最初から俺の財布盗難被害の調書を取る気がなかったようで、ずっと偉そうな態度でした。俺が東の民であるとわかると、差別的な対応でこの王国から出ていけと言われました。俺だけじゃなくて、育ての親のじいちゃんのことまで悪く言われて……それで俺が感情的になって抗議したら、胸ぐらを掴まれました。俺が騎士様の胸ぐらを掴んだ事実はありません。
それに、その机の上の調書を見て貰えばわかると思いますが、落書きばっかりしています。」
「んなっ……!」
机の上の調書をぺらぺらとめくると、ずっと下手くそな落書きが続いていた。
「ふむ。確かに、落書きばっかりのようだね」
詰め所の仕事は退屈ではあるが、調書くらいは取っていると思っていた。思ったよりもリオは使えない存在なのかもしれない。
騎士団に入団したのだって、家のコネか何かだと聞いている。
こういった存在はなるべく早く排除していきたいが、こういう輩こそ失態を隠すのが上手い。
「リオ、君は調書もろくに取れないのかい。君には期待しているのに、残念だよ」
「……くっ!」
リオはギリギリと歯軋りしながら血走った目で彼を射殺さんとしていた。
「このことは本部にも報告させてもらうよ。リオ、君には1週間の謹慎処分を課す。このまま寮の自室に戻るように」
この報告だけでは、リオを首にはできないだろうが、小さな処分が積み重なっていけばいつかは……。
というのは私の希望的観測で、やはり何か尻尾を掴まないと排除するのは難しいだろう。
「……っ、はい……わかりました」
わかったとは言いながらも納得がいかなそうだ。
リオはずっと少年を恨みがましく睨みつける。
少年の方は怯えた様子もなく、むしろ好戦的な表情だ。いざとなったら戦ってやる、という意思を感じた。
「さあ、行け」
リオはようやっと立ち去った。
「さぁ、君、こちらへ来なさい。盗難の調書を取るからね」
「え? いや、俺はもう……」
戸惑う彼に構わず、強引に肩を掴んだ。
言葉の続きを言わせずに、攫うように私のお気に入りのカフェに連れて行った。
この機会を逃せば二度とイチゴに会えなくなるかもしれなかったから、逃さないようにがっちりと肩を掴んで離さなかった。
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