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しおりを挟む「んー……、こっちだな」
タイセーがスマホアプリでマップを操作しながら伝えられた通りの番地までの道のりをガイドしてくれている。タイセーも今回初めて家に訪問するらしい。
二人は道を確認しながら進んで行った。
「本当に相手はいいって言ってんだろうな?」
「大丈夫大丈夫~」
もう何度もしつこいくらいこのやり取りをしている。もうタイセーはそれしか言わなくなった。
だが、俺がこんなに心配するのも当然と言っちゃ当然だろう。全く知らない赤の他人の家に、住み込みで家事代行アルバイターとして世話になるのだから。
……いや、世話をしに行くのかむしろ。
そう思ったらちょっとだけ気が楽になった。
現在イチロとタイセーの二人はタイセーの仕事仲間の家に向かっていた。その仕事仲間は、無職で住所なしの行き場のないイチロをタイセーとのよしみで俺を自分の家に雇い入れてくれるというのだ。そのタイセーの仕事仲間の名前はラッセルというらしい。
友達のよしみでも流石に相手に申し訳ないし、見ず知らずの相手にそんな仕事をしかも住み込みで、融通してもらっていいのかとも思った。だが、「この仕事を断ったらお前これからどうすんだよ?」とタイセーに聞かれると何とも答えられず……。
結局何だかんだ言って甘えてしまうことになった。
俺はタイセー以外に頼れる相手もいない。
そのタイセーが紹介してくれる相手だし、きっと悪いようにはならないはずだ。
家族に頼るのは最終手段だ。普通の家族が想像する家庭の温もり、というのは俺の家族には当てはまらない。俺だけに当てはまらない、と言った方が正しいかもしれない。家族の一員というカテゴリーに、自分だけ入ってないのだ。それは家族が全員ベータで、俺一人がオメガだったから。
「もうすぐ着くぞ」
タイセーがスマホを振り翳しながら先導する。
「緊張してきたな……」
本当は、オメガってことも言っといた方がいいんだろうな。けれど、それを言ったら絶対に雇って貰えなくなるだろう。住所不定無職のオメガ。最悪だ。
タイセーにも言えていない秘密だった。俺は他のオメガと違って可愛らしい見た目でもないし庇護欲もそそられない、全くフェロモンのフェの字も見当たらないほどだ。
現代のアルファ、オメガは全盛期と比べるとフェロモンが劣化してきているにはいる。だが、少なからず人を魅了するほどのフェロモンを持ち合わせているのだ。
獣人は鼻がいい者たちばかりなので、フェロモンが低下してきているといってもそれをみな感じられる。
そして、アルファは美形で頭も良いのはもちろん、オメガも見目がよく女性としての部分を持ち合わせているからか女性らしい美しさを持つ者がほとんどだ。オメガは基本的に発情期を持つ。元の種族的に発情期が強い種族は特に発情期は大変らしい。
そのどれも持ち合わせてはいない自分。出来損ないのオメガというわけだ。
というか、ラッセルさんは何獣人なのだろうか。
ウサギ、リス、ネコ獣人あたりか?でも種族柄表情があまりないってどういう種族なんだろう……。
「……あー、ここだわ」
悶々と考えを巡らせている内に、タイセーがラッセルから教えてもらった住宅にたどり着いた。
「は、…………えぇ!?」
俺はドドン!という音が聞こえそうなほど立派な一軒家を思わず声を出して見上げてしまった。敷地内を囲む高くて大きな塀。そのど真ん中にこれまた聳え立つ立派なお家。
「おー、すっげ!でっかいなー!ここは都内から大分離れた所だから、土地が安い分豪邸建てられるよなー。いいなー、俺も将来ここらへんに土地買って家建てよっかな」
いやいやそういうことじゃないだろ!
確かにここら一体は田舎の方だから土地代は安いかもしれないけど、それを差し引いたって立派な住宅だ。
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