21 / 58
8-2
しおりを挟む
「それに、先祖返りでヘビの俺に恐れずに触れてくれる」
するっと手を握られた。指の間に指が入ってきて絡めとられる。すりすりと手の甲を指でさすられた。
なんかこれって恋人同士がするやつじゃないのか?今時の友だちってこんなバックハグしながら添い寝して手を握り合ったりするのかな。
友達がタイセーしかいない俺にはわからないし、タイセーとそんなことをすると考えただけで鳥肌ものだ。今のこのラッセルとの状況をなんと呼ぶのかわからないが、自分は嫌ではないことはわかっていた。
――でもこんなのダメだろ。仮にも雇い主と、こんな、こんな一つベッドの中なんて。しかも、俺たち男同士だし。
それに、ラッセルはアルファだろう。ラッセルには言っていないし知らないだろうが、俺はオメガだ。俺はフェロモンを発しないしアルファのフェロモンを嗅ぎ取ることもできない不完全オメガ。だけど、やはりオメガだ。何か間違いが起こってしまう可能性も完全にゼロじゃない。
やっぱり抜け出さなければと、上半身を起こそうとしても体にはぐるりとラッセルの腕が回っていて剥がせそうもない。かなりの体格差に加えてラッセルは結構力も強いみたいだ。壁を押しやっているかのように動かない。
「…んっ、イチロ……そんなに身動きすると変な所が反応してしまう」
「ぇえっ?!」
「だから大人しくしてくれ。もう寝よう」
――へ、変な所ってどこだよー!
俺はもう一本の指も動かせないほど固まってしまった。
緊張して固まってしまった俺の体をなだめかせるようにとんとんと体を叩かれて寝かしつけられる。今まで小さい兄妹たちを寝かしつけする側であったが、とんとんされることはなかった。寝かしつけされるのってこんなに気持ちいいものなんだ。すぐにうとうとと目がとろけて眠たくなってきた。緊張して固くなった体は解れて力が抜けていった。
意識が完全に落ちる前にうなじに顔を埋められて匂いを嗅がれたような気がした。
「微かだが、爽やかないい匂いだ。オレンジスイートの甘くて爽やかな香り……。ああ、俺のオメガだ……。俺の運命の……」
俺はすでに夢の中で、ラッセルの独り言は聞こえていなかった。
懐かしい夢だ。
『いいこだねぇイチロ。かわいいこだ』
大好きなおばあちゃん。生きていた時には兄弟たちと変わらずに甘やかしてくれた。むしろ、特別甘やかしてくれていたかもしれない。まだまだ俺が小さい時の淡い記憶。
おばあちゃんにぎゅうぎゅうと抱きつく。そうするとおばあちゃんも同じくらいの強さで抱きしめ返してくれた。
『おばあちゃん、だいすき』
『おばあちゃんもイチロのことが大好きさ』
うふふ、と笑い合う。
おばあちゃんのふっくらとした厚みのある体で抱きしめられると心地よい気分になる。
こんなに愛情を示してくれたのは、おばあちゃんだけだった。俺は家族のことを大事に思っていたのに、その思いは一方通行だった。それでも血の繋がりはあるのだからと、そんな血の絆に縋って生活してきた。心は悲鳴を上げ続けて、無視をして生活していったけどやはり心も体もボロボロになっていった。だから家族の元から自分から離れた。
胸が苦しくなってきて、涙が溢れ出た。
『どうしたんだい、イチロ。何で泣いてるのさ』
『おばあちゃん、ぼくをあいしてくれるひとは、いるのかな…。おばあちゃんがいなくなったらぼく、ぼく……』
止まらない涙はほろほろと小さな目から流れ出る。それをしわしわの手で優しく拭ってくれた。
『大丈夫。イチロを愛してくれる人は必ず現れるさ』
『ほんとうに?』
『本当だよ。運命で繋がった相手がきっと』
『運命…』
そんなもの本当にいるのだろうか。運命の、番い……。
不完全な俺に、そんな相手が見つかる訳がないと思う反面、いるかもしれないという期待は捨てきれない。
俺を愛してくれる存在。
どんな俺でも無条件に愛してくれる。慈しんでくれる。
そして俺も同じだけの愛を捧ぐ。すでに決まった運命。それでも愛し愛される関係に憧れて、望みを捨てきれない。
愛されたい。
愛したい。
必要とされたい。
必要としたい。
『すぐ側にいるさ。焦らなくていいんだよ、イチロ』
夢の中で嗅いだおばあちゃんの香りは、森の中にいるようなティーツリーの香りがした。
あ、この香りは、俺の運命の…………?
するっと手を握られた。指の間に指が入ってきて絡めとられる。すりすりと手の甲を指でさすられた。
なんかこれって恋人同士がするやつじゃないのか?今時の友だちってこんなバックハグしながら添い寝して手を握り合ったりするのかな。
友達がタイセーしかいない俺にはわからないし、タイセーとそんなことをすると考えただけで鳥肌ものだ。今のこのラッセルとの状況をなんと呼ぶのかわからないが、自分は嫌ではないことはわかっていた。
――でもこんなのダメだろ。仮にも雇い主と、こんな、こんな一つベッドの中なんて。しかも、俺たち男同士だし。
それに、ラッセルはアルファだろう。ラッセルには言っていないし知らないだろうが、俺はオメガだ。俺はフェロモンを発しないしアルファのフェロモンを嗅ぎ取ることもできない不完全オメガ。だけど、やはりオメガだ。何か間違いが起こってしまう可能性も完全にゼロじゃない。
やっぱり抜け出さなければと、上半身を起こそうとしても体にはぐるりとラッセルの腕が回っていて剥がせそうもない。かなりの体格差に加えてラッセルは結構力も強いみたいだ。壁を押しやっているかのように動かない。
「…んっ、イチロ……そんなに身動きすると変な所が反応してしまう」
「ぇえっ?!」
「だから大人しくしてくれ。もう寝よう」
――へ、変な所ってどこだよー!
俺はもう一本の指も動かせないほど固まってしまった。
緊張して固まってしまった俺の体をなだめかせるようにとんとんと体を叩かれて寝かしつけられる。今まで小さい兄妹たちを寝かしつけする側であったが、とんとんされることはなかった。寝かしつけされるのってこんなに気持ちいいものなんだ。すぐにうとうとと目がとろけて眠たくなってきた。緊張して固くなった体は解れて力が抜けていった。
意識が完全に落ちる前にうなじに顔を埋められて匂いを嗅がれたような気がした。
「微かだが、爽やかないい匂いだ。オレンジスイートの甘くて爽やかな香り……。ああ、俺のオメガだ……。俺の運命の……」
俺はすでに夢の中で、ラッセルの独り言は聞こえていなかった。
懐かしい夢だ。
『いいこだねぇイチロ。かわいいこだ』
大好きなおばあちゃん。生きていた時には兄弟たちと変わらずに甘やかしてくれた。むしろ、特別甘やかしてくれていたかもしれない。まだまだ俺が小さい時の淡い記憶。
おばあちゃんにぎゅうぎゅうと抱きつく。そうするとおばあちゃんも同じくらいの強さで抱きしめ返してくれた。
『おばあちゃん、だいすき』
『おばあちゃんもイチロのことが大好きさ』
うふふ、と笑い合う。
おばあちゃんのふっくらとした厚みのある体で抱きしめられると心地よい気分になる。
こんなに愛情を示してくれたのは、おばあちゃんだけだった。俺は家族のことを大事に思っていたのに、その思いは一方通行だった。それでも血の繋がりはあるのだからと、そんな血の絆に縋って生活してきた。心は悲鳴を上げ続けて、無視をして生活していったけどやはり心も体もボロボロになっていった。だから家族の元から自分から離れた。
胸が苦しくなってきて、涙が溢れ出た。
『どうしたんだい、イチロ。何で泣いてるのさ』
『おばあちゃん、ぼくをあいしてくれるひとは、いるのかな…。おばあちゃんがいなくなったらぼく、ぼく……』
止まらない涙はほろほろと小さな目から流れ出る。それをしわしわの手で優しく拭ってくれた。
『大丈夫。イチロを愛してくれる人は必ず現れるさ』
『ほんとうに?』
『本当だよ。運命で繋がった相手がきっと』
『運命…』
そんなもの本当にいるのだろうか。運命の、番い……。
不完全な俺に、そんな相手が見つかる訳がないと思う反面、いるかもしれないという期待は捨てきれない。
俺を愛してくれる存在。
どんな俺でも無条件に愛してくれる。慈しんでくれる。
そして俺も同じだけの愛を捧ぐ。すでに決まった運命。それでも愛し愛される関係に憧れて、望みを捨てきれない。
愛されたい。
愛したい。
必要とされたい。
必要としたい。
『すぐ側にいるさ。焦らなくていいんだよ、イチロ』
夢の中で嗅いだおばあちゃんの香りは、森の中にいるようなティーツリーの香りがした。
あ、この香りは、俺の運命の…………?
87
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
ベータですが、運命の番だと迫られています
モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。
運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。
執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか?
ベータがオメガになることはありません。
“運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり
※ムーンライトノベルズでも投稿しております
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない
天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。
ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。
運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった――――
※他サイトにも掲載中
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる