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「それに、先祖返りでヘビの俺に恐れずに触れてくれる」
するっと手を握られた。指の間に指が入ってきて絡めとられる。すりすりと手の甲を指でさすられた。
なんかこれって恋人同士がするやつじゃないのか?今時の友だちってこんなバックハグしながら添い寝して手を握り合ったりするのかな。
友達がタイセーしかいない俺にはわからないし、タイセーとそんなことをすると考えただけで鳥肌ものだ。今のこのラッセルとの状況をなんと呼ぶのかわからないが、自分は嫌ではないことはわかっていた。
――でもこんなのダメだろ。仮にも雇い主と、こんな、こんな一つベッドの中なんて。しかも、俺たち男同士だし。
それに、ラッセルはアルファだろう。ラッセルには言っていないし知らないだろうが、俺はオメガだ。俺はフェロモンを発しないしアルファのフェロモンを嗅ぎ取ることもできない不完全オメガ。だけど、やはりオメガだ。何か間違いが起こってしまう可能性も完全にゼロじゃない。
やっぱり抜け出さなければと、上半身を起こそうとしても体にはぐるりとラッセルの腕が回っていて剥がせそうもない。かなりの体格差に加えてラッセルは結構力も強いみたいだ。壁を押しやっているかのように動かない。
「…んっ、イチロ……そんなに身動きすると変な所が反応してしまう」
「ぇえっ?!」
「だから大人しくしてくれ。もう寝よう」
――へ、変な所ってどこだよー!
俺はもう一本の指も動かせないほど固まってしまった。
緊張して固まってしまった俺の体をなだめかせるようにとんとんと体を叩かれて寝かしつけられる。今まで小さい兄妹たちを寝かしつけする側であったが、とんとんされることはなかった。寝かしつけされるのってこんなに気持ちいいものなんだ。すぐにうとうとと目がとろけて眠たくなってきた。緊張して固くなった体は解れて力が抜けていった。
意識が完全に落ちる前にうなじに顔を埋められて匂いを嗅がれたような気がした。
「微かだが、爽やかないい匂いだ。オレンジスイートの甘くて爽やかな香り……。ああ、俺のオメガだ……。俺の運命の……」
俺はすでに夢の中で、ラッセルの独り言は聞こえていなかった。
懐かしい夢だ。
『いいこだねぇイチロ。かわいいこだ』
大好きなおばあちゃん。生きていた時には兄弟たちと変わらずに甘やかしてくれた。むしろ、特別甘やかしてくれていたかもしれない。まだまだ俺が小さい時の淡い記憶。
おばあちゃんにぎゅうぎゅうと抱きつく。そうするとおばあちゃんも同じくらいの強さで抱きしめ返してくれた。
『おばあちゃん、だいすき』
『おばあちゃんもイチロのことが大好きさ』
うふふ、と笑い合う。
おばあちゃんのふっくらとした厚みのある体で抱きしめられると心地よい気分になる。
こんなに愛情を示してくれたのは、おばあちゃんだけだった。俺は家族のことを大事に思っていたのに、その思いは一方通行だった。それでも血の繋がりはあるのだからと、そんな血の絆に縋って生活してきた。心は悲鳴を上げ続けて、無視をして生活していったけどやはり心も体もボロボロになっていった。だから家族の元から自分から離れた。
胸が苦しくなってきて、涙が溢れ出た。
『どうしたんだい、イチロ。何で泣いてるのさ』
『おばあちゃん、ぼくをあいしてくれるひとは、いるのかな…。おばあちゃんがいなくなったらぼく、ぼく……』
止まらない涙はほろほろと小さな目から流れ出る。それをしわしわの手で優しく拭ってくれた。
『大丈夫。イチロを愛してくれる人は必ず現れるさ』
『ほんとうに?』
『本当だよ。運命で繋がった相手がきっと』
『運命…』
そんなもの本当にいるのだろうか。運命の、番い……。
不完全な俺に、そんな相手が見つかる訳がないと思う反面、いるかもしれないという期待は捨てきれない。
俺を愛してくれる存在。
どんな俺でも無条件に愛してくれる。慈しんでくれる。
そして俺も同じだけの愛を捧ぐ。すでに決まった運命。それでも愛し愛される関係に憧れて、望みを捨てきれない。
愛されたい。
愛したい。
必要とされたい。
必要としたい。
『すぐ側にいるさ。焦らなくていいんだよ、イチロ』
夢の中で嗅いだおばあちゃんの香りは、森の中にいるようなティーツリーの香りがした。
あ、この香りは、俺の運命の…………?
するっと手を握られた。指の間に指が入ってきて絡めとられる。すりすりと手の甲を指でさすられた。
なんかこれって恋人同士がするやつじゃないのか?今時の友だちってこんなバックハグしながら添い寝して手を握り合ったりするのかな。
友達がタイセーしかいない俺にはわからないし、タイセーとそんなことをすると考えただけで鳥肌ものだ。今のこのラッセルとの状況をなんと呼ぶのかわからないが、自分は嫌ではないことはわかっていた。
――でもこんなのダメだろ。仮にも雇い主と、こんな、こんな一つベッドの中なんて。しかも、俺たち男同士だし。
それに、ラッセルはアルファだろう。ラッセルには言っていないし知らないだろうが、俺はオメガだ。俺はフェロモンを発しないしアルファのフェロモンを嗅ぎ取ることもできない不完全オメガ。だけど、やはりオメガだ。何か間違いが起こってしまう可能性も完全にゼロじゃない。
やっぱり抜け出さなければと、上半身を起こそうとしても体にはぐるりとラッセルの腕が回っていて剥がせそうもない。かなりの体格差に加えてラッセルは結構力も強いみたいだ。壁を押しやっているかのように動かない。
「…んっ、イチロ……そんなに身動きすると変な所が反応してしまう」
「ぇえっ?!」
「だから大人しくしてくれ。もう寝よう」
――へ、変な所ってどこだよー!
俺はもう一本の指も動かせないほど固まってしまった。
緊張して固まってしまった俺の体をなだめかせるようにとんとんと体を叩かれて寝かしつけられる。今まで小さい兄妹たちを寝かしつけする側であったが、とんとんされることはなかった。寝かしつけされるのってこんなに気持ちいいものなんだ。すぐにうとうとと目がとろけて眠たくなってきた。緊張して固くなった体は解れて力が抜けていった。
意識が完全に落ちる前にうなじに顔を埋められて匂いを嗅がれたような気がした。
「微かだが、爽やかないい匂いだ。オレンジスイートの甘くて爽やかな香り……。ああ、俺のオメガだ……。俺の運命の……」
俺はすでに夢の中で、ラッセルの独り言は聞こえていなかった。
懐かしい夢だ。
『いいこだねぇイチロ。かわいいこだ』
大好きなおばあちゃん。生きていた時には兄弟たちと変わらずに甘やかしてくれた。むしろ、特別甘やかしてくれていたかもしれない。まだまだ俺が小さい時の淡い記憶。
おばあちゃんにぎゅうぎゅうと抱きつく。そうするとおばあちゃんも同じくらいの強さで抱きしめ返してくれた。
『おばあちゃん、だいすき』
『おばあちゃんもイチロのことが大好きさ』
うふふ、と笑い合う。
おばあちゃんのふっくらとした厚みのある体で抱きしめられると心地よい気分になる。
こんなに愛情を示してくれたのは、おばあちゃんだけだった。俺は家族のことを大事に思っていたのに、その思いは一方通行だった。それでも血の繋がりはあるのだからと、そんな血の絆に縋って生活してきた。心は悲鳴を上げ続けて、無視をして生活していったけどやはり心も体もボロボロになっていった。だから家族の元から自分から離れた。
胸が苦しくなってきて、涙が溢れ出た。
『どうしたんだい、イチロ。何で泣いてるのさ』
『おばあちゃん、ぼくをあいしてくれるひとは、いるのかな…。おばあちゃんがいなくなったらぼく、ぼく……』
止まらない涙はほろほろと小さな目から流れ出る。それをしわしわの手で優しく拭ってくれた。
『大丈夫。イチロを愛してくれる人は必ず現れるさ』
『ほんとうに?』
『本当だよ。運命で繋がった相手がきっと』
『運命…』
そんなもの本当にいるのだろうか。運命の、番い……。
不完全な俺に、そんな相手が見つかる訳がないと思う反面、いるかもしれないという期待は捨てきれない。
俺を愛してくれる存在。
どんな俺でも無条件に愛してくれる。慈しんでくれる。
そして俺も同じだけの愛を捧ぐ。すでに決まった運命。それでも愛し愛される関係に憧れて、望みを捨てきれない。
愛されたい。
愛したい。
必要とされたい。
必要としたい。
『すぐ側にいるさ。焦らなくていいんだよ、イチロ』
夢の中で嗅いだおばあちゃんの香りは、森の中にいるようなティーツリーの香りがした。
あ、この香りは、俺の運命の…………?
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