傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン

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「そんな……この子はあなたと私の子よ」

「ふん、そんなことを言われても信じられるものか」

「だったら、どうしたら信じてくれるの」


 
「堕ろせ」



 激しい雨風と雷の音が常にしていたはずなのに、私とランドルフの周りだけ全ての音が消えた気がした。

 
「…………え?」


 私は、一瞬何を言われたのかわからなかった。私の頭は、ランドルフの言葉を理解することを拒否していた。
 体の震えがとまらなくなったのは、寒さだけが原因ではない。
 カチカチと奥歯も震えてきた。

「まだ俺の妻でいたいのなら、堕ろせ。子どもはまた出来る」

「そ、そんな……ひどい……。そんなこと、できるわけがないでしょう?!」

「出来ないのであればもういい。お前は俺の妻ではない。さっさとこの家から出ていけ!」

 ランドルフはすぐに身を翻し行ってしまう。

「待ってちょうだい、ランドルフ!」
 
 私は彼の大きな背中を追いかけた。ランドルフは大きな歩幅で階段を登っていく。

 寒くて体がこわばっていたのに焦って動いたせいなのか、私は急にくらり、とめまいがした。その瞬間、足がもつれて上っていた階段を踏み外す。

 あっ、と思った時にはもう遅かった。
 
 体勢を整えようとしてももつれる足。
 階段の手すりを掴もうとしたのに空虚を掴む自分の手。
 慣れないお腹の重みで落ちていく。

「き、きゃあああぁっ!」

 階段の上段から、私は身重の体で階段の一番下まで転げ落ちた。

 その音と私の悲鳴を聞きつけて、ランドルフはすぐに階段を降りて私の元へと戻ってきた。

「っジュリア!」

「……っ、お腹が……私の、赤ちゃん…………」

 かろうじてお腹を両手で庇っていた。そのせいで、転げ落ちていく最中に体のいたるところを打ちつけて、全身が痛む。だがそれよりもお腹の赤ちゃんが心配だった。

 私自身の体が強張りすぎて、お腹が張っているのかもわからない。胎動も感じ取ることができなかった。
 ドクドクと自分の心臓が脈動しているのを感じた。

「誰か! 誰かいないのか!」

 ランドルフが、屋敷の端まで聞こえるくらいの怒号で使用人を呼んだ。

 すぐに、侍女長のクリスティーナが駆けつけた。クリスティーナはランドルフが生まれる前から伯爵家に仕えており、ランドルフの信頼も厚い。そのため私も彼女を信頼していた。

「なんてこと! 奥様……旦那様一体なにがあったんです?!」
 
 クリスティーナの焦った声に、自分がどれだけ危険な状況にいるかを自覚していった。
 
「ジュリアが階段から落ちた。医者を呼べ! 早くしろ!!」

「はい、すぐに呼んでまいります……!」

 身を翻してクリスティーナが医者を呼びに向かった。

「ジュリア、すぐに医者が来る……。大丈夫だ」

 ランドルフはそっと私の上半身を抱き上げた。鍛え上げられた体に包まれて、いつもだったらその大きな体に身を寄せて安心しきっていたはずだった。

 それなのに私の体は冷え切っていて、ガタガタと震えは止まらない。

 いくらランドルフに抱きしめられても不安は拭いきれなかった。

 かえって不安に押しつぶされていく。
 

 ――私の赤ちゃん、どうか無事でいて……

 
 どんどん瞼は重たくなる。

 漆黒の真夜中に、私は意識を手放してしまった。
 
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