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8 子どもの誕生
しおりを挟む先生のプロポーズから1ヶ月ほどで、子どもは無事に産まれた。
お産というものは命がけだ。だって命を産む行為なのだから。何十時間も大波のように迫り来る陣痛に耐え、そうしてようやく我が子に出会えた。生まれてきた赤ちゃんは女の子でセーラと名付けた。天使のように可愛くて、見る人みんなを虜にしていた。
先生の借りていた小さな部屋に私は妊娠中に同居させてもらった。ベッドさえもなかったアパートメントの部屋は、今やベビーベッドやミルク缶など、セーラのためのベビーグッズでいっぱいだ。
先生がにこにこしながらセーラを抱き上げた。
「ジュリアによく似て可愛いな、本物の天使のようだ」
私に似てるだなんて。
だってセーラの金の髪に真っ青な瞳は父親似だったから。
私の髪はブルネットで瞳は緑色だ。全然似てない。
可愛い整った美しい顔立ちも、きっと成長していくにつれてランドルフのような美形になっていくのかもしれない。
「ほら、セーラ。抱っこしてあげよう」
先生は元気にふぎゃふぎゃと泣き声を上げるセーラを抱き上げてしあやしてくれた。
「よしよし、セーラは可愛いなぁ」
それでも赤ん坊のセーラは泣きやまずに、耳奥につんざくような声を上げ続けている。
「おっぱいもあげて、おむつも替えたのに……どうして泣くのかしら」
初めての子育てはわからないことだらけだ。自分の母親としての不甲斐なさを毎日感じる。可愛いけど、それだけじゃ育てられないということをひしひしと感じられた。
「私がこんなだから……」
ダメな母親だから、セーラは泣き続けるのだろうか。
寝不足も重なって悪い方向にしか考えられなくなっていく。
「赤ちゃんは泣くのが仕事だよ」
「でもずっと泣いてるわ」
「人肌が恋しいんだろう。泣くのは元気な証拠さ」
「抱っこしたって泣く時は泣くわ」
「甘えてるんだよ。もっとぎゅっと抱きしめて私を見て、ってね。君みたいにさ」
セーラを優しく抱き抱えたまま、ニコッと私に向かって笑った。
「もうっ! 私はそんな甘えたじゃないわ」
「冗談だよ」
クスクスと笑いながら、セーラのために体をゆりかごののように揺らした。
ケビンの腕の中で安心しきったようにセーラはうとうとし始めて目をつぶる。
私がどれだけネガティブな発言をしたとしても、明るく元気に振る舞ってくれる。明るい気持ちに私もなってくる。
ケビンは眠ったセーラをベビーベッドにそっと寝かせた。
ふぇ、と声を出して起きてしまうかと思ったが、彼がセーラの胸あたりをトントンすると落ち着いた。
「でもさジュリア、もし君がハンモックに揺られながらまどろんでいるところで、いきなり地面に落ちてしまったどうだい? 当然びっくりするだろう?」
「それはそうよ」
私はハンモックに揺られながら読書して寝落ちするのが大好きだ。
「それと同じだよ。ずっとママの温かいお腹の中にいたのに、突然外に出されたんだ。びっくりして泣き叫ぶのは当たり前だよ」
確かにそう言われると納得できた。
生まれたセーラに、実の子のように接してくれるケビン。私たちはもうすでにファーストネームを呼び合うほどになっていた。
「ありがとう、ケビン」
ぎゅっと後ろから猫背の背中に抱きついた。
デスクにいつも齧り付いているせいで、背中はいつも丸くなっている。
実の父親より父親らしく、娘のお世話をしてくれる。おむつを替え、ミルクを与え、慈愛に満ちた父親の顔でポンポンと子どもの胸をたたいて寝かしつけてくれる。
子どもがいるからもう先生になるなんて無理だと私は諦め始めたが、小さな子どもがいたって教師になれると後押ししてくれる。
ケビンのそばにいて、彼に励まされると、なんでもできてしまうのではないかとさえ思えた。
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