俺は勇者になりたくて今日もガチャを回し続ける。

横尾楓

文字の大きさ
69 / 92
第6章

気分転換には甘いもの。

しおりを挟む
♢隣街のメインストリート

大きな街には大きな広告塔がある。
ビルの壁面や柱などに魔術モニターを取り付けて
最近では写真のほか動画広告まで流れる。

「ここもエラー表示が出ていますね...」

これらはネットワークを利用している為
更新したモニターは使えなくなっているようだ。

カランカラン...「いらっしゃいませぇ~」

用事があってとあるお店へ。
壁に貼られた紙のポスターを見て
俺は違う心配をしていた。


“世界初!ライブを生中継で配信決定!”

“女神級アイドル精霊フローリアファーストライブ”

“※ 楽曲のご購入とVer3.0への更新が必要です”


チケット抽選は外れて取れなかったけれど
大人気のため新しいシステムの試験運用も兼ねて
ネットで中継動画を流すらしい。

(だから即アップデートしたのにな.....)

このままでは来週までに直らない可能性もあるが
とりあえず初回限定アルバムを予約する。

「ありがとうございましたぁ~」

これで今日の任務は完了だ。

「こういうがレオナルドの好みなのかぁ~」
「.....に、人気があるからだよ!」

艶やかな表情をしたジャケット写真だったから
なぜだか俺は全力で取り繕った。
いつもの可愛い感じもいいけれど
これもまた新鮮で.....

それはともかく情報収集。
返却をやってるお店はどこもクローズ。
ネットやガチャ関連は完全に駄目っぽい。

「レオナルドも俺も用が済んだけど、どうする?」
「あの...私行きたいお店があって...」

フィオがそう言って端末を見せる。
いま流行っているパンケーキのお店らしい。
たしかに美味しそう。

「次の角を左で、その先を渡って右です」
「なんだか人がたくさんいるよー?」

店の前から建物を曲がった所まで凄い行列。
みんなネットもガチャもできなくて暇なのだろう。

「これでは...また今度にしますね」
「いや、並ぼうよ。俺も食べてみたい」

彼女は俺達に気を使って今度にすると言ったが
パンケーキなら食べ終わるのも早いだろうし
大人しく長い列の後ろへ並ぶことに。

「フィオ、お前は少し遠慮し過ぎだぞ?」
「.......マスターはもう少し遠慮してください」


♢パンケーキ屋のテラス席

ようやく順番が来て席に着くと
すぐにパンケーキとエッグパタパタが運ばれた。
並んでいる時にオーダーを受けているからだ。

どれもボリュームが多いから
みんなで皿に取り分けてシェアして食べる。
カレンは甘いの苦手だから玉子の方を。

「いただきまーす.....うまーい!」
「どれどれ...おおっ!コレは中々美味いぞぉ!」

二人ともそれを大絶賛。
俺とフィオはパンケーキからいただく。
山盛りのクリームは意外にも軽くて
甘過ぎないからペロリといける。

「凄いです...このフワフワ感と絶妙な.....」

カレンの第一声とは違い
まるでグルメ記者のような食レポだ。

「美味しかったです...ご馳走さまでした」
「でも俺はこの前のフィオが作った方が好きかな」

頬を少し赤らめて謙遜するフィオ。
お世辞でもなんでもなくて
本当にあの時食べたパンケーキは最高だった。

「また今度作ってよ」
「はい...私ので良ければいつでも」

ウッヴン...

そんな甘い会話に割り込む中年の咳払い。
たしかにちょっと甘過ぎた気がするから
食後の珈琲を三つと紅茶を一つ追加で注文した。


ピロン♪
「これは...魔術ネットワークからですね」
「なんて書いてあるんだい?」

“通信速度規制の解除とアップデートの再開”
“Ver3.0障害は順次修復(予定)”

...だそうだ。
なんとか修復もできるみたいでよかった。
あとはガチャの方だけれども...

“現在システム障害によりメンテナンス中です”

進展はなさそうだが、詫び石の配布告知があった。
(いっそ長引いて十個くらいくれればいいのに...)

結局今夜中には復旧せず
新しいガチャを回すことは出来なかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...