俺は勇者になりたくて今日もガチャを回し続ける。

横尾楓

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第8章

旅竜の巣。

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なにか訳ありな勇者(元)とドラゴブリン。
大きく溜息を吐くと“バスティ”について話してくれた。

「俺がまだ勇者だった頃。もう何十年も前の話だ」
「七人パーティーを組んで世界中を旅していた」

その途中でいつのまにか加わったドラゴブリン。
正式に契約をして仲間になった後で彼は気付いた。

「コイツは只者じゃないってな」
「さっきのは俺の妻を模した姿だ。好きなモノの姿になる」
「長いこと生き過ぎて神性が付いた化獣バケモノさ」

ドラゴブリンの寿命は50年と言われている。
この子は時間を忘れてしまったのか
それとも呪いか何かの影響であるのかは不明だが
果てしない刻の中で“特別なモノ”に変異したのだろう。

「まあ、何年か仲良く旅してきたんだがな...」
「俺達は長く続いた冒険を終わらせることにした」
「パーティー内の色恋沙汰は微妙な雰囲気になるんだ」

解散の理由としてはよく聞く話。
男二人、女一人の組み合わせは特に悲惨と聞く。

「それで最終目的地として旅竜の巣へと向かった」
「密林は過酷だ。仲間がいる場所の方が良いと思ってね」

数ヶ月後、その安住の地に辿り着きバスティを放った。
後をついて来たが何度も説得してその場を離れ
勇者達は遂に冒険を終わらせたのだ。

「幸せに暮らしていると思っていた」
「シャノが作った服をこんなにボロボロにして...」

言われてみれば魔物なのに革の靴とか帽子とか
色々と可愛く着飾っていたのは不自然である。

グアル...グアル...

「俺を探して旅を続けてたんだな。悪いことをした」
「.....ユウ...ユウシャ...キタ...コナイ...サガシタ...」

いつからかは不明だけど旅竜ミグラントに乗って大陸を渡り
勇者を探す旅に出たこのドラゴブリン。
あのデブドラゴンの背中に乗って遺跡まで来たが
四階で立ち往生中に俺達と遭遇。
今に至るという訳らしい。

「父様誰と話して...あ、お帰りなさい兄様っ!」
「痛えよミト。ちゃんと仕事してたか?」
(........お前が言うなよってセリフだな)

ニトの帰りを喜んで飛びつくミト。
このダメな兄貴を一番慕っている彼女だが
真似をするならもう一人の兄の方が良いだろう。

「......ユウシャ...キタ...ミッツ...フエタ...」
「違うよ。あれは勇者さんの子供だよバスティ」
「......ユウシャ...フエタ...」

リンツが興味深そうに教える。
勇者から生まれた子供を分身だと思っているようだ。
(その理論でいくと俺も勇者か)

「ミト、食事の準備と部屋を二つ用意しなさい」
「はい父様!すぐにご用意しますね」

クリスはまだ起きないけれど顔色も良くなり
ヨツが介抱してくれているから俺達は汗を流しに滝へ。
やはり倒したポヨポヨが地下水を吸っていたのか
湧水の量がグンと増えた気がする。
これでもう大丈夫だろう。

「レオ、この滝なんだかシュワっとするよー!」
「シュワ?」「ここは魔力回復の効能があるからな」
「すごい...それって普通に“回復の泉”だよね」

密林は俺達がまだ知らない神秘に満ち溢れている。
回復の泉とかまるでファンタジーの世界だ...

「さあ、そろそろ戻ってダラダラするかぁ」
「手伝わないの?」「何をだ?」

ボケではなくて素でそう答えるニト。
ここまで徹底してニートなら逆に清々しい。
もう何も言うまい。


♢ケモミミのコテージ

「ニト。私が目を離した隙にどこへ行っていた?」
「げぇ...お前なんでこっちにいるし」

コテージにイトが来ていた。
すっかり元気になった様子である。

「ニト。人と話す時は目を合わせようか?(ニコリ)」
「やべぇ...あれはマジ怒ってる時の笑顔だし」
「おいレオナルド!ウォルター!ちょっとま...」

兄弟水入らずで募る話もあるだろうから
その場に放置することにした。
なぜだかとても良い事をした気分。


それから日も陰って夕刻。
クリス達も明日帰るからお別れ会を開くことに。
暗闇が暖かな提灯の光に包まれる。

イトもホテルは任せて再びコテージに合流。
ワイワイ、ガヤガヤと賑やかなひと時は過ぎてゆき
あっという間に子供は寝る時間。

「まだ起きてちゃだめ?」「駄目ですよ」
「はーい。ニト兄ならいいって言うのになぁ...」

子供達の声が消えてとても静かだ。
俺達は別れを惜しんで遅くまで談笑。
ウォルターはイトと二人でお酒を飲んでいる。
そういえばニトがいない...

「父様が話をされていますよ。きっと説教でしょう」
「さあ、遅いので皆様もコテージの中へどうぞ」

ふかふかのベットにゴロリ。
眠たいけれど端末を開いてログを付ける。
それはただの記録としてだけではなく
今日という素敵な一日を忘れないために。
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