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第54話「異世界ママ、しょっぱい幸福! 塩むすび頂上決戦と、ギルド審査“塩梅”地獄!?」
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朝いちばん、炊きたての湯気に顔をうずめた。
米の甘い匂いは、もう半分“ご褒美”だ。
「ママー、今日は甘いのじゃないの?」 「しょっぱいの。正確には“ちょうどいいの”。塩むすびは、塩と水と米の三位一体」
「おみやげは?」 「利き塩セットでどう?」 「塩で喜べる家庭、ここにあり」
笑い合って、私は塩壺を三つバッグに入れた。海の塩、岩塩、そして学園の井戸水から作った“星淡(せいたん)”。指先でひとつまみ舐めて、頷く。
今日の舞台は“家庭の味市・しょっぱい部門”。メイン競技は――塩むすび頂上決戦!
戸棚の奥が淡く光る。
保温箱と手拭き、温度計、そしておにぎり用の手水ボウル。
私は息を吸って、扉をくぐった。
「いってきまーす。塩梅、決めてくる!」
***
王都の中央広場。屋台の列に“塩”ののぼりが並び、風にしゃらんと鳴る。
学園×商業ギルドの白テント前には審査台。そこに鎮座するのは、塩の精霊も泣くという厳格な魔道具――塩分濃度計“ソルタリオ”。メーターがちょっとでも振れすぎると、ぴーっと鳴るらしい。怖い。
「お待ちしてました!」
エプロン姿の王女セレスティアがぴょんと跳ねる。
ビアンカは青波柄の和紙を整え、ティオは掛け声の深呼吸。
マダム・コルネは衛生ボードに“塩→乾→湿→手”の矢印を書いた。
「今日は“塩梅地獄”と呼ばれる厳しい審査です。塩は一粒でも顔が変わる。楽しんでいきましょう」 「こわいこと言って、最後が優しい!」
対戦相手は、三組。
海の男たち“蒼潮(あおしお)組”は海塩と海苔。
鉱山ギルドの“結晶衆”はほのかに甘い岩塩。
錬金科の若者たちは、蒸留水で作った“純塩水炊き”。
どれもおいしそう。だから、私のは“家庭の真ん中”でいく。
「テーマは“帰り道に食べたくなるやつ”。直塩で握る基本型と、塩水炊きのふわ型、二種で勝負」
鐘が鳴る。開始。
***
米は学園の釜で炊き上がっている。蓋を開けると、白い湯気がふわり。
しゃもじで切り返して、空気を入れる。ここでの“ぽふ”が、あとでの“ほぐれ”を作る。
「手水は?」 「星淡をひとつまみ溶かして、うすーい塩水に。手のひらに“さらっ”と着くくらい」
両手を合わせ、祈るみたいに。
ごはんをのせて、二度だけ押す。“ぽふ、ぽふ”。角は立てない。
仕上げに指塩でほんの一粒、天辺に“ちょん”。これが“直塩型”。
「ふわ型は?」 「炊くときに塩を米の重さの0.3%。握るときは手水は真水。塩は中にいないから、口の中で探す感じ」
ティオが横で真剣に見ている。
「二度だけ、なんだね」
「三度目を我慢すると、優勝に近づくの」
王女が頷きすぎて髪飾りが揺れる。かわいい。
海の男たちは、海苔をぱりっと直巻き。
結晶衆は、仕上げに岩塩をミルで“ぱら”。
錬金科は、塩水炊き一本。自信の顔。
私は淡々と二種を量産する。
詰め係のビアンカの手元は寸分違わず美しい。和紙の青が、塩の白を引き立てる。
「“十秒試食”、どうぞー!」
ティオの声が弾む。人が集まる。けど、審査分は確保しないと。
コルネ先生の睨みで、皿一枚分が守られた。頼もしすぎる。
***
一次審査、ソルタリオ。
蒼潮組の海塩――ぴ。許容内。
結晶衆の岩塩――……ぴ。許容内。
錬金科の塩水炊き――無音。にやりと笑う若者。
私の直塩――……ぴ。ふう。
ふわ型――無音。よし。
二次審査、口中審査。
ギルド審査官が、無表情でぱく、もぐ。ぱく、もぐ。
目の前の砂時計がじりじり落ちる。
「直塩型」
低い声が落ちた。
「入口に明確な塩。噛みはじめは“きゅっ”。三噛みで“ほどけ”。塩が白米を連れてくる」
ありがとうございます(心の中で土下座)。
「ふわ型」
「入口は“無地”。四噛み目に甘さ。五噛み目に塩が追いつき、六噛み目に“帰り道”になる」
帰り道、いただきました。
「ただし――」
来た、地獄の“ただし”。
「仕上げの指塩、二粒分多い個体がある。均一性を欠く」
ソルタリオでは鳴らない“ばらつき”。
現場の鬼ほど、それを見る。
「修正、今やっていいですか」 「よい」
私は息を吸って、握り直す。
手水の揺らぎをなくすため、ボウルの縁に目印を入れ、指の腹で“同じ面積”をなぞる。
仕上げの“ちょん”は、指先ではなく小匙の“雲スプーン・塩版”で。昨日の迷子事件のおかげで、相棒は手元に二本ある。
「もう一度、お願いします」
審査官がぱく。
沈黙。
砂時計の砂が、すうっと軽く見えた。
「均一。……よい」
よかった。膝が笑いそう。
***
自由試食が始まると、広場は“しょっぱい幸福”で満ちた。
子どもが頬張って「水!」って言って、横で親が「いや、ちょうどいい!」って笑う。
海苔の香りが風に乗り、岩塩のきらめきが陽に踊る。
錬金科の若者は、塩水炊きの理屈を楽しそうに語っている。
それぞれの“正しさ”が並ぶ景色、好きだ。
「ふん」
背中でわかる声。
ギルバート卿がさりげなく列に並び、さりげなく直塩とふわ型を一個ずつ受け取る。
一歩下がって、ぱく。
二歩、三歩で、ふわ。
四歩目で、ふっと鼻息。
「……米の割れ、少ない。手の“ぽふ”が見える。値札は大きい」
「本日のチェック、ありがとうございます!」
「海苔は……端の“遊び”を残せ。湿気の道を作るな」
「次回、端の遊び、覚えました」
ツンとデレの比率が、今日はややデレ寄り。勝ち筋、見えた。
***
最終発表。
審査台の鐘が鳴り、ギルド代表が声を張る。
「塩むすび頂上決戦、“塩梅総合賞”は――錬金科の塩水炊き!」
おおーっと歓声。理屈と仕込みの勝利、納得。
「“笑顔賞”は――ハルリエッタの直塩&ふわ型、両方!」
うわーっ、と両手が勝手にあがる。
王女が飛びついてくる。
「やったー!」
「髪飾り、刺さらないようにー!」
ビアンカが端で上品に拍手、ティオは跳ねすぎて靴が脱げる。かわいい。
蒼潮組は“香り賞”、結晶衆は“美意識賞”。
誰も負けてない。いい大会だ。
代表が続ける。
「来月は“朝ごはん杯”。テーマは“出汁”。だし巻き、味噌汁、吸い口――」
私の肩が小さく震えた。
来た、私の庭。
王女が耳元でささやく。
「出汁、勝ちたい」
「勝とう。いや、“帰ろう”。朝の味に」
***
片づけを終えて、夕方の石畳に一礼。
のぼりを巻き、木の台を撫でる。
「ありがとう。また一緒に」
地球のキッチン。
私は炊飯器の蓋を開け、家族の分をよそう。
塩は星淡をひとつまみ。手水は真水。二度押し“ぽふ、ぽふ”。
仕上げに“ちょん”。
「ただいま」 「おかえり!」 「今日はしょっぱい?」 「しょっぱい幸福、だよ」
手を合わせる。
「いただきます!」
塩が、米を連れてくる。
米が、今日の出来事を連れてくる。
どこの世界も、ちょうどいい“塩梅”で、優しくほどけますように。
「明日から、だし修行?」 「うん。だしは深いよ。海と山と……台所全部」
「おみやげは?」 「“朝一番の一口で泣けるやつ”」
それはたぶん、世界一ぜいたくなおみやげ。
私は台所に立ち、昆布を水に浸した。
静かな夜が、ゆっくり“うまみ”を育てていく。
米の甘い匂いは、もう半分“ご褒美”だ。
「ママー、今日は甘いのじゃないの?」 「しょっぱいの。正確には“ちょうどいいの”。塩むすびは、塩と水と米の三位一体」
「おみやげは?」 「利き塩セットでどう?」 「塩で喜べる家庭、ここにあり」
笑い合って、私は塩壺を三つバッグに入れた。海の塩、岩塩、そして学園の井戸水から作った“星淡(せいたん)”。指先でひとつまみ舐めて、頷く。
今日の舞台は“家庭の味市・しょっぱい部門”。メイン競技は――塩むすび頂上決戦!
戸棚の奥が淡く光る。
保温箱と手拭き、温度計、そしておにぎり用の手水ボウル。
私は息を吸って、扉をくぐった。
「いってきまーす。塩梅、決めてくる!」
***
王都の中央広場。屋台の列に“塩”ののぼりが並び、風にしゃらんと鳴る。
学園×商業ギルドの白テント前には審査台。そこに鎮座するのは、塩の精霊も泣くという厳格な魔道具――塩分濃度計“ソルタリオ”。メーターがちょっとでも振れすぎると、ぴーっと鳴るらしい。怖い。
「お待ちしてました!」
エプロン姿の王女セレスティアがぴょんと跳ねる。
ビアンカは青波柄の和紙を整え、ティオは掛け声の深呼吸。
マダム・コルネは衛生ボードに“塩→乾→湿→手”の矢印を書いた。
「今日は“塩梅地獄”と呼ばれる厳しい審査です。塩は一粒でも顔が変わる。楽しんでいきましょう」 「こわいこと言って、最後が優しい!」
対戦相手は、三組。
海の男たち“蒼潮(あおしお)組”は海塩と海苔。
鉱山ギルドの“結晶衆”はほのかに甘い岩塩。
錬金科の若者たちは、蒸留水で作った“純塩水炊き”。
どれもおいしそう。だから、私のは“家庭の真ん中”でいく。
「テーマは“帰り道に食べたくなるやつ”。直塩で握る基本型と、塩水炊きのふわ型、二種で勝負」
鐘が鳴る。開始。
***
米は学園の釜で炊き上がっている。蓋を開けると、白い湯気がふわり。
しゃもじで切り返して、空気を入れる。ここでの“ぽふ”が、あとでの“ほぐれ”を作る。
「手水は?」 「星淡をひとつまみ溶かして、うすーい塩水に。手のひらに“さらっ”と着くくらい」
両手を合わせ、祈るみたいに。
ごはんをのせて、二度だけ押す。“ぽふ、ぽふ”。角は立てない。
仕上げに指塩でほんの一粒、天辺に“ちょん”。これが“直塩型”。
「ふわ型は?」 「炊くときに塩を米の重さの0.3%。握るときは手水は真水。塩は中にいないから、口の中で探す感じ」
ティオが横で真剣に見ている。
「二度だけ、なんだね」
「三度目を我慢すると、優勝に近づくの」
王女が頷きすぎて髪飾りが揺れる。かわいい。
海の男たちは、海苔をぱりっと直巻き。
結晶衆は、仕上げに岩塩をミルで“ぱら”。
錬金科は、塩水炊き一本。自信の顔。
私は淡々と二種を量産する。
詰め係のビアンカの手元は寸分違わず美しい。和紙の青が、塩の白を引き立てる。
「“十秒試食”、どうぞー!」
ティオの声が弾む。人が集まる。けど、審査分は確保しないと。
コルネ先生の睨みで、皿一枚分が守られた。頼もしすぎる。
***
一次審査、ソルタリオ。
蒼潮組の海塩――ぴ。許容内。
結晶衆の岩塩――……ぴ。許容内。
錬金科の塩水炊き――無音。にやりと笑う若者。
私の直塩――……ぴ。ふう。
ふわ型――無音。よし。
二次審査、口中審査。
ギルド審査官が、無表情でぱく、もぐ。ぱく、もぐ。
目の前の砂時計がじりじり落ちる。
「直塩型」
低い声が落ちた。
「入口に明確な塩。噛みはじめは“きゅっ”。三噛みで“ほどけ”。塩が白米を連れてくる」
ありがとうございます(心の中で土下座)。
「ふわ型」
「入口は“無地”。四噛み目に甘さ。五噛み目に塩が追いつき、六噛み目に“帰り道”になる」
帰り道、いただきました。
「ただし――」
来た、地獄の“ただし”。
「仕上げの指塩、二粒分多い個体がある。均一性を欠く」
ソルタリオでは鳴らない“ばらつき”。
現場の鬼ほど、それを見る。
「修正、今やっていいですか」 「よい」
私は息を吸って、握り直す。
手水の揺らぎをなくすため、ボウルの縁に目印を入れ、指の腹で“同じ面積”をなぞる。
仕上げの“ちょん”は、指先ではなく小匙の“雲スプーン・塩版”で。昨日の迷子事件のおかげで、相棒は手元に二本ある。
「もう一度、お願いします」
審査官がぱく。
沈黙。
砂時計の砂が、すうっと軽く見えた。
「均一。……よい」
よかった。膝が笑いそう。
***
自由試食が始まると、広場は“しょっぱい幸福”で満ちた。
子どもが頬張って「水!」って言って、横で親が「いや、ちょうどいい!」って笑う。
海苔の香りが風に乗り、岩塩のきらめきが陽に踊る。
錬金科の若者は、塩水炊きの理屈を楽しそうに語っている。
それぞれの“正しさ”が並ぶ景色、好きだ。
「ふん」
背中でわかる声。
ギルバート卿がさりげなく列に並び、さりげなく直塩とふわ型を一個ずつ受け取る。
一歩下がって、ぱく。
二歩、三歩で、ふわ。
四歩目で、ふっと鼻息。
「……米の割れ、少ない。手の“ぽふ”が見える。値札は大きい」
「本日のチェック、ありがとうございます!」
「海苔は……端の“遊び”を残せ。湿気の道を作るな」
「次回、端の遊び、覚えました」
ツンとデレの比率が、今日はややデレ寄り。勝ち筋、見えた。
***
最終発表。
審査台の鐘が鳴り、ギルド代表が声を張る。
「塩むすび頂上決戦、“塩梅総合賞”は――錬金科の塩水炊き!」
おおーっと歓声。理屈と仕込みの勝利、納得。
「“笑顔賞”は――ハルリエッタの直塩&ふわ型、両方!」
うわーっ、と両手が勝手にあがる。
王女が飛びついてくる。
「やったー!」
「髪飾り、刺さらないようにー!」
ビアンカが端で上品に拍手、ティオは跳ねすぎて靴が脱げる。かわいい。
蒼潮組は“香り賞”、結晶衆は“美意識賞”。
誰も負けてない。いい大会だ。
代表が続ける。
「来月は“朝ごはん杯”。テーマは“出汁”。だし巻き、味噌汁、吸い口――」
私の肩が小さく震えた。
来た、私の庭。
王女が耳元でささやく。
「出汁、勝ちたい」
「勝とう。いや、“帰ろう”。朝の味に」
***
片づけを終えて、夕方の石畳に一礼。
のぼりを巻き、木の台を撫でる。
「ありがとう。また一緒に」
地球のキッチン。
私は炊飯器の蓋を開け、家族の分をよそう。
塩は星淡をひとつまみ。手水は真水。二度押し“ぽふ、ぽふ”。
仕上げに“ちょん”。
「ただいま」 「おかえり!」 「今日はしょっぱい?」 「しょっぱい幸福、だよ」
手を合わせる。
「いただきます!」
塩が、米を連れてくる。
米が、今日の出来事を連れてくる。
どこの世界も、ちょうどいい“塩梅”で、優しくほどけますように。
「明日から、だし修行?」 「うん。だしは深いよ。海と山と……台所全部」
「おみやげは?」 「“朝一番の一口で泣けるやつ”」
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