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第7章 恋の進路と収穫の秋
第64話「冬の到来と、選択のとき」
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夜明け前、牧場の空に静かに白い雪が舞い降りた。鶏舎の屋根を淡く染める粉雪は、まだ幼い小雪(こゆき)のように頼りなく、しかし確かに冬の始まりを告げている。レイナは息を吸い込むと、肺の奥まで冷たい空気が満ち、胸の高鳴りとともにわずかな痛みさえも感じた。
「……とうとう、来たんだね」
白い息がふわりと浮かび、すぐに空へ溶けていく。夜明けの色を湛えた雪雲が、東の空を淡紫に染め、遠い森の梢には霧氷が銀の帯のように輝いていた。
レイナは革手袋をはめ直し、鶏舎へ向かう。扉を開けた瞬間、暖かい蒸気が頬を撫でた。鶏たちは既に目を覚まし、雪がもたらす静寂を破るようにコッコッと鳴きながら、餌箱の前で羽を膨らませている。
「おはよう。今日は外が冷たいから、発酵穀物を少し多めにしようね」
飼料桶に温度計を差し込み、温度がちょうど三十五度なのを確認してから、発酵させた麦と刻んだ乾草、粉状の薬草を混ぜ合わせる。薬草はひなのが調合した『ぽかぽかパセリ』と呼ばれる保温作用の高いハーブ粉末だ。雪の日の朝はこれが欠かせない。
鶏たちが夢中で餌を啄ばむ音を背に、レイナは牛舎へ移動した。牛舎からはナナの低く太い鼻息が漏れている。扉を開けると、温かい藁の匂いに混ざり、干し草の甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「ナナ、おはよう。今日も元気だね」
ナナは大きな瞳を瞬かせてから、ムゥと穏やかな声を上げた。背中の毛をブラシでとかしてやると、雪の静けさに紛れて小さな満足の吐息が漏れた。仔牛のミルクは母牛の体に身を寄せたまま眠っている。温もりと母乳の香りに包まれたその姿に、レイナの頬が緩んだ。
搾乳を終えた頃、東の空は朱に染まり、雪原に長い影が伸びた。ミナが温室から顔を出し、白い吐息で声をかける。
「レイナ、ハーブストーブ点けたよ。湿度もいい感じ」
「ありがとう。今朝は水やり少し控えめでお願い」
温室の中では、冬越し用に鉢上げした薬草が青々と葉を揺らしている。発酵堆肥のベッドは湯気を上げ、苗たちはその熱で凍えることなく育っていた。
作業を一段落させ、レイナは家へ戻った。キッチンでは、リンネが甘い香りの蒸気に包まれてパン生地をこねている。
「おかえり。今日はリンゴとシナモン入りのクリームパンだよ。雪の日は甘いのが一番でしょ?」
「最高! あとで蜂蜜バターも作るね」
ストーブの上では、ひなのが煮込んでいるカボチャスープがコトコトと音を立てる。彼女は鍋をかき回しながら、レイナに小さな紙袋を手渡した。
「これ、昨日調合した風邪予防茶のティーバッグ。カリンの果皮とクロモジをブレンドしたの。村の子どもたちに配ろうと思って」
「いつもありがとう、ひなの」
ふとリオが雪景色を眺めながら言った。
「雪ってさ、全部を凍りつかせるけど……春の芽吹きの準備でもあるんだよね」
その言葉に、レイナの胸がほんのり熱くなる。冬は終わりではなく、次の始まりを孕む季節――そんな想いがこみ上げてきた。
昼前、町へ向かう馬車の車輪が雪を踏みしめた音を立てる。レイナとミナは防寒コートに身を包み、村の雑貨屋へ毛糸と防寒資材を買いに行った。雪化粧を纏った道の両脇には、子どもたちが作った小さな雪うさぎが並んでいる。人々は肩を寄せ合いながらも、どこか嬉しそうに笑っていた。
雑貨屋の暖簾をくぐると、炉からオレンジ色の炎が揺らめき、甘いシナモンと蜜蝋の匂いが漂う。店主のロージィは湯気を上げるホットミルクを差し出した。
「冷えるだろ? シナモンスティックで混ぜると身体が温まるよ」
「ありがとうございます。あの、ウールの極太毛糸はまだ在庫ありますか?」
「あぁ、奥の棚だよ。今日は白と淡い桜色が入荷した」
レイナは目を輝かせて桜色の毛糸を手に取った。ユーリに渡したいマフラーは、優しい色がいい。手触りを確かめながら、胸の鼓動が自然と早まった。
ふと入り口のベルが鳴り、エルンが雪を払って入ってくる。
「やあ、レイナさん! 偶然だね」
頬を赤くした彼は、手に持った紙箱を差し出した。
「これ、村で採れた蜂蜜の新物だよ。寒い日は喉にいいから、ぜひ」
「ありがとう。蜂蜜バターを作る予定なんだ。嬉しいな」
言いながらも、心の奥で波紋が広がる。エルンの瞳はまっすぐで、揺るがない好意が宿っているのがわかる。けれど彼女の視線の端には、遠い王都の空が浮かんでいた。
買い物を終えて牧場に戻る頃には、雪が少し強くなっていた。薪小屋の横で、悠翔が雪払いのホウキを止め、レイナの荷物を受け取る。
「重かっただろ。ありがとうな」
「ううん。ねえ、ユーリがしばらく戻れないって……知ってる?」
「ああ、朝一で伝書バトが来た。王都もバタバタらしい」
レイナは視線を落とし、桜色の毛糸玉をそっと撫でた。
「頼るより支え合える人がいいって、前に言ったよね」
「うん」
「わたし……この冬、自分の心にちゃんと向き合ってみる。ユーリを想う気持ち、牧場で生きる覚悟――答えが出たら伝えたいんだ」
悠翔は優しく笑み、レイナの頭を軽く撫でた。
「それでこそ、うちの娘だ」
夕暮れ。雪明かりが牧場を淡い光で包む。リンネが焼いたクリームパンから甘い香りが漂い、ひなのが薪ストーブに鍋を掛ける。
「温まるスパイスミルク、できたよ」
家族のような仲間たちが囲む食卓は、薪のはぜる音と笑い声で満ちていた。
夜更け、レイナは机に向かい、便箋を開いた。ペン先で迷いながらも、雪の結晶模様の封筒に一行だけ書き添える。
『会いたいです。春になったら、牧場で――』
インクが乾くのを待ちながら、窓越しに雪が降り積もる様子を見つめた。白銀の世界は静かで、冷たいはずなのにどこか温かい。
「冬は眠りじゃなくて、未来への種まきなんだよね」
小さな声でそう確かめ、桜色の毛糸玉を手のひらで転がす。選択のときはもうすぐ。けれど焦らない。この雪が解けるころ、答えは必ず芽吹くと信じて。
---
【イベント完了:冬の到来と、選択のとき】 ・牧場が完全冬モードへ移行、動物たちの保温環境確立 ・レイナ、毛糸のマフラー計画&手紙執筆 ・エルンの想いが明確化、恋の三角関係が加速 ・桜色の毛糸=女神の加護を帯びた“恋の導き糸”として覚醒
【次の目標:雪解けまでに、それぞれの答えを見つけよう!】
「……とうとう、来たんだね」
白い息がふわりと浮かび、すぐに空へ溶けていく。夜明けの色を湛えた雪雲が、東の空を淡紫に染め、遠い森の梢には霧氷が銀の帯のように輝いていた。
レイナは革手袋をはめ直し、鶏舎へ向かう。扉を開けた瞬間、暖かい蒸気が頬を撫でた。鶏たちは既に目を覚まし、雪がもたらす静寂を破るようにコッコッと鳴きながら、餌箱の前で羽を膨らませている。
「おはよう。今日は外が冷たいから、発酵穀物を少し多めにしようね」
飼料桶に温度計を差し込み、温度がちょうど三十五度なのを確認してから、発酵させた麦と刻んだ乾草、粉状の薬草を混ぜ合わせる。薬草はひなのが調合した『ぽかぽかパセリ』と呼ばれる保温作用の高いハーブ粉末だ。雪の日の朝はこれが欠かせない。
鶏たちが夢中で餌を啄ばむ音を背に、レイナは牛舎へ移動した。牛舎からはナナの低く太い鼻息が漏れている。扉を開けると、温かい藁の匂いに混ざり、干し草の甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「ナナ、おはよう。今日も元気だね」
ナナは大きな瞳を瞬かせてから、ムゥと穏やかな声を上げた。背中の毛をブラシでとかしてやると、雪の静けさに紛れて小さな満足の吐息が漏れた。仔牛のミルクは母牛の体に身を寄せたまま眠っている。温もりと母乳の香りに包まれたその姿に、レイナの頬が緩んだ。
搾乳を終えた頃、東の空は朱に染まり、雪原に長い影が伸びた。ミナが温室から顔を出し、白い吐息で声をかける。
「レイナ、ハーブストーブ点けたよ。湿度もいい感じ」
「ありがとう。今朝は水やり少し控えめでお願い」
温室の中では、冬越し用に鉢上げした薬草が青々と葉を揺らしている。発酵堆肥のベッドは湯気を上げ、苗たちはその熱で凍えることなく育っていた。
作業を一段落させ、レイナは家へ戻った。キッチンでは、リンネが甘い香りの蒸気に包まれてパン生地をこねている。
「おかえり。今日はリンゴとシナモン入りのクリームパンだよ。雪の日は甘いのが一番でしょ?」
「最高! あとで蜂蜜バターも作るね」
ストーブの上では、ひなのが煮込んでいるカボチャスープがコトコトと音を立てる。彼女は鍋をかき回しながら、レイナに小さな紙袋を手渡した。
「これ、昨日調合した風邪予防茶のティーバッグ。カリンの果皮とクロモジをブレンドしたの。村の子どもたちに配ろうと思って」
「いつもありがとう、ひなの」
ふとリオが雪景色を眺めながら言った。
「雪ってさ、全部を凍りつかせるけど……春の芽吹きの準備でもあるんだよね」
その言葉に、レイナの胸がほんのり熱くなる。冬は終わりではなく、次の始まりを孕む季節――そんな想いがこみ上げてきた。
昼前、町へ向かう馬車の車輪が雪を踏みしめた音を立てる。レイナとミナは防寒コートに身を包み、村の雑貨屋へ毛糸と防寒資材を買いに行った。雪化粧を纏った道の両脇には、子どもたちが作った小さな雪うさぎが並んでいる。人々は肩を寄せ合いながらも、どこか嬉しそうに笑っていた。
雑貨屋の暖簾をくぐると、炉からオレンジ色の炎が揺らめき、甘いシナモンと蜜蝋の匂いが漂う。店主のロージィは湯気を上げるホットミルクを差し出した。
「冷えるだろ? シナモンスティックで混ぜると身体が温まるよ」
「ありがとうございます。あの、ウールの極太毛糸はまだ在庫ありますか?」
「あぁ、奥の棚だよ。今日は白と淡い桜色が入荷した」
レイナは目を輝かせて桜色の毛糸を手に取った。ユーリに渡したいマフラーは、優しい色がいい。手触りを確かめながら、胸の鼓動が自然と早まった。
ふと入り口のベルが鳴り、エルンが雪を払って入ってくる。
「やあ、レイナさん! 偶然だね」
頬を赤くした彼は、手に持った紙箱を差し出した。
「これ、村で採れた蜂蜜の新物だよ。寒い日は喉にいいから、ぜひ」
「ありがとう。蜂蜜バターを作る予定なんだ。嬉しいな」
言いながらも、心の奥で波紋が広がる。エルンの瞳はまっすぐで、揺るがない好意が宿っているのがわかる。けれど彼女の視線の端には、遠い王都の空が浮かんでいた。
買い物を終えて牧場に戻る頃には、雪が少し強くなっていた。薪小屋の横で、悠翔が雪払いのホウキを止め、レイナの荷物を受け取る。
「重かっただろ。ありがとうな」
「ううん。ねえ、ユーリがしばらく戻れないって……知ってる?」
「ああ、朝一で伝書バトが来た。王都もバタバタらしい」
レイナは視線を落とし、桜色の毛糸玉をそっと撫でた。
「頼るより支え合える人がいいって、前に言ったよね」
「うん」
「わたし……この冬、自分の心にちゃんと向き合ってみる。ユーリを想う気持ち、牧場で生きる覚悟――答えが出たら伝えたいんだ」
悠翔は優しく笑み、レイナの頭を軽く撫でた。
「それでこそ、うちの娘だ」
夕暮れ。雪明かりが牧場を淡い光で包む。リンネが焼いたクリームパンから甘い香りが漂い、ひなのが薪ストーブに鍋を掛ける。
「温まるスパイスミルク、できたよ」
家族のような仲間たちが囲む食卓は、薪のはぜる音と笑い声で満ちていた。
夜更け、レイナは机に向かい、便箋を開いた。ペン先で迷いながらも、雪の結晶模様の封筒に一行だけ書き添える。
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「冬は眠りじゃなくて、未来への種まきなんだよね」
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