異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ

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第7章 恋の進路と収穫の秋

第65話「雪明かりと、心の距離」

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 冬の訪れは、ある朝突然にやってきた。

 目を覚ますと、外は静まり返っていた。音という音が吸い込まれたかのように、しんとした空気が広がっている。レイナが窓を開けると、まぶしいほどの銀世界が目に飛び込んできた。

「……すごい……!」

 息を呑んだ。見渡す限り、白。木々も、柵も、屋根も、全てが綿のような雪に覆われていた。朝日が反射して、キラキラと世界が輝いている。

 牧場の本格的な冬が始まった。

 朝食を済ませた後、皆で手分けして雪かきを始める。レイナも防寒着をしっかりと身につけ、スコップを手に外に出た。ひとすくいするたびに重たい雪がずしりと音を立てて崩れる。

「レイナ、無理はするなよ」

 エルンの声に、レイナは思わず振り返った。いつもより少し距離を取って声をかけられたような気がして、胸がちくりとした。

「うん、大丈夫」

 そう返したものの、エルンの目はすぐに逸れてしまう。あの日――彼に想いを伝えてから、どこかぎこちない。いつも通りに接してくれると思っていたのに、今のエルンはどこか遠い。

 その日は、雪かきに加え、動物たちの小屋にも冬用の干し草を敷いたり、飼料を追加したりと一日中大忙しだった。

 夕方、作業を終えたレイナは、ミミたちと一緒に暖炉の前で体を温めていた。セリスが淹れてくれた温かいハーブティーが、冷えた体にじんわりと染み渡る。

「エルン、なんだか最近よそよそしいよね~?」

 ぽつりとミミが言った。

「う、うん……やっぱり、そう見える?」

「見える見える。レイナに照れてんじゃない?」

「えぇぇ……!」

 フィーナが口元を押さえてくすくす笑う。

「でも、わかる気がするわ。告白されたあとって、男の子の方が不器用になるものよ」

「うう……どう接していいのか、わからなくなっちゃって……」

 レイナは頬を染め、ティーカップを両手で包んだ。

 夜になり、雪はさらに勢いを増していた。風が窓を叩く音が響き、吹雪になりそうな気配があった。

「ちょっと、馬小屋の様子見てくる!」

 レイナは防寒着を羽織り、ランタンを手に外へ出た。雪は容赦なく降り続け、視界は白く霞んでいた。足元もとられがちで、歩くのも一苦労だ。

 ようやく馬小屋にたどり着くと、中ではノアが不安そうに鼻を鳴らしていた。

「大丈夫、大丈夫だよ……」

 レイナが声をかけていると、背後でドアが開いた音がした。

「こんな吹雪の中、何してるんだ!」

 エルンだった。風にあおられながら、慌てた様子で駆け寄ってくる。

「ノアが……不安そうで……」

「ったく、危ないだろ」

 呆れたように言いながらも、彼の手がレイナの肩に触れた瞬間、心臓が跳ねた。けれど次の瞬間、突風が吹き、小屋の扉がばたんと閉まった。

「……閉まった?」

 二人は顔を見合わせる。

 扉を開けようとするが、雪が外から押し固めてしまったようで、びくともしない。

「最悪だな……」

 エルンがため息をつき、レイナも肩を落とす。

 けれど、小屋の中はほんのりと暖かかった。ノアの体温と干し草のおかげだ。ランタンの灯が揺れて、小さな影を壁に落とす。

「……なんか、こういうの、ドラマみたいだね」

 レイナが苦笑すると、エルンもふっと息を漏らした。

「まあ、悪くはない」

 しばらく沈黙が続いた。

 エルンが、ぽつりと口を開いた。

「……あんたといると、心が緩む。だけど、それが怖いんだ」

「え……?」

 レイナは顔を上げた。

「こんな世界で、気を抜いたら何が起こるかわからない。ずっと、気を張って生きてきた。だけど、あんたと話してると……つい、忘れちまう」

「私も……同じだよ。最初は、不安ばかりだった。でも、ここで皆と過ごして、エルンと出会って……少しずつ、変わってきた。もう、逃げたくないの」

 ランタンの灯が、レイナの瞳を照らす。

 エルンは少しだけためらってから、手を伸ばした。レイナの手をそっと包む。

「……じゃあ、一緒にいるか。怖くても、不器用でも、少しずつ進めばいい」

「うん」

 レイナは、握られた手に力を込めて微笑んだ。

 外は吹雪が唸っていたけれど、小屋の中は穏やかな時間が流れていた。雪明かりが差し込む中、ふたりの心の距離は、ほんの少しだけ近づいた。


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