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第五話:門使い、地球と異世界のはざまで
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「門使いを確保せよ──!」
黒鎧の騎士たちが迫り、私はサラとレンとともに森の奥へと走った。地面を這うような魔力の波動が、ただの追跡ではないと告げている。
「こっちだ、抜け道がある!」
レンの言葉に導かれ、私たちはかろうじて追跡をかわした。湿った岩肌を滑り、枝をかき分け、息を切らしながら、ようやく小高い丘の洞窟に身を隠す。
「はあ……なんで私、追われてるの……」
私は膝に顔を埋めた。息を整えるのも忘れそうになる。
でも──
「それだけ、カスミがすごいってことだよ」
サラの言葉に顔を上げると、彼女は少し得意げに笑っていた。
「門をくぐって、モノを持ち運べて、ちゃんと帰ってきた人なんて、私の知る限りじゃいないもん」
「でも、そのせいで王国にマークされて……」
「それだけの価値があるってことだ。だからこそ、戦うんじゃなく“立場”を得るんだ」
レンが真剣な表情で続けた。
「お前はもう、ギルドの仮ランクD冒険者だろう。なら次は、“活動認可”を取れ」
「活動認可?」
「ああ。各都市のギルドには、“異物持込の特例申請”って制度がある。外来品や魔道具の持ち込みに関する届け出と販売許可、それに伴う納税の枠組みまで含めてな」
「なんか……本格的」
「でもそれを取れば、堂々とこの世界で商売ができるってこと?」
「そうだ。裏取引になるよりはずっと安全だ」
それを聞いて、私は決心した。
逃げるばかりじゃ、未来をつかめない。
*
翌日、タリムの冒険者ギルド。私は受付で「異物持込の副活動申請をしたい」と申し出た。
「門使い……あなたが」
ギルドの副官は驚いた様子だったが、レンとサラの保証もあり、書類は即日受理された。
「ただし、許可されるのはあくまで“個人利用目的”の範囲です。第三者への販売を行うなら、都市部での“登録商人許可”が必要になります」
「……それも、取ります」
私は迷わず答えた。
「この力、ちゃんと使いたいから」
*
それから数日。私は“門”を使って何度か地球と往復し、試験的に物資を持ち込んだ。
カップ麺、湿布、ボールペン、ポケットティッシュ──
地球では日用品でも、こちらでは驚かれるものばかりだった。
中でも特に反響があったのは「携帯ランタン」と「圧縮タオル」。魔力を使わず明かりが灯る道具は、下級冒険者たちにとって革新的だった。
「こいつ、何者だよ……!」
「ギルドに正式に認可された“異物持込者”らしいぞ」
「タリムに、また新しい風が来たな……」
少しずつ、名前が知られていく。
だがその一方で、“地球からの持ち帰り”に関しても、課題が浮かび上がっていた。
(どうやって、地球で異世界の物を売るのか?)
魔石や革細工は“中世風クラフト”として需要がありそうだったが、地球での信用と流通ルートは未知数だ。
私はスマホで撮影し、フリマアプリに出品してみることにした。
「えっ……売れた?」
初出品の革細工ポーチが、2時間で落札された。価格は6,000円。材料費は異世界で銀貨2枚程度。
「この差額……ちゃんと回せば、生活できるどころじゃないかも……」
サラとレンにそのことを話すと、ふたりとも驚きつつも、何かを確信したように頷いた。
「これが、“門”の本当の使い方かもね」
「だが気をつけろ、カスミ。力は、時に災いをも呼ぶ。お前が注目されればされるほど、王国の動きは早くなる」
「……うん。でも私はもう逃げないよ」
“この力は、誰かの生活を変えられる”。
そう信じたから、私は地球と異世界の間を自由に行き来する門使いとして、歩み出すことを選んだ。
だがその夜──
タリムの北門に、王国の旗を掲げた部隊が静かに現れたという情報が届いた。
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黒鎧の騎士たちが迫り、私はサラとレンとともに森の奥へと走った。地面を這うような魔力の波動が、ただの追跡ではないと告げている。
「こっちだ、抜け道がある!」
レンの言葉に導かれ、私たちはかろうじて追跡をかわした。湿った岩肌を滑り、枝をかき分け、息を切らしながら、ようやく小高い丘の洞窟に身を隠す。
「はあ……なんで私、追われてるの……」
私は膝に顔を埋めた。息を整えるのも忘れそうになる。
でも──
「それだけ、カスミがすごいってことだよ」
サラの言葉に顔を上げると、彼女は少し得意げに笑っていた。
「門をくぐって、モノを持ち運べて、ちゃんと帰ってきた人なんて、私の知る限りじゃいないもん」
「でも、そのせいで王国にマークされて……」
「それだけの価値があるってことだ。だからこそ、戦うんじゃなく“立場”を得るんだ」
レンが真剣な表情で続けた。
「お前はもう、ギルドの仮ランクD冒険者だろう。なら次は、“活動認可”を取れ」
「活動認可?」
「ああ。各都市のギルドには、“異物持込の特例申請”って制度がある。外来品や魔道具の持ち込みに関する届け出と販売許可、それに伴う納税の枠組みまで含めてな」
「なんか……本格的」
「でもそれを取れば、堂々とこの世界で商売ができるってこと?」
「そうだ。裏取引になるよりはずっと安全だ」
それを聞いて、私は決心した。
逃げるばかりじゃ、未来をつかめない。
*
翌日、タリムの冒険者ギルド。私は受付で「異物持込の副活動申請をしたい」と申し出た。
「門使い……あなたが」
ギルドの副官は驚いた様子だったが、レンとサラの保証もあり、書類は即日受理された。
「ただし、許可されるのはあくまで“個人利用目的”の範囲です。第三者への販売を行うなら、都市部での“登録商人許可”が必要になります」
「……それも、取ります」
私は迷わず答えた。
「この力、ちゃんと使いたいから」
*
それから数日。私は“門”を使って何度か地球と往復し、試験的に物資を持ち込んだ。
カップ麺、湿布、ボールペン、ポケットティッシュ──
地球では日用品でも、こちらでは驚かれるものばかりだった。
中でも特に反響があったのは「携帯ランタン」と「圧縮タオル」。魔力を使わず明かりが灯る道具は、下級冒険者たちにとって革新的だった。
「こいつ、何者だよ……!」
「ギルドに正式に認可された“異物持込者”らしいぞ」
「タリムに、また新しい風が来たな……」
少しずつ、名前が知られていく。
だがその一方で、“地球からの持ち帰り”に関しても、課題が浮かび上がっていた。
(どうやって、地球で異世界の物を売るのか?)
魔石や革細工は“中世風クラフト”として需要がありそうだったが、地球での信用と流通ルートは未知数だ。
私はスマホで撮影し、フリマアプリに出品してみることにした。
「えっ……売れた?」
初出品の革細工ポーチが、2時間で落札された。価格は6,000円。材料費は異世界で銀貨2枚程度。
「この差額……ちゃんと回せば、生活できるどころじゃないかも……」
サラとレンにそのことを話すと、ふたりとも驚きつつも、何かを確信したように頷いた。
「これが、“門”の本当の使い方かもね」
「だが気をつけろ、カスミ。力は、時に災いをも呼ぶ。お前が注目されればされるほど、王国の動きは早くなる」
「……うん。でも私はもう逃げないよ」
“この力は、誰かの生活を変えられる”。
そう信じたから、私は地球と異世界の間を自由に行き来する門使いとして、歩み出すことを選んだ。
だがその夜──
タリムの北門に、王国の旗を掲げた部隊が静かに現れたという情報が届いた。
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