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第四話:放浪の剣士と、再開の門
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「戻れた……!」
私は、再び異世界の森に立っていた。先ほどとは違い、肌を刺す空気と魔力の波動が妙に鮮明に感じられる。短時間の帰還だったが、“門”は確かに再び開いてくれた。
「……カスミっ!」
その声に振り返ると、サラが走ってきた。肩で息をしながら、目にうっすら涙をためている。
「どこ行ってたの!? 急に消えて、もう……!」
「ご、ごめん! なんか、“門”が勝手に発動しちゃって……」
説明しきれない私の言葉を、サラはむぎゅっと抱きしめてきた。
「心配したんだからね。次からはちゃんと“戻る”って言ってよ……」
「あ、うん……」
はじめて“誰かが待ってくれている”感覚が、胸をあたたかく満たしていく。地球でも、こんな気持ちを味わったことはなかった。
その夜。サラと簡単な野営をしながら、私は少しずつ“門”の仕組みについて話した。
「この力を使えば、物資や情報も地球から持ってこられるかも……」
「へえ、じゃあ食料とかも?」
「うん、こっちの保存食って味うすいから、カップ麺とか……あ」
「なにそれ!」
サラの目がキラキラと輝いた。その瞬間、私は確信した。
――この世界で“役に立てること”、私にもあるんだ。
*
翌朝。森を出ようとしたとき、一陣の風とともに男が現れた。
長身に黒の外套。腰に帯びた剣は、磨き抜かれていて隙がない。
「……誰?」
「名乗るほどの者じゃないが、あえて言うなら――レン・シュヴァルツ。放浪の剣士だ」
どこか寂しげで、だが真っ直ぐな瞳。その目が、私とサラをじっと見つめる。
「君たち、“門の力”を使ったな?」
「……知ってるの?」
レンは軽く頷くと、ポーチから古びた本を取り出した。そこには、こう記されていた。
『門の継承者は、世界の境界を超える者。
その出現は、封じられし“もう一つの扉”を開く兆しなり。』
「君の力は、世界にとって“希望”にも“脅威”にもなりうる」
「どういう意味?」
「王国はすでに動いている。門の存在を察知し、君のような存在を“確保”または“排除”しようとしているらしい」
「……え?」
突然の重い現実に、背筋が凍る。
「私は、王国を追われた元騎士だ。君を信じると決めた。ただし――」
そのとき、空が低く唸った。魔力の波動が、空気を切り裂くように広がる。
「“封門騎士団”が来るぞ。逃げる準備を!」
レンの剣が抜かれたとき、私たちの“静かな冒険”は、終わりを告げた。
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私は、再び異世界の森に立っていた。先ほどとは違い、肌を刺す空気と魔力の波動が妙に鮮明に感じられる。短時間の帰還だったが、“門”は確かに再び開いてくれた。
「……カスミっ!」
その声に振り返ると、サラが走ってきた。肩で息をしながら、目にうっすら涙をためている。
「どこ行ってたの!? 急に消えて、もう……!」
「ご、ごめん! なんか、“門”が勝手に発動しちゃって……」
説明しきれない私の言葉を、サラはむぎゅっと抱きしめてきた。
「心配したんだからね。次からはちゃんと“戻る”って言ってよ……」
「あ、うん……」
はじめて“誰かが待ってくれている”感覚が、胸をあたたかく満たしていく。地球でも、こんな気持ちを味わったことはなかった。
その夜。サラと簡単な野営をしながら、私は少しずつ“門”の仕組みについて話した。
「この力を使えば、物資や情報も地球から持ってこられるかも……」
「へえ、じゃあ食料とかも?」
「うん、こっちの保存食って味うすいから、カップ麺とか……あ」
「なにそれ!」
サラの目がキラキラと輝いた。その瞬間、私は確信した。
――この世界で“役に立てること”、私にもあるんだ。
*
翌朝。森を出ようとしたとき、一陣の風とともに男が現れた。
長身に黒の外套。腰に帯びた剣は、磨き抜かれていて隙がない。
「……誰?」
「名乗るほどの者じゃないが、あえて言うなら――レン・シュヴァルツ。放浪の剣士だ」
どこか寂しげで、だが真っ直ぐな瞳。その目が、私とサラをじっと見つめる。
「君たち、“門の力”を使ったな?」
「……知ってるの?」
レンは軽く頷くと、ポーチから古びた本を取り出した。そこには、こう記されていた。
『門の継承者は、世界の境界を超える者。
その出現は、封じられし“もう一つの扉”を開く兆しなり。』
「君の力は、世界にとって“希望”にも“脅威”にもなりうる」
「どういう意味?」
「王国はすでに動いている。門の存在を察知し、君のような存在を“確保”または“排除”しようとしているらしい」
「……え?」
突然の重い現実に、背筋が凍る。
「私は、王国を追われた元騎士だ。君を信じると決めた。ただし――」
そのとき、空が低く唸った。魔力の波動が、空気を切り裂くように広がる。
「“封門騎士団”が来るぞ。逃げる準備を!」
レンの剣が抜かれたとき、私たちの“静かな冒険”は、終わりを告げた。
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