内定ゼロ、でも異世界でスカウトされました!」

チャチャ

文字の大きさ
8 / 12

第八話:黒の手と魔導の誓約

しおりを挟む
その夜、王都の空気は妙に重たかった。
私たちが滞在する“観察邸”にも、目に見えない緊張が漂っていた。

「……今夜は出歩かない方がいい。妙な気配がする」
レンは窓の外を警戒しながらそう言った。

「王都の裏にある“影”が動いてる。門の力を狙う、黒い連中がね」
サラも低く呟く。

「黒い連中?」

「“黒の手(くろのて)”よ。王国の暗部で動いてる組織。魔術と禁術で暗躍してる……そして、“門使い”の力を奪おうとしてる」

まさか、そんな話が現実にあるなんて。

けれど、“門”が特別な力であるなら――それを狙う者がいてもおかしくない。



その夜遅く、私は部屋の外で不穏な気配に気づいた。

足音はない。だが、確かに“結界”が破られる音がした。

「……誰?」

壁の影から現れたのは、黒いフードをかぶった人物だった。

「門の力を持つ者。お前を“保護”するために来た」
男の声は静かで、しかし氷のように冷たい。

「“黒の手”……?」

「我らは世界の均衡を守る者。お前の力が暴走すれば、三つの世界は崩壊する」

その手には、奇妙な魔術具が握られていた。私の“転移”の波長に反応して、門を封じる装置らしい。

「従え。でなければ、消えるのは――この世界のほうだ」

「……っ!」

反射的に叫ぼうとした瞬間、廊下に風が駆けた。

「カスミ、伏せろ!」

レンの剣が閃き、男の手から魔術具がはじけ飛んだ。サラもすぐさま背後から飛びかかる。

「来るなら正面から来なさいよ、卑怯者!」

三人がかりでようやく相手を追い払ったが、確信した。
――この力は、もう“安全”じゃない。



翌朝、魔術院の副長リリアが再び私の前に現れた。

「あなたに“魔導誓約”を結ぶことを提案します」

「……誓約?」

「門の力を、無闇に干渉されないように守る“保護魔術”よ。代償として、あなたは王都と“契約”することになる」

それは、見方を変えれば“監視の強化”でもあった。

だけど、何もしなければ、“黒の手”のような連中に奪われるかもしれない。

私は迷いながらも、答えた。

「……私、自分の力を誰かのために使いたい。でも、誰にも操られたくはない。だから、その誓約……“私の条件”をつけさせて」

リリアは微笑んだ。「聞きましょう」

「私が“選ぶ”。この力をどう使うか、誰と歩くか、私が決めるって誓えるなら――受ける」

しばらくの沈黙のあと、彼女は静かに頷いた。

「その覚悟に、魔術院は誓いましょう」



その夜、誓約の儀が行われた。

魔術陣の中心に立ち、私の手のひらに刻まれる“光の紋章”。

リリアの声が響く。

「ここに、“門の継承者”カスミ・フジサワの魔導誓約を認定する」

――同時に、私の中の“何か”が、目覚める感覚があった。

力が暴れるのではなく、“寄り添ってくる”。
それはまるで、私自身の中に眠っていた、もう一人の“可能性”だった。



レンとサラは誓約の儀を見守っていた。

「これで少しはマシか……」
「でも安心しちゃダメ。敵は消えてないし、次はきっと本気で来るよ」

私は頷いた。

「うん。でも私は逃げない。この世界と、地球の両方を――守りたい」

そして心の中で、強く願った。

――“門”よ。
私はまだ、あなたのすべてを知らない。
でもその力を、絶望じゃなく希望に変えたい。

それが、異世界に導かれた私の“選択”だった。




---
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王宮から捨てられた元聖騎士の私、隣国の黒狼王に拾われて過保護にされまくる

タマ マコト
ファンタジー
追放の夜、庶民出身の唯一の女性聖騎士レイアは、王太子派の陰謀によって冤罪を着せられ、王宮から無慈悲に捨てられる。 雨の中をさまよう彼女は、生きる理由すら見失ったまま橋の下で崩れ落ちるが、そこで彼女を拾ったのは隣国ザルヴェルの“黒狼王”レオンだった。 冷徹と噂される獣人の王は、傷ついたレイアを静かに抱き上げ、「お前はもう一人じゃない」と連れ帰る。 こうして、捨てられた聖騎士と黒狼の王の出会いが、運命を揺さぶる物語の幕を開ける。

没落領地の転生令嬢ですが、領地を立て直していたら序列一位の騎士に婿入りされました

藤原遊
ファンタジー
魔力不足でお城が崩れる!? 貴族が足りなくて領地が回らない!? ――そんなギリギリすぎる領地を任された転生令嬢。 現代知識と少しの魔法で次々と改革を進めるけれど、 なぜか周囲を巻き込みながら大騒動に発展していく。 「領地再建」も「恋」も、予想外の展開ばかり!? 没落領地から始まる、波乱と笑いのファンタジー開幕! ※完結まで予約投稿しました。安心してお読みください。

親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!

音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ 生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界 ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生 一緒に死んだマヤは王女アイルに転生 「また一緒だねミキちゃん♡」 ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差 アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...