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第10話「月夜の森と、ふたりの秘密」
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その夜、村の空には満月が浮かんでいた。
風は柔らかく、虫の声もどこか心地いい。
家の外に置いた小さなベンチに、ひまりは毛布をかぶって座っていた。
その足元では、もふりんとまるまるちゃんがくっついて丸まり、ふわふわの寝息をたてている。体温が伝わってきて、じんわりと胸があたたかくなった。
「……ほんとに、不思議だなあ。こんな風に過ごせる日が来るなんて」
ひまりは空を見上げた。
孤児院で過ごした静かな夜。仕事帰りに歩いた、誰もいないコンビニの前。
そんな日々を思い出すたび、今の暮らしが夢のように感じる。
そのとき、小さな足音が近づいてきた。
「こんばんは、起きてたのね」
カオリさんだった。夜風に揺れるストールと、手に持った温かいミルク。
「もし眠れないなら、少しだけ話さない?」
うなずいたひまりの隣に、カオリさんが腰を下ろす。
ふたりでミルクを手にしながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……私ね、小さな頃の記憶って、あまりないんです。孤児院で気づいたらもういて。名前も、“ひまり”って呼ばれてるから、そうなのかなって」
「そう……」
カオリさんはそっと、ひまりの髪を撫でた。
「あなたの名前、“陽葵”って書くのよ。太陽に向かって咲く花」
「……それって、私のこと?」
「ええ。私が名付けたの。あなたが生まれた時、小さな手で光をつかもうとして……それが、まるで太陽の花みたいだったから」
ひまりの胸に、何かがふわりと落ちてきた。
覚えていないはずの記憶が、言葉と一緒に心を叩いた。
見たことのないはずの景色が、ぼんやりと浮かんでくる。
「でも、どうして……私を手放したんですか?」
静かに尋ねると、カオリさんはしばらく黙ってから口を開いた。
「当時、私は……異世界から来た存在だと知られてしまってね。追われる立場になったの。あなたを巻き込まないように、知り合いに託して逃げたのよ」
それは、優しさでもあり、苦しみでもあったのだと伝わった。
「あなたが生きていて、こうしてまた会えた。それが、奇跡みたいで……夢のようなの」
ひまりは、そっとカオリさんの手を取った。
「……私も、カオリさんに会えてよかったです」
月の光が、ふたりを優しく照らしていた。
もふりんが寝返りを打って、まるまるちゃんがくすぐったそうに鼻をぴくぴくさせる。
「ふふ……この子たち、ほんとにあったかいですよね」
「ええ。まるで、心を包んでくれるみたい」
カオリさんが笑うと、その横顔がどこか懐かしい気がした。
この場所で、少しずつ繋がっていく絆。
血よりも、時間よりも深い、確かな想い。
ひまりは、今のこの穏やかな夜が、ずっと続いてほしいと願った。
──そして、心のどこかで。
もうすぐ何かが動き出す、そんな予感がしていた。
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風は柔らかく、虫の声もどこか心地いい。
家の外に置いた小さなベンチに、ひまりは毛布をかぶって座っていた。
その足元では、もふりんとまるまるちゃんがくっついて丸まり、ふわふわの寝息をたてている。体温が伝わってきて、じんわりと胸があたたかくなった。
「……ほんとに、不思議だなあ。こんな風に過ごせる日が来るなんて」
ひまりは空を見上げた。
孤児院で過ごした静かな夜。仕事帰りに歩いた、誰もいないコンビニの前。
そんな日々を思い出すたび、今の暮らしが夢のように感じる。
そのとき、小さな足音が近づいてきた。
「こんばんは、起きてたのね」
カオリさんだった。夜風に揺れるストールと、手に持った温かいミルク。
「もし眠れないなら、少しだけ話さない?」
うなずいたひまりの隣に、カオリさんが腰を下ろす。
ふたりでミルクを手にしながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……私ね、小さな頃の記憶って、あまりないんです。孤児院で気づいたらもういて。名前も、“ひまり”って呼ばれてるから、そうなのかなって」
「そう……」
カオリさんはそっと、ひまりの髪を撫でた。
「あなたの名前、“陽葵”って書くのよ。太陽に向かって咲く花」
「……それって、私のこと?」
「ええ。私が名付けたの。あなたが生まれた時、小さな手で光をつかもうとして……それが、まるで太陽の花みたいだったから」
ひまりの胸に、何かがふわりと落ちてきた。
覚えていないはずの記憶が、言葉と一緒に心を叩いた。
見たことのないはずの景色が、ぼんやりと浮かんでくる。
「でも、どうして……私を手放したんですか?」
静かに尋ねると、カオリさんはしばらく黙ってから口を開いた。
「当時、私は……異世界から来た存在だと知られてしまってね。追われる立場になったの。あなたを巻き込まないように、知り合いに託して逃げたのよ」
それは、優しさでもあり、苦しみでもあったのだと伝わった。
「あなたが生きていて、こうしてまた会えた。それが、奇跡みたいで……夢のようなの」
ひまりは、そっとカオリさんの手を取った。
「……私も、カオリさんに会えてよかったです」
月の光が、ふたりを優しく照らしていた。
もふりんが寝返りを打って、まるまるちゃんがくすぐったそうに鼻をぴくぴくさせる。
「ふふ……この子たち、ほんとにあったかいですよね」
「ええ。まるで、心を包んでくれるみたい」
カオリさんが笑うと、その横顔がどこか懐かしい気がした。
この場所で、少しずつ繋がっていく絆。
血よりも、時間よりも深い、確かな想い。
ひまりは、今のこの穏やかな夜が、ずっと続いてほしいと願った。
──そして、心のどこかで。
もうすぐ何かが動き出す、そんな予感がしていた。
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