『ひまりのスローライフ便り 〜異世界でもふもふに囲まれて〜』

チャチャ

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第11話「月明かりの昔語り」

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翌日の夜も、風は静かで月がまるく光っていた。
 夕食の片付けを終えたひまりは、またあのベンチに腰かけて、もふりんとまるまるちゃんを撫でながら空を見上げていた。

 そこへ、木の扉がきぃと開く音。
 ストールを肩にかけたカオリが、湯気の立つマグカップをふたつ持って現れた。

「これ、はちみつ入りのミルクティー。眠れない夜にはちょうどいいの」

「……ありがとう、カオリさん」

 ひまりは隣に座ると、湯気越しに母の横顔を見つめた。まだ“お母さん”とは呼べない。でも、あの夜からずっと、心がふんわりとあたたかい。

 

「ねえ、カオリさん。少しだけ……昔のこと、聞いてもいい?」

 少しの沈黙のあと、カオリはゆっくりとうなずいた。

「もちろん。あなたが知りたいなら、ちゃんと話すわ」

 彼女の声は、どこか遠くを見るようだった。

「私は、あなたが生まれる少し前に、この世界に来たの。突然で、理由もわからなかった。でも、出会った人たちが優しくて……特に、あなたのお父さんは、私を受け入れてくれた」

 ひまりの胸が、少しだけ締めつけられた。

「……でも、平穏は続かなかった。異世界と地球は、本来交わってはいけないものだと考える人たちがいるの。“結界守”と呼ばれる者たちは、私たちのような“よそ者”を危険視して、監視していた」

「結界守……?」

「ええ。あの人たちは秩序を守るという名のもとに、自由や幸せを壊すこともあるの」

 

 遠くでフクロウが鳴いた。
 もふりんが、ひまりの膝に顔をこすりつけてくる。

「私は、あなたを守るために姿を消したの。……でも、ずっと後悔してた。抱きしめることも、名前を呼ぶこともできないまま、時が過ぎてしまったから」

「……こうして会えたから、私はうれしいです」

 ひまりはそう言って、そっとカオリの手を握った。

 手は少し冷たくて、でも震えていた。

「ありがとう、ひまり……あなたに、もう一度会えて本当によかった」

 

 月明かりの下で、ふたりの影が重なった。

 もふもふたちも、まるで空気を読んだようにくっついて寄り添ってくる。
 まるまるちゃんがふにゃっと甘えた声で鳴いて、ひまりの腕の中に潜り込んだ。

「ふふ……ほんと、この子たちって癒しだね」

「そうね。何があっても、このぬくもりだけは守っていきたい」

 

 その夜、夢の中でひまりは知らない森を歩いていた。
 白いローブをまとった人影が、月の下に立っている──けれどその顔は、はっきりとは見えなかった。

 

 そして、夢の最後に誰かの声がささやいた。

 《……この地に、再び“風の印”が現れた》

 

 目覚めたとき、ひまりは不思議な感覚だけを覚えていた。
 胸の奥で、何かが少しずつ、動き出しているような──


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