『ひまりのスローライフ便り 〜異世界でもふもふに囲まれて〜』

チャチャ

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第15話「風の音が運ぶ、家族のぬくもり」

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朝の光が差し込む窓辺で、ひまりは小さな編み物をしていた。まるまるちゃんは彼女の膝の上で丸くなって、静かな寝息を立てている。ミラの丘は今日も穏やかで、外ではもふりんが木漏れ日の中で尻尾をふりふり遊んでいた。

カオリが作るパンの香ばしい香りが、キッチンから漂ってくる。
「焼きたて、もうすぐよ」
エプロン姿のカオリが声をかけると、ひまりはぱっと顔を上げた。

「うん、楽しみ! あ、セイさんって今日も来るのかな?」
「来ると思うわ。彼、最近よく寄ってくれるから」
「なんだか……お兄さんみたいで、ちょっと安心感あるよね」
ひまりが笑うと、カオリは少し目を細めた。

セイは、近くの村とミラの丘の間を行き来している。森の中の何かを調べているらしいが、ひまりたちとの時間を大切にしてくれていた。

ドアをノックする音。
開けると、セイが小さな包みを持って立っていた。

「これ、村の市場で手に入れた焼き菓子です。ハチミツ入りで、甘いのが好きならきっと……」
「わー、ありがとう!入って入って!」
ひまりが両手で包みを受け取り、笑顔で招き入れる。まるまるちゃんも「ぷぅ」と鳴いてセイにぴょこんと跳ねて寄っていく。

カオリはにこやかに「お茶を淹れますね」と言い、台所へと戻った。

穏やかな時間が流れていく中、セイはふと、ひまりの編んでいた毛糸玉に目をやった。
「……それ、何を編んでるんですか?」
「これは、まるまるちゃん用の小さなマフラー。夜はちょっと冷えるでしょ」
「なるほど……。優しいんですね、ひまりさんは」

「そ、そんなことないよ。ただ……ここで暮らすようになって、ようやく“守りたいもの”ができたって感じかな」
ひまりは照れたように笑いながら、まるまるちゃんの頭をなでた。

そのとき、カオリがふと静かに口を開いた。
「ひまり……。話したいことがあるの」
その声音に、ひまりとセイは自然と手を止めた。

「あなたに、ずっと言えずにいたことがあるの。……実はね、私は……あなたの母親なの」

静まり返る室内。風がふっとカーテンを揺らした。

「……え?」
ひまりの指から、毛糸がふわりとほどけた。

「私はかつて、地球からこの世界に転移したの。理由があって、あなたを日本に残してきた。でも、本当はずっと、会いたかったのよ」
「うそ……。じゃあ、私が……ずっと会いたかった“お母さん”って……」

カオリはそっとひまりの手を取った。
「ごめんなさい。でも、ありがとう。生きていてくれて……私を見つけてくれて」

ひまりの目から、ぽろぽろと涙がこぼれた。

「ずっと、あたたかい家庭が欲しかった。ずっと……、夢だったんだよ……」
まるまるちゃんが、心配そうにひまりの膝に乗って「ぷぅ」と鳴いた。

セイは黙って見守っていたが、ひとつ深く息をついた。
「……実は私も、カオリさんが“地球から来た”という記録を探していた一人です。結界守という存在が、かつて異世界の秩序を守るために追っていた人物……その中に、カオリさんの名前がありました」
「追ってた……?」
「今は組織自体が動いていません。でも、過去に何があったか、知っておくべきだと思ったんです」

カオリは小さくうなずいた。
「私は“風の鍵”というものを持っていた。それは、異世界のとある場所へ通じる、転移の道標。でも、それが混乱を招くこともあって、私は追われる立場になった……。だから娘を守るために、自分を偽り、生きてきたの」

「そんな過去があったんだね……でも……でも!」
ひまりは涙を拭いて、笑った。

「私はここで、もう一度お母さんと出会えた。それだけで、十分だよ」

そう言って、二人はそっと抱きしめ合った。

そしてその日から——
ひまりの「夢」だった温かな家庭は、ほんの少しだけ形を帯び始める。

もふりんがくるくる回り、まるまるちゃんがころころ転がり、セイは優しく微笑んだ。

森の風が、窓の外を穏やかに通り抜けていった。

——それは、家族の始まりの音だった。


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