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第16話「朝焼けに溶ける、あたたかな記憶」
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「まるまる、そっち引っ張っちゃだめだよ~!」
朝の光が差し込む庭先で、ひまりは毛糸玉をくわえて全速力で逃げ回るまるまるちゃんを追いかけていた。くるくると転がるその姿は、白くてふわふわの綿あめのよう。もふりんはその後ろをついてまわり、完全に遊びモードだ。
「ほら、返してー。それ、カオリさんとおそろいの手袋になる予定だったんだから!」
もふもふたちとわちゃわちゃ遊んでいると、ふとカオリの笑い声が聞こえてきた。
縁側に腰かけたカオリは、湯気の立つマグカップを両手で包みながら、やわらかく微笑んでいる。
「昔もそうだったのよ。あなた、よく毛糸で遊んでぐるぐる巻きになってた」
「えっ、ほんとに? 全然覚えてない……」
「まだ小さかったもの。でも、そんな小さなことが、今もちゃんと覚えてるのよ」
ひまりはまるまるちゃんを抱き上げると、そっとカオリの隣に座った。まるまるちゃんはおとなしくカオリの膝に乗り、気持ちよさそうに目を閉じる。
「……あのね」
ひまりは、ぽつりと呟いた。
「やっと“ただいま”って言える場所ができた気がするよ。たった数日なのに、不思議だね」
カオリは少しだけ目を細めて、空を見上げた。
「家っていうのは、時間じゃなくて、想いでできていくのかもしれないわね」
---
セイも今日は朝から来てくれていた。薪割りを終えた彼は、鍬を持って小さな畑の草を抜いている。見慣れない花の種も持ってきてくれて、「これは春に咲くから」と言ってくれた。
「よかったら、ここに一緒に植えませんか? 僕も時々様子見に来ますし」
「わぁ、ありがとう。畑の彩りが増えるの、うれしいな」
「カオリさんのパンに添えるハーブにもなりますよ。セイジやタイム、ミントなんかも……」
ひまりが種をまきながら、土の匂いにふと懐かしさを覚える。日本にいた頃、団地のベランダでちまちまと育てていたミニトマトのことを思い出す。
——でも、今は。
「大地に根を張ってるって、こういうことなんだね」
ひまりの言葉に、セイは驚いたように彼女を見つめた。そして、照れたように笑った。
「そうですね。根を張る場所があるって、きっと強さになる」
---
午後、ミラの丘にぽつんと立つ石碑のようなものを、まるまるちゃんが見つけた。
「ぷー……」
小さな石に刻まれたのは、見たことのない古い文字。だがその下に、小さく「カ」と彫られていた。
「これ……カオリさんの?」
「ええ。昔、旅の途中でここを見つけて、一人でこっそり印を残したの」
カオリは、少しはにかんで笑った。
「誰かに見つけてもらえるかもしれないって……ほんの、気まぐれだったけど」
「それが、今になってつながったんだね」
ひまりは、まるで運命の糸のようにその線が引かれていたことを感じた。
ふと、石の周りにふわふわの綿毛が風に舞った。空に舞い上がるそれを、もふりんが夢中で追いかける。
「風も、味方してくれたのかな」
そのとき、空に虹のような光の筋が走った。風の精霊が、もしかしたら、ここにいるのかもしれない。そんな気がした。
---
夜。
テーブルの上には焼きたてのスープパンと、香ばしいハーブのサラダ。セイも交えてのささやかな晩ごはん。もふりんは足元でごろりと転がり、まるまるちゃんは丸パンのカゴの隣でちょこんと座っている。
「うん、やっぱりここのパン、世界一だよ」
「大げさね。でも、ありがとう」
笑い合う食卓の中、ひまりはふと思った。
——ここが、わたしの帰る場所。
かつては夢だった、あたたかい家庭。
それは、異世界でふわりと静かに、形になっていこうとしていた。
そしてこの時間こそが、きっと母との“失われた時間”を埋めていく第一歩なのだと、感じていた。
---
その夜。ひまりは月明かりの下で、日記をつけていた。
《今日もいい日だった。
ふしぎなことがいっぱいあって、なつかしいものに会えて、そして……。
もう一度、お母さんって呼べる人に出会えた。》
ページの端には、まるまるちゃんの足跡が一つ、ぺたりと残った。
「……まるまる、それインクじゃないよー?」
ふたりのもふもふな夜は、のんびりと、そして幸せに更けていった。
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朝の光が差し込む庭先で、ひまりは毛糸玉をくわえて全速力で逃げ回るまるまるちゃんを追いかけていた。くるくると転がるその姿は、白くてふわふわの綿あめのよう。もふりんはその後ろをついてまわり、完全に遊びモードだ。
「ほら、返してー。それ、カオリさんとおそろいの手袋になる予定だったんだから!」
もふもふたちとわちゃわちゃ遊んでいると、ふとカオリの笑い声が聞こえてきた。
縁側に腰かけたカオリは、湯気の立つマグカップを両手で包みながら、やわらかく微笑んでいる。
「昔もそうだったのよ。あなた、よく毛糸で遊んでぐるぐる巻きになってた」
「えっ、ほんとに? 全然覚えてない……」
「まだ小さかったもの。でも、そんな小さなことが、今もちゃんと覚えてるのよ」
ひまりはまるまるちゃんを抱き上げると、そっとカオリの隣に座った。まるまるちゃんはおとなしくカオリの膝に乗り、気持ちよさそうに目を閉じる。
「……あのね」
ひまりは、ぽつりと呟いた。
「やっと“ただいま”って言える場所ができた気がするよ。たった数日なのに、不思議だね」
カオリは少しだけ目を細めて、空を見上げた。
「家っていうのは、時間じゃなくて、想いでできていくのかもしれないわね」
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セイも今日は朝から来てくれていた。薪割りを終えた彼は、鍬を持って小さな畑の草を抜いている。見慣れない花の種も持ってきてくれて、「これは春に咲くから」と言ってくれた。
「よかったら、ここに一緒に植えませんか? 僕も時々様子見に来ますし」
「わぁ、ありがとう。畑の彩りが増えるの、うれしいな」
「カオリさんのパンに添えるハーブにもなりますよ。セイジやタイム、ミントなんかも……」
ひまりが種をまきながら、土の匂いにふと懐かしさを覚える。日本にいた頃、団地のベランダでちまちまと育てていたミニトマトのことを思い出す。
——でも、今は。
「大地に根を張ってるって、こういうことなんだね」
ひまりの言葉に、セイは驚いたように彼女を見つめた。そして、照れたように笑った。
「そうですね。根を張る場所があるって、きっと強さになる」
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午後、ミラの丘にぽつんと立つ石碑のようなものを、まるまるちゃんが見つけた。
「ぷー……」
小さな石に刻まれたのは、見たことのない古い文字。だがその下に、小さく「カ」と彫られていた。
「これ……カオリさんの?」
「ええ。昔、旅の途中でここを見つけて、一人でこっそり印を残したの」
カオリは、少しはにかんで笑った。
「誰かに見つけてもらえるかもしれないって……ほんの、気まぐれだったけど」
「それが、今になってつながったんだね」
ひまりは、まるで運命の糸のようにその線が引かれていたことを感じた。
ふと、石の周りにふわふわの綿毛が風に舞った。空に舞い上がるそれを、もふりんが夢中で追いかける。
「風も、味方してくれたのかな」
そのとき、空に虹のような光の筋が走った。風の精霊が、もしかしたら、ここにいるのかもしれない。そんな気がした。
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夜。
テーブルの上には焼きたてのスープパンと、香ばしいハーブのサラダ。セイも交えてのささやかな晩ごはん。もふりんは足元でごろりと転がり、まるまるちゃんは丸パンのカゴの隣でちょこんと座っている。
「うん、やっぱりここのパン、世界一だよ」
「大げさね。でも、ありがとう」
笑い合う食卓の中、ひまりはふと思った。
——ここが、わたしの帰る場所。
かつては夢だった、あたたかい家庭。
それは、異世界でふわりと静かに、形になっていこうとしていた。
そしてこの時間こそが、きっと母との“失われた時間”を埋めていく第一歩なのだと、感じていた。
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その夜。ひまりは月明かりの下で、日記をつけていた。
《今日もいい日だった。
ふしぎなことがいっぱいあって、なつかしいものに会えて、そして……。
もう一度、お母さんって呼べる人に出会えた。》
ページの端には、まるまるちゃんの足跡が一つ、ぺたりと残った。
「……まるまる、それインクじゃないよー?」
ふたりのもふもふな夜は、のんびりと、そして幸せに更けていった。
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