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第26話「雨の午後、心を寄せる音」
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朝から空はどんよりと重く、やがてポツポツと小さな雨粒が屋根を叩き始めた。菜園に出ようとしていたひまりは、そっと窓を閉じて、静かに息をついた。
「久しぶりの雨だね……」
もふもふのまるまるちゃんは、ひまりの足元で丸くなりながらしっぽをぱたぱた揺らしていた。ひまりは膝をついてその背をなでると、ふわりとあたたかい気持ちが胸に広がった。
雨音の中で、家の中にだけ広がる、しずかな時間。料理も済ませてしまったし、今日はのんびり過ごすしかない。
「……こんな日は、手仕事でもしようかな」
引き出しの奥から、ほつれた布や針箱を取り出す。孤児院で教わった針仕事は、いまでもひまりの大切な時間の一つだった。
---
午後、ぽたりぽたりと雨脚が強まるころ。
誰かが扉をノックした。
「はい、どなた……?」
扉を開けると、そこにはずぶ濡れのユウトくんが立っていた。肩まで雨に打たれた髪がしっとりと濡れ、彼は少し照れくさそうに笑った。
「ごめん、急に。道具を届けに来たんだけど、雨にやられちゃってさ」
「えっ、そんな……早く中に入って、タオル使って!」
ひまりはあわてて手を引き、ユウトくんを家の中へと招き入れた。すぐにタオルを渡し、囲炉裏の火を強める。
「まったく……なんでこんな日に歩いて来たの?」
「昨日、約束してただろ? 鍬の修理が終わったら届けるって。忘れてるかと思ってた?」
ひまりは首を横にふった。
「覚えてたけど、こんな雨の中、無理しなくてよかったのに……」
ユウトくんは肩をすくめて笑った。
「ひまりさんの家に来る理由があった方が、雨でも悪くなかったからさ」
ふと、目が合った。
言葉に詰まったひまりは、急いで視線を外した。
---
「……で、この柄の布を選んだ理由は?」
乾いた服に着替えたユウトくんは、ひまりの手元をのぞきこんだ。ひまりは今、鍋つかみを作っている最中だった。手にした布には、黄色の小花が散っている。
「なんとなく、春っぽいかなって。あたたかい色を見ると、気持ちも明るくなるでしょ?」
「うん、ひまりさんらしいと思う」
ユウトくんの言葉に、ひまりの手がぴたりと止まる。
すぐに顔が熱くなり、彼に背中を向けたまま、つぶやいた。
「……からかわないでよ」
「からかってないって」
針の音が、雨の音と重なる。静かで、でもどこかやわらかい時間だった。
「昔から、こんな雨の日は苦手だったんだ。音が寂しくて」
ふいに、ユウトくんがぽつりと言った。
「でも、今日は違う。……こうして、誰かと一緒にいられると、雨の音ってやさしいんだなって思う」
ひまりは黙って、縫い目をひとつ、またひとつと重ねる。
その言葉の裏にある想いを、そっと受け止めながら。
---
「じゃあ、これで帰るよ。長居しすぎたかも」
夕方になり、雨が少しだけ弱まった頃、ユウトくんは立ち上がった。ひまりは差し出された鍬を受け取り、笑って言った。
「ありがとう。……それに、来てくれてうれしかったよ」
彼は少し驚いたように、けれどすぐに柔らかく微笑んだ。
「……また、来てもいい?」
その言葉に、ひまりは小さく頷いた。
「もちろん、“ユウトくん”」
その呼び方に、ほんの少し戸惑ったような顔をしたユウトくんだったけれど、すぐに笑顔に戻った。
「うん、じゃあ、また近いうちに」
ドアの外へ出ていく背中を、ひまりは見送る。
雨はまだ止みそうになかったけれど、胸の奥には、晴れ間のようなぬくもりが灯っていた。
---
夜。まるまるちゃんが布団の端でくうくうと眠るころ。
ひまりは日記帳を開いて、そっとペンを走らせた。
『今日は、雨の日の思い出ができました。
ユウトくんと過ごした、穏やかでやさしい時間。
まるで、お母さんのぬくもりみたいな――あたたかな音。』
窓の外では、まだ雨の音がしていた。
でも、もう寂しくなんてなかった。
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「久しぶりの雨だね……」
もふもふのまるまるちゃんは、ひまりの足元で丸くなりながらしっぽをぱたぱた揺らしていた。ひまりは膝をついてその背をなでると、ふわりとあたたかい気持ちが胸に広がった。
雨音の中で、家の中にだけ広がる、しずかな時間。料理も済ませてしまったし、今日はのんびり過ごすしかない。
「……こんな日は、手仕事でもしようかな」
引き出しの奥から、ほつれた布や針箱を取り出す。孤児院で教わった針仕事は、いまでもひまりの大切な時間の一つだった。
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午後、ぽたりぽたりと雨脚が強まるころ。
誰かが扉をノックした。
「はい、どなた……?」
扉を開けると、そこにはずぶ濡れのユウトくんが立っていた。肩まで雨に打たれた髪がしっとりと濡れ、彼は少し照れくさそうに笑った。
「ごめん、急に。道具を届けに来たんだけど、雨にやられちゃってさ」
「えっ、そんな……早く中に入って、タオル使って!」
ひまりはあわてて手を引き、ユウトくんを家の中へと招き入れた。すぐにタオルを渡し、囲炉裏の火を強める。
「まったく……なんでこんな日に歩いて来たの?」
「昨日、約束してただろ? 鍬の修理が終わったら届けるって。忘れてるかと思ってた?」
ひまりは首を横にふった。
「覚えてたけど、こんな雨の中、無理しなくてよかったのに……」
ユウトくんは肩をすくめて笑った。
「ひまりさんの家に来る理由があった方が、雨でも悪くなかったからさ」
ふと、目が合った。
言葉に詰まったひまりは、急いで視線を外した。
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乾いた服に着替えたユウトくんは、ひまりの手元をのぞきこんだ。ひまりは今、鍋つかみを作っている最中だった。手にした布には、黄色の小花が散っている。
「なんとなく、春っぽいかなって。あたたかい色を見ると、気持ちも明るくなるでしょ?」
「うん、ひまりさんらしいと思う」
ユウトくんの言葉に、ひまりの手がぴたりと止まる。
すぐに顔が熱くなり、彼に背中を向けたまま、つぶやいた。
「……からかわないでよ」
「からかってないって」
針の音が、雨の音と重なる。静かで、でもどこかやわらかい時間だった。
「昔から、こんな雨の日は苦手だったんだ。音が寂しくて」
ふいに、ユウトくんがぽつりと言った。
「でも、今日は違う。……こうして、誰かと一緒にいられると、雨の音ってやさしいんだなって思う」
ひまりは黙って、縫い目をひとつ、またひとつと重ねる。
その言葉の裏にある想いを、そっと受け止めながら。
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「じゃあ、これで帰るよ。長居しすぎたかも」
夕方になり、雨が少しだけ弱まった頃、ユウトくんは立ち上がった。ひまりは差し出された鍬を受け取り、笑って言った。
「ありがとう。……それに、来てくれてうれしかったよ」
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「……また、来てもいい?」
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「うん、じゃあ、また近いうちに」
ドアの外へ出ていく背中を、ひまりは見送る。
雨はまだ止みそうになかったけれど、胸の奥には、晴れ間のようなぬくもりが灯っていた。
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夜。まるまるちゃんが布団の端でくうくうと眠るころ。
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『今日は、雨の日の思い出ができました。
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でも、もう寂しくなんてなかった。
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