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42話『ママ友ネットワークと、うわさの真相』
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「ねえ、ちょっと聞いた?」 保育園の門の近く、子どもを送り届けた後に自然とできるママたちの輪。その中に、ひそひそとした声が交じった。
「何を?」 「また、田仲さんのことよ」
「えっ、麻衣さん?」 驚いたように返したのは高梨さん。ひなのと同じ年中クラスの娘・まゆちゃんのママで、最近は麻衣とよく話すようになっていた。
「先月あたりから、ちょっと不思議なこと多くない? 園の掲示板のミスに気づいたのも、田仲さんだったんだって」
「えっ、そうなの? 初耳……」 「それだけじゃないの。遠足の集合時間が間違ってたのも、先生にさりげなく伝えて直してもらったの、彼女らしいわよ」
「へぇ……でもあの人、そういうの自分から言わないよね」
「それなのよ!」 身を乗り出して言ったママの目がきらりと光る。
「普通なら“私が気づいたんですよ”ってアピールしそうじゃない? でも田仲さんって、すっと自然に動いて、表に出てこないの。不思議な人よね~」
「確かに……悪い人じゃないけど、ちょっとふわっとしてて掴みどころがない感じ」
「この前のバザーでも、すごく上手に裏方やってたのに、終わった頃には姿が見えなかったし」
「うちの子、ひなのちゃんのこと大好きでさ。“ひなのちゃんがね~”ってよく話してる。だから、あの家のお母さんはきっといい人なんだろうなって思ってた」
「うんうん、ひなのちゃん、ほんと可愛いもんね。素直だし」
「でもさ、なんでいつもあんなに余裕あるのかな? 上の子もいるんでしょ? 仕事してるって話は聞くけど、家のこととか、うまく回してるっぽいし……なんか不思議なバランス感覚持ってるよね」
高梨さんは、こっそり笑いそうになるのをこらえていた。 麻衣は確かにちょっと天然だけど、周りをよく見ていて、人に押しつけがましくなく助けるのがうまい。それに、家の中では結構ドタバタしてるのも知ってる。
――この間なんて、「洗濯物を畳んでたら、ひなのに全部ぐちゃぐちゃにされた~」と、電話口で笑ってたっけ。
「でも……そういうとこ、ちょっと羨ましいかも」 高梨さんがぽつりとつぶやいた。
「え? どういうこと?」
「うまく言えないけど……田仲さんって、目立とうとしてないのに、気づいたらこっちが助けられてるって感じがするのよね」
「……あ、それ分かるかも」 「なんか、気づいたら助けられてたって、いい言葉かも」 「高梨さん、たまに名言出すよね~」 「え、ちょっと~やめて~照れる!」
どっと笑いが起きる。 そんな中、最初に話を切り出したママがぽつりと呟いた。
「でも本当に、あんなふうに人と関われたら素敵だよね。うち、けっこうカリカリしちゃって、つい子どもにもキツく当たっちゃうから……」
「分かる~。毎朝、戦争よ」
「お弁当のタコさんウィンナー焦がしただけで、今日一日ダメな気分になるし……」
「それ、ある意味最大の失敗……!」
また笑いが弾ける。 自然と、輪の中心には麻衣の名前があった。それは悪意ある噂話ではなく、どこかほんわかとした空気をまとった、ゆるやかな尊敬と共感の空気。
――そんな時だった。
「おはようございます~」
と、まさに話題の主・麻衣が登園してきた。 ひなのの帽子を直しながら、にこにこと微笑んでいる。
さっきまで盛り上がっていたママたちが、ぱっと顔を見合わせ、次々と自然に会釈する。
まるで、話題の続きを口に出すのが少し恥ずかしくなったように。
「なんだか今日は、朝から空気がやわらかいですね~」
そう麻衣が言うと、高梨さんがふっと笑って返す。
「そうかもね。たぶん、あなたが来たからだよ」
「えっ、私ですか?」
「うん、田仲さんって……癒し系オーラあるよ」
「いや~そんなことないですよぉ~。さっきまで、ひなのがズボン逆に履いてて、玄関で大騒ぎだったんですから!」
麻衣が困ったように笑うと、その場にいたママたちも、つられて笑顔になる。
その日の午後―― ママ友たちのLINEグループには、あるママが投稿した一言が静かに流れた。
「田仲さん、やっぱり好きだわ。私もあんなふうに、周りに優しくなれたらいいのに」
すぐにいくつもの「いいね」がついた。
そしてそのうちの一つには、こう添えられていた。
「そうだね。今日の朝、なんかちょっと優しい気持ちになれたもん」
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「何を?」 「また、田仲さんのことよ」
「えっ、麻衣さん?」 驚いたように返したのは高梨さん。ひなのと同じ年中クラスの娘・まゆちゃんのママで、最近は麻衣とよく話すようになっていた。
「先月あたりから、ちょっと不思議なこと多くない? 園の掲示板のミスに気づいたのも、田仲さんだったんだって」
「えっ、そうなの? 初耳……」 「それだけじゃないの。遠足の集合時間が間違ってたのも、先生にさりげなく伝えて直してもらったの、彼女らしいわよ」
「へぇ……でもあの人、そういうの自分から言わないよね」
「それなのよ!」 身を乗り出して言ったママの目がきらりと光る。
「普通なら“私が気づいたんですよ”ってアピールしそうじゃない? でも田仲さんって、すっと自然に動いて、表に出てこないの。不思議な人よね~」
「確かに……悪い人じゃないけど、ちょっとふわっとしてて掴みどころがない感じ」
「この前のバザーでも、すごく上手に裏方やってたのに、終わった頃には姿が見えなかったし」
「うちの子、ひなのちゃんのこと大好きでさ。“ひなのちゃんがね~”ってよく話してる。だから、あの家のお母さんはきっといい人なんだろうなって思ってた」
「うんうん、ひなのちゃん、ほんと可愛いもんね。素直だし」
「でもさ、なんでいつもあんなに余裕あるのかな? 上の子もいるんでしょ? 仕事してるって話は聞くけど、家のこととか、うまく回してるっぽいし……なんか不思議なバランス感覚持ってるよね」
高梨さんは、こっそり笑いそうになるのをこらえていた。 麻衣は確かにちょっと天然だけど、周りをよく見ていて、人に押しつけがましくなく助けるのがうまい。それに、家の中では結構ドタバタしてるのも知ってる。
――この間なんて、「洗濯物を畳んでたら、ひなのに全部ぐちゃぐちゃにされた~」と、電話口で笑ってたっけ。
「でも……そういうとこ、ちょっと羨ましいかも」 高梨さんがぽつりとつぶやいた。
「え? どういうこと?」
「うまく言えないけど……田仲さんって、目立とうとしてないのに、気づいたらこっちが助けられてるって感じがするのよね」
「……あ、それ分かるかも」 「なんか、気づいたら助けられてたって、いい言葉かも」 「高梨さん、たまに名言出すよね~」 「え、ちょっと~やめて~照れる!」
どっと笑いが起きる。 そんな中、最初に話を切り出したママがぽつりと呟いた。
「でも本当に、あんなふうに人と関われたら素敵だよね。うち、けっこうカリカリしちゃって、つい子どもにもキツく当たっちゃうから……」
「分かる~。毎朝、戦争よ」
「お弁当のタコさんウィンナー焦がしただけで、今日一日ダメな気分になるし……」
「それ、ある意味最大の失敗……!」
また笑いが弾ける。 自然と、輪の中心には麻衣の名前があった。それは悪意ある噂話ではなく、どこかほんわかとした空気をまとった、ゆるやかな尊敬と共感の空気。
――そんな時だった。
「おはようございます~」
と、まさに話題の主・麻衣が登園してきた。 ひなのの帽子を直しながら、にこにこと微笑んでいる。
さっきまで盛り上がっていたママたちが、ぱっと顔を見合わせ、次々と自然に会釈する。
まるで、話題の続きを口に出すのが少し恥ずかしくなったように。
「なんだか今日は、朝から空気がやわらかいですね~」
そう麻衣が言うと、高梨さんがふっと笑って返す。
「そうかもね。たぶん、あなたが来たからだよ」
「えっ、私ですか?」
「うん、田仲さんって……癒し系オーラあるよ」
「いや~そんなことないですよぉ~。さっきまで、ひなのがズボン逆に履いてて、玄関で大騒ぎだったんですから!」
麻衣が困ったように笑うと、その場にいたママたちも、つられて笑顔になる。
その日の午後―― ママ友たちのLINEグループには、あるママが投稿した一言が静かに流れた。
「田仲さん、やっぱり好きだわ。私もあんなふうに、周りに優しくなれたらいいのに」
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「そうだね。今日の朝、なんかちょっと優しい気持ちになれたもん」
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