『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

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124話『集う者たちと、仮面の告白』

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夕暮れが差し込む高層ビルの一室――
ガラス張りの会議室のような空間に、静かに数人の姿が集まり始めていた。

「ここが……“次のステージ”?」

麻衣はその場の空気に、胸の奥がじんと熱くなるような、不思議な感覚を覚えていた。場所は都内某所にある貸会議室だが、部屋に入る際にスキルアプリを通して“サーバー接続”された感覚があった。これは、ただの現実ではない。現実とスキル世界の“境界”にある場所――

「ようこそ。“覚醒者”の会へ」

声をかけてきたのは、紺のジャケットを羽織った女性だった。麻衣とスミレに軽く会釈しながら、端末を操作している。

「彼女は……?」

「中條茜さん。企業スキル戦略の元コンサルよ。今は独立して、スキル管理の非公式ネットワークをまとめてるの」

スミレが説明する。茜は淡々とした表情で数人の到着を確認しながら、笑みも見せずに促す。

「他のメンバーもすぐに到着します。どうか警戒せず、席に」

麻衣はスミレと並んで席についた。しばらくして、数人が静かに入室してくる。

その中に、ひとり――麻衣が見覚えのある顔があった。

「……川島さん……?」

ふと、麻衣と視線がぶつかる。
少し長めの髪に、落ち着いた色合いのワンピース。だが、その瞳の奥に宿る鋭さは以前とはまったく違っていた。

「久しぶり、田仲さん」

声は穏やかだが、その奥には張り詰めたものがあった。

「まさか、ここで再会するなんて思わなかったわ。……でも、あなたも、だったのね」

「え?」

「“気づいた”のよね? スキルの正体、そして、自分の中にある……何かに」

麻衣は黙ったまま、頷いた。

川島さん――いや、今の彼女は“りんかママ”ではなかった。何かを乗り越えた目だった。彼女もまた、スキルの異常と、自身の中に眠るものに向き合っていたのだ。

「よう。集まってきたな」

低く響く声とともに、青年が入ってきた。パーカー姿にキャップをかぶった、どこか影のある雰囲気。

「彼は?」麻衣がそっと聞くと、スミレが答えた。

「岡部隼人。元ゲーマーで、スキルバトルの非公認大会“裏チャンピオン”よ。スキルを“武器”として扱ってたけど、今は……方向を変えようとしている」

岡部は麻衣を一瞥し、「新入りか」と小さく呟いた。

「……そういう態度、やめてくれる?」

川島がぴしゃりと言う。空気が少し張り詰めるが、茜が割って入る。

「皆さん、落ち着いて。今日は“スキル異常の連鎖”に関する最新の観測結果と、影響範囲について共有するための場です。私情は後に」

それから茜はスライドを投影し、話し始めた。

「結論から言うと、“共鳴現象”が加速しています。覚醒したスキル保持者が特定の感情や行動を取ると、それが“近隣のスキル利用者”にも波及し、スキルの挙動に影響を及ぼす」

「つまり、俺が怒りに駆られてスキル使ったら、隣のやつも巻き込まれるってことかよ」

岡部がつぶやく。

「正確には、“引き寄せ”が起きます。怒り、悲しみ、強い喜び……それらが共鳴のトリガーとなる。そしてその中心に、今、最も強い影響力を持っているのが――」

茜は画面を切り替えた。そこには、麻衣のアカウントIDが表示されていた。

「……わたし……?」

「驚かないで。あなたは“無自覚に他者を助けてきた”稀有なプレイヤー。喜びや感謝を多く受け取ってきた。その結果、あなたのスキルには“正の共鳴”のエネルギーが蓄積されているの」

「それって……悪いことなの?」

「本来ならね、良いはずよ」

スミレが静かに続ける。

「でも、そのエネルギーに引き寄せられて、“反転”する存在がいるの」

「反転……?」

川島がそっと視線を落とす。

「たとえば、私。昔、あなたのことを妬んでいた。優しい夫、素直な子ども、穏やかな家庭。……でも、私は気づいたの。妬みや怒りが、自分のスキルに歪みをもたらしていたことに」

彼女の声は静かだったが、痛みがにじんでいた。

「それに打ち勝てたの?」

麻衣がそっと聞くと、川島はうっすらと微笑んだ。

「ええ。あなたのこと、ずっと見てたから。“許すこと”も、スキルの一部なんだって、気づいたの」

麻衣は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

スキルは戦いの道具じゃない。誰かの怒りや悲しみに飲まれるものでもない。

――誰かの幸せを願う気持ち。その延長線にあるもの。

「これから、何が起きるの……?」

麻衣が問いかけると、茜が言った。

「共鳴の波はもう止められない。だけど、“中心”を保てる人がいれば、暴走を抑えることもできる。……田仲さん、あなたにお願いしたいの。“希望の核”として、スキルの未来を共に選んでほしい」

麻衣は、深く息を吸い込んだ。

彼女の中に、迷いはなかった。

「わかりました。私にできることがあるなら、やります」

次の瞬間、会議室の空間にざわりと冷たい空気が流れた。

岡部がスマホを見て、顔をしかめる。

「チッ、来やがったか」

茜も顔を引き締めた。

「“反転者”の気配です。接近しています。皆さん、準備を」

そして、また物語が動き出す――
今度は、麻衣自身の選択で。

―――――
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