『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ

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6章 記録の置き場と、風の契り(未契約)

第53話 風棚の点検、石羽の警鐘を撫で消す

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 北端の丘を越えると、斜面に棚板のような岩段が幾重にも張り出していた。
 風は層になって流れ、陽が斜めに射すと、空気の筋が白く見える。ここが風棚(かぜだな)。鈴は疎いが、風の層そのものが“読みに来る”。

《行程ログ:外縁北端—風棚 進入》
《搬送:片翼(本片)/返鈴綾=冷・張力 良》
《点検目的:返鈴綾の摩耗確認/片翼給気の同調度 再整》

「まず“片翼点検」。綾に冷却を一滴、座は“横受け”」
 セリューナが返鈴冷却油を綾の結び目へ指先で落とす。
 ロゥナが棚板の縁に横受け座を二枚、互い違いに滑らせた。

 俺は封球の縁に掌を置き、胸で三吸二吐。帯の奥で返鈴綾を軽く引く。
 空鈴の洞から無音の給気が細く通り、片翼の拍が一段沈んで戻る。

《点検:返鈴綾—温度 安定/同調=高》
《片翼:搬送揺れ=小/外拍=高安定》

 その時、上段の影でからんと乾いた響き。
 羽根のように薄い石片が束になって舞い下り、棚の端に散った。――石羽(いしば)。
 踏み損ねると互いに触れ合って警鐘のように鳴る、風棚の“罠”。

「鳴らさない。撫でで消す」
 セリューナが薄い水の皮を棚の縁に走らせ、接触音の立つ角を丸める。
 ロゥナが横受け座を半足広げ、石羽の束だけ沈めた。
 俺は偽車輪を半拍空転、撥を空振りで一度だけ置いて“間”を作る。
 石羽は擦れられず、沈黙のまま崩れた。

《石羽:接触減衰→鳴動回避/風棚 侵擾=低》

 上段から、今度は白い糸影が一本ずつ垂れた。
 糸の先に小さな紙滴――風の層を測る“滴(しずく)帳”。滴が肩の荷の輪郭をなぞれば、上の“紙見”に形が上がる。

「滴は流す」
 俺は帯の内で風返しの綾を一撫で、セリューナが水のひげで滴の腹を滑らせる。
 ロゥナが座を薄く撓ませ、滴の落ち口をずらす。
 紙滴は棚の外へ流れ落ち、上の糸影は空を汲んだ。

《滴帳:形写し 失敗/紙見の確度=低下》

          ◇

 風棚の中段に、風の層が一段硬くなる“狭溝”があった。
 棚板と棚板の隙間で、風が圧(お)してくる場所。ここで足を誤ると、拍が膨らみ、風に“読まれる”。

「“三撫”で通す。綾一、空転一、締めに道鈴A—触れず撫で」
 セリューナの合図。
 俺は綾を一撫で、偽車輪を半拍空転、衣の内で道鈴Aの腹をそっと撫でる。
 ロゥナが横受け座を前後反転で入れ替え、圧の角を丸くした。

 風は通り、拍は揺れない。
 狭溝の出口で、棚板の影から墨の紋が一つ、にじむように出た。
 輪ではない。――差分鍵。二核を前提に“軽さ”を補正してくる書式だ。

「差分には余白」
 俺は返鈴綾を一拍だけ緩め、空鈴の給気を半歩薄くする。
 セリューナが帯を浅く撫で、ロゥナが受け座を横へ一枚張る。
 鍵は“基準”を失い、墨の紋は自分の影へ沈んだ。

《差分鍵:基準喪失→無効》

          ◇

 中段を抜け、西曲りの縁が見えた。
 回廊の白帯はここで外れ、風棚の端から石混じりの草尾根へ移る。鈴はさらに疎い。
 だが、曲り角の上空に、骨だけの紙凧枠が斜めに一枚。“音のない”帯で形を読む気だ。

「片翼で迷わせる」
 セリューナが帯へ合図。
 俺は返鈴綾を微かに引き、空鈴からの息を片翼の拍へ遅らせて入れる。
 偽車輪の撥を前半にだけ置き、ロゥナが横受け座を斜に差す。
 骨枠は“足りない重さ”を捉え切れず、形の確度が落ちた。

《片翼効果:形写し 鈍化/凧枠=確度 低下》

 曲り角の外で、突如石口笛が三つ、風を噛んだ。
 自然の穴が同調すると、風棚全体に“笛の線”が走る――鳴らせば負けだ。

「笛は鳴らす前に“撫で”で折る」
 セリューナが綾で逆相を薄く流し、俺は道鈴Aを触れず撫でで締める。
 ロゥナが笛穴の肩に小さな緩座を差し、風の当たりを逃がす。
 笛線は折れ、鳴らずに消えた。

《石口笛:逆相+緩座=無音化》

          ◇

 西曲りを過ぎると、風は少し乾き、視界が開けた。
 低い草尾根の向こうに、薄茶の平地が広がり、遠くで風砂が白い糸になって走る。外回廊の離脱帯だ。

《離脱:外回廊→風砂帯(疎鈴)/追跡=極低》
《片翼:外拍=高安定/返鈴綾=冷》

 肩の力を一つ抜いたところで、棚の陰から土色の外套の守が現れ、空の匂いを嗅いだ。
 手には胴のない空鈴枠。仮面はない。

「鳴らすな。――走り切れ」
 短い言葉だけ置いて、枠の背を撫で、風に混じって消える。
 忠告か、約束か。どちらでも、道は同じだ。

「片翼、良好。――明日、風砂帯を縫って“北外縁の出合”へ」
 セリューナがまとめ、ロゥナが横受け座を回収する。

 封球の二核は片翼になっても外拍にぴたりと合い、返鈴綾は細く冷たく通っている。
 空鈴の洞から届く無音の息は、走るためだけの軽さを支えた。

《旅路ログ:風棚—片翼点検・石羽処理/西曲り—無鳴通過》
《追跡:紙見=遠在/写し屋=痕跡薄》
《次行程:風砂帯→北外縁の出合→“空鈴”再確認(遠撫)》

「行こう。笛に鳴らさず、棚に触れず。撫でて抜ける」
 風が裾を一度持ち上げ、前へ押す。
 俺は道鈴Aの腹を衣の内で一度だけ撫で、三吸二吐の拍を整えた。
 ――まだ契らない風が、約束の軽さで背を押してくれる。

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