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7章 空鈴の夜置きと、復翼の走法
第61話 風見棚道、薄幕の肩で背撫の誓い
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草の海を渡る白帯――風見棚道は、杭と薄幕が交互に続く静かな回廊だった。
杭頭の目印は色を持たず、薄幕は風だけを通し、音はどこにも立たない。復翼の拍は暁走位相で落ち着き、胸の裏では返鈴綾が“薄通し”のまま細く往復している。
《行程ログ:風見棚道—進入》
《搬送:復翼(二核)=同期 高/返鈴綾=薄通し(待機)》
《照合様式:風見杭=撫接続/薄幕=背撫(非接触)》
「ここは“背で通す”帯。――三撫の締めは、必ず背」
セリューナが帯の合いを一段沈め、ロゥナは杭間の草地に横受け座を点で散らす。
最初の杭列。
俺は衣の内で道鈴Aを触れず撫で、杭の背へ指先だけ寄せて離す。
杭は鳴らない。ただ、層の内側で吸って戻る気配。
続く薄幕の縁を、セリューナが背で一撫で。音は起きず、復翼の拍が半目盛だけ軽く起きた。
《照合:背撫 通過/復翼=安定+微起こし》
◇
二つ目の杭列に差しかかったとき、草の陰で白い綿がふっと立った。
微細な鏡片を含む綿砂(わたすな)。風に舞いながら、歩幅の端を“柔らかく”写しに来る。
「柔らかい写しは、柔らかく外す」
俺は偽車輪の撥を空振りで前半に置き、セリューナが綿砂へ薄水を霧にして散らす。
ロゥナが横受け座を斜に差し、落ち口の“確かさ”を半拍遅らせた。
綿砂は行末を見失い、薄幕の風にほどけて消えた。
《綿砂:粒度崩壊→写し不能》
その裏で、杭の影から黒い糸が一本、ぬるりと伸びる。
夜仕様の影鍵鈴が“通過印”を盗ろうと、復翼の“余白”に舌を入れてきた。
「余白には、余白で返す」
俺は胸の拍を一拍だけ白く緩め、返鈴綾を半拍遅らせる。
セリューナが帯で逆相を糸の根へ送り、ロゥナが座の角を丸めて噛み口をずらす。
糸は行き場をなくし、杭の影へ沈んだ。
《影鍵鈴:押印 失敗/残留=無》
◇
棚道の中ほどで、上空に骨だけの凧枠が三枚、低い角度で斜め重なりになった。
“音のない総撫査”――形だけで街道の拍を均すやり方だ。
「四撫で余白過剰を作る。――綾→空転→撫照合→横受け反転」
セリューナの囁きに合わせ、俺は綾を一撫で、偽車輪を半拍空転、道鈴Aを触れず撫で。
ロゥナが前→後の横受け反転を一拍で差し替える。
凧枠は“足りない重さ”と“余白”で計算が揺れ、確度が落ちた。
《骨凧:形写し 確度 低下→観測のみ》
風が入れ替わり、薄幕の端から薄灰の帳片が二枚、蝶のように降りた。
腹で鈴幕の端を押し、歩幅に“止め”を入れてくる押し帳。
「止めは、止まらず外す」
俺は呼吸を二吸一吐に一拍だけ落として間を作り、偽車輪の撥を空振りで置く。
セリューナが帯へ逆相を薄く乗せ、ロゥナが横受け座を前→後へ滑らせる。
押し帳は噛み損ね、薄幕の流れに吸われて遠ざかった。
《押し帳:押止 失敗→消散》
◇
やがて前方の白帯が緩やかに肩上がりになり、薄幕と杭の密度がほどけてゆく。
風が谷へ落ち、草の匂いが濃くなる――ここが薄幕の肩。
《行程ログ:薄幕の肩—到達》
《環境:鈴=疎/風=層浅/視撫査=微》
肩の縁に、低い石と枯れ木で囲った小さな風壇があった。
壇の中央に古い空鈴枠が横たえられ、背に指の跡が幾筋も刻まれている。鳴らない器の、背だけを撫でた跡。
「ここで“背撫の誓い”を一度。――置く時も、返す時も、背で」
セリューナが空鈴枠を持ち上げ、背をこちらへ向ける。
俺は封球の縁に掌を置き、二核の拍を暁走位相のまま沈めて戻す**。
ロゥナが壇縁に点座を六つ、星座のように並べて撫でた。
《儀:背撫の誓い—薄誓(非刻)/方式=撫照合・非転記》
「手順、三。
一、空鈴枠の背を三吸二吐で撫でる。
二、返鈴綾を半拍遅らせ、“返し筋”に白を置く。
三、道鈴Aは触れず、層に“位置だけ”通して切る」
俺は順に行い、最後の切りで息を一段落とす。
風壇の内側で無音の息が一つ、淡く明るくなって消えた。
――誓いは、通った。
《登録:薄幕の肩“風壇—背撫の誓い”=完了/本文 非転記/返し筋=維持》
◇
肩を離れる前、草陰で灰の外衣が一人、こちらを見ずに空鈴の背を撫でた。仮面はない。
低い声で、短く。
「背で撫でたなら、背で戻れ」
それだけ残し、風に紛れて消える。忠告とも、確認ともつかぬ調子。
「戻る筋は白で置いた。――走る」
セリューナが帯の結びを整え、ロゥナが横受け座を回収する。
《復翼:二核 同期=高/返鈴綾=薄通し(待機)》
《次行程:肩下り→“北外縁の草梁”→石と草の混在帯/第62話》
封球に掌を当てる。揺れない。
風は裾を一度だけ持ち上げ、肩の先へ押してくれた。
――暁は、背で。
返す時も、背で。
セフィアの調子が胸に触れて離れる。
鳴らさず、触れず、撫でて。
俺たちは薄幕の肩を下り、草梁へ向けて歩幅を三・二・四・二に揃えた。
杭頭の目印は色を持たず、薄幕は風だけを通し、音はどこにも立たない。復翼の拍は暁走位相で落ち着き、胸の裏では返鈴綾が“薄通し”のまま細く往復している。
《行程ログ:風見棚道—進入》
《搬送:復翼(二核)=同期 高/返鈴綾=薄通し(待機)》
《照合様式:風見杭=撫接続/薄幕=背撫(非接触)》
「ここは“背で通す”帯。――三撫の締めは、必ず背」
セリューナが帯の合いを一段沈め、ロゥナは杭間の草地に横受け座を点で散らす。
最初の杭列。
俺は衣の内で道鈴Aを触れず撫で、杭の背へ指先だけ寄せて離す。
杭は鳴らない。ただ、層の内側で吸って戻る気配。
続く薄幕の縁を、セリューナが背で一撫で。音は起きず、復翼の拍が半目盛だけ軽く起きた。
《照合:背撫 通過/復翼=安定+微起こし》
◇
二つ目の杭列に差しかかったとき、草の陰で白い綿がふっと立った。
微細な鏡片を含む綿砂(わたすな)。風に舞いながら、歩幅の端を“柔らかく”写しに来る。
「柔らかい写しは、柔らかく外す」
俺は偽車輪の撥を空振りで前半に置き、セリューナが綿砂へ薄水を霧にして散らす。
ロゥナが横受け座を斜に差し、落ち口の“確かさ”を半拍遅らせた。
綿砂は行末を見失い、薄幕の風にほどけて消えた。
《綿砂:粒度崩壊→写し不能》
その裏で、杭の影から黒い糸が一本、ぬるりと伸びる。
夜仕様の影鍵鈴が“通過印”を盗ろうと、復翼の“余白”に舌を入れてきた。
「余白には、余白で返す」
俺は胸の拍を一拍だけ白く緩め、返鈴綾を半拍遅らせる。
セリューナが帯で逆相を糸の根へ送り、ロゥナが座の角を丸めて噛み口をずらす。
糸は行き場をなくし、杭の影へ沈んだ。
《影鍵鈴:押印 失敗/残留=無》
◇
棚道の中ほどで、上空に骨だけの凧枠が三枚、低い角度で斜め重なりになった。
“音のない総撫査”――形だけで街道の拍を均すやり方だ。
「四撫で余白過剰を作る。――綾→空転→撫照合→横受け反転」
セリューナの囁きに合わせ、俺は綾を一撫で、偽車輪を半拍空転、道鈴Aを触れず撫で。
ロゥナが前→後の横受け反転を一拍で差し替える。
凧枠は“足りない重さ”と“余白”で計算が揺れ、確度が落ちた。
《骨凧:形写し 確度 低下→観測のみ》
風が入れ替わり、薄幕の端から薄灰の帳片が二枚、蝶のように降りた。
腹で鈴幕の端を押し、歩幅に“止め”を入れてくる押し帳。
「止めは、止まらず外す」
俺は呼吸を二吸一吐に一拍だけ落として間を作り、偽車輪の撥を空振りで置く。
セリューナが帯へ逆相を薄く乗せ、ロゥナが横受け座を前→後へ滑らせる。
押し帳は噛み損ね、薄幕の流れに吸われて遠ざかった。
《押し帳:押止 失敗→消散》
◇
やがて前方の白帯が緩やかに肩上がりになり、薄幕と杭の密度がほどけてゆく。
風が谷へ落ち、草の匂いが濃くなる――ここが薄幕の肩。
《行程ログ:薄幕の肩—到達》
《環境:鈴=疎/風=層浅/視撫査=微》
肩の縁に、低い石と枯れ木で囲った小さな風壇があった。
壇の中央に古い空鈴枠が横たえられ、背に指の跡が幾筋も刻まれている。鳴らない器の、背だけを撫でた跡。
「ここで“背撫の誓い”を一度。――置く時も、返す時も、背で」
セリューナが空鈴枠を持ち上げ、背をこちらへ向ける。
俺は封球の縁に掌を置き、二核の拍を暁走位相のまま沈めて戻す**。
ロゥナが壇縁に点座を六つ、星座のように並べて撫でた。
《儀:背撫の誓い—薄誓(非刻)/方式=撫照合・非転記》
「手順、三。
一、空鈴枠の背を三吸二吐で撫でる。
二、返鈴綾を半拍遅らせ、“返し筋”に白を置く。
三、道鈴Aは触れず、層に“位置だけ”通して切る」
俺は順に行い、最後の切りで息を一段落とす。
風壇の内側で無音の息が一つ、淡く明るくなって消えた。
――誓いは、通った。
《登録:薄幕の肩“風壇—背撫の誓い”=完了/本文 非転記/返し筋=維持》
◇
肩を離れる前、草陰で灰の外衣が一人、こちらを見ずに空鈴の背を撫でた。仮面はない。
低い声で、短く。
「背で撫でたなら、背で戻れ」
それだけ残し、風に紛れて消える。忠告とも、確認ともつかぬ調子。
「戻る筋は白で置いた。――走る」
セリューナが帯の結びを整え、ロゥナが横受け座を回収する。
《復翼:二核 同期=高/返鈴綾=薄通し(待機)》
《次行程:肩下り→“北外縁の草梁”→石と草の混在帯/第62話》
封球に掌を当てる。揺れない。
風は裾を一度だけ持ち上げ、肩の先へ押してくれた。
――暁は、背で。
返す時も、背で。
セフィアの調子が胸に触れて離れる。
鳴らさず、触れず、撫でて。
俺たちは薄幕の肩を下り、草梁へ向けて歩幅を三・二・四・二に揃えた。
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