『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ

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3章「精霊の記憶と、禁忌の残響」

第14話「風の大地と、精霊の故郷」

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「……これが、リュース高原……!」

 俺たちは、丘の上から吹き抜ける風に包まれていた。

 目の前には、どこまでも続く緑の草原。起伏のある丘陵と、風に揺れる銀色の草花。そしてその奥に、風車のような形をした古代遺跡群が点在していた。

 風精霊セフィアが、小さな羽根を揺らしながら、懐かしそうに空を見上げる。

「うん、間違いない。ここがあたしの記憶にある“風の故郷”――リュース高原だよ」

 旅を重ねて数週間。セリューナ(水の精霊)と仮契約を結び、土の精霊ロゥナとの出会いを経て……俺たちは精霊たちの過去と、この世界の真実に近づきつつあった。

「ここにも、精霊の神殿があるんだよね?」

 フェリスがマントを押さえながら、風に耐えて俺に問いかけてくる。

「ああ。セフィアの話だと、神殿は高原の“風の柱”って呼ばれる岩塔群の中にあるはずだ」

 地図には記されていない。だが、俺の“スキル《地脈感知》”がかすかに異常な反応を捉えていた。

「この風、ただの自然の風じゃないわね。魔力を含んでる」

 セリューナが周囲を見回しながらそう言うと、セフィアがうんうんと頷いた。

「この辺り、風の魔力が強いの。だから、精霊の記憶が残りやすいんだよ」

 ――風に記憶が宿る。
 それはセフィアが初めて語った、風の精霊特有の特性だった。

 

 俺たちは、リュース高原の中央部へ向けて歩みを進めた。

 途中、放牧民のテントや簡素な交易所が点在しており、人々が風と共に生きている様子がよくわかる。

 だが、彼らはどこか落ち着かない様子で、俺たちに警戒するような視線を送っていた。

 

「なあ、なんか雰囲気変じゃないか?」

 フェリスが声を潜めて言った瞬間――

 空が、ざぁっと騒ぎ出した。

 風が渦を巻き、周囲の草花がばたばたと倒れる。

「なにっ!? 風の精霊の暴走!?」

「いや……これは、人工的に風魔力をかき乱してる気配だ」

 セリューナの声は冷静だったが、その表情は険しい。

「誰かが“風の流れ”を壊してる。……意図的に」

「……誰が、こんなことを?」

 そのとき、視界の先に黒い装束の男たちが現れた。

 風に乗って現れるように、音もなく高原の小道に降り立つ彼ら。

 手には杖と刃。胸元には“灰色の羽根”の紋章――

 

「“嵐祓い(ストーム・スレイヤー)”……!」

 セフィアが怒りを込めて呟いた。

「あいつら、あたしの故郷を……風の神殿を荒らした連中!」

「なるほどな。こいつらが“風の記憶”を消していた元凶ってわけか……!」

 俺はすぐさま武器を抜いた。

 スキル《戦技展開》を起動。
 風圧を読み、敵の動きを先読みする構えへ。

 セフィアが風をまとって俺の肩から飛び、セリューナは魔力を集中し始める。

「行くぞ――!」

「うん、風の故郷は……絶対に守る!」

 俺たちは、“風の記憶”を護るため、初めてのリュース高原の戦いに挑んだ――。

✳✳✳

 風がうねり、戦場と化した高原。

 灰色の装束を纏った“嵐祓い”の集団は、風魔術に特化した術式を次々と放ってくる。

 だが俺は、その流れを読んでいた。

「《風律解放・第二式》――《断風壁》!」

 敵の魔術を空間ごと断ち切るように、風を裂く防壁が出現する。

 セフィアの加護がある今、風属性に限っていえば、俺は彼らよりも一段上に立っている。

「ぐっ……!? あの男、風を操って……こちらの術が通じない!?」

「精霊使いか!? この地でそんな奴が――!」

 敵のうろたえに構わず、俺は距離を詰めた。

 風に乗って踏み込み、杖を構えた敵の一人に拳を叩き込む。

「ッらああっ!!」

 音を置き去りにする風撃。
 敵の男は吹き飛ばされ、地面に転がったまま気絶した。

 

 一方、後方ではフェリスとセリューナが連携していた。

「セリューナ! そっち任せた!」

「はい、《水槍連舞》――!」

 水の精霊術によって生まれた水槍が、複数の敵を足止めする。

 フェリスはその隙を突いて、二人をまとめて斬り伏せた。

「くっ……ここまでだ!」

 最後の一人が撤退の印を切り、魔法で霧を発生させて姿を消す。

 

 俺たちは勝利した――が、喜ぶにはまだ早い。

「この高原にまで、嵐祓いの手が回ってるなんて……」

 俺の横でセフィアが、小さく肩を震わせていた。

「セフィア……大丈夫か?」

 問いかけると、彼女は小さく頷き、それからぽつりと口を開いた。

「ねえ、レク。あたしね、ずっと思い出せない記憶があったの。リュース高原のこと、風の神殿のこと……全部、かすんでた」

「……封印されたのか?」

「うん。誰かが“風の記憶”に触れられないように、強制的に記憶を奪ったみたい。きっと嵐祓いが関係してる」

 

 セリューナが慎重に周囲を見渡しながら言う。

「精霊の神殿があるとされる“風の柱地帯”は、この先の風碑の先にあります。急ぎましょう」

 

 俺たちは再び歩を進めた。

 風碑――それは、高さ数メートルの白い石柱で、古代の風文字が刻まれていた。

 近づくと、風がまるで言葉のようにささやき始める。

『……記録……残響……眠りし記憶……』

「これ、風の記録……!」

 セフィアの瞳が大きく見開かれた。

 次の瞬間――

 風碑の光が、彼女の身体を包み込む。

「きゃっ……!」

「セフィア!?」

 俺が駆け寄るよりも早く、セフィアの意識は風に包まれ、浮かび上がった。

 風の光が彼女を包み、そして――過去の記憶が流れ込んでくる。

 

 ――風の大地、リュース高原。
 かつて、この地には精霊と人が共に暮らしていた。

 しかし、ある日、訪れた“選ばれし者”が、風の神殿の力を求めて禁忌を犯した。

 精霊たちは傷つき、記憶を封じた。

 “精霊戦争”と呼ばれる、古の争いの端緒だった――

 

「……あたし……見た。忘れてたはずの……あの人の顔……!」

 セフィアがゆっくりと着地し、涙を滲ませながらつぶやいた。

 

 彼女の記憶が、少しずつ戻り始めている。

 そして俺たちは、精霊と人間の過去の“歪み”の入口に、足を踏み入れようとしていた。

✳✳✳

 セフィアは、風碑から解放されたあともしばらく言葉を発さなかった。

 風が、そっと彼女の羽根を揺らす。

 彼女の中で、封じられていた記憶が少しずつ形を取り戻し、再び“痛み”として甦りつつあったのだろう。

「……昔ね、あたし、すごく仲のいい“ひと”がいたの」

 ぽつりと、彼女は呟いた。

「名前も顔も、まだはっきりとは思い出せない。でも……あの人は風の神殿に来て、精霊たちと一緒に笑ってた。――でも、急にいなくなったの」

「その人が、“選ばれし者”だったんじゃないか?」

 俺の問いかけに、セフィアは首を振った。

「違う……。少なくとも、“裏切るような人じゃなかった”。あのあと、誰かが神殿を……風の記憶を壊して……精霊たちを散り散りにした。あたしは逃げて、全部……忘れた」

 セリューナがそっと言葉を重ねた。

「記憶を封印することは、精霊にとって非常に重い決断です。よほどの心の傷がなければ、できない行為……」

 フェリスが険しい表情で周囲を見回す。

「それだけ、この地には何かがあるってことね」

 俺たちは気を引き締め、再び風柱の群れを越えて進んだ。

 

 やがて、岩でできた自然の迷路のような谷間に辿り着いた。

 風が唸るように渦巻き、空には奇妙な雲がかかっている。

 その中央――大地に突き刺さるようにしてそびえ立つ、一本の巨大な石柱。

「……あれが、“風の神殿の扉”だ」

 セフィアの言葉に、全員が息を呑んだ。

 高さ二十メートルを超えるその石柱には、無数の風文字が刻まれ、周囲に風精霊の気配が漂っている。

「この場所……完全に封じられてるわね」

 セリューナが額に手を当て、魔力を探る。

「結界が二重に張られてる。一つは古代のもの、もう一つは……新しい。誰かが後から封印を強化してるわ」

「嵐祓いの仕業かもしれないな」

 俺はそっと石柱に手を触れた。

 その瞬間、風が語りかけてきた。

 

――資格ナキ者、封印ニ近ヅクコトヲ禁ズ。

――精霊ノ証、記憶ヲ継グ者ノ声ヲ以ッテ、封印ヲ解クベシ。

 

「……“精霊の証”がなければ、扉は開かないってことか?」

 セフィアがうんと頷く。

「あたしの記憶が、全部戻ればきっと開くはず。でも、まだ足りない」

 風碑から得た記憶だけでは、不十分だ。

 ならば、次に必要なのは――

「この高原のどこかに、まだ“記憶の欠片”が眠ってるはずだ。探そう」

「はいっ!」

 セフィアは飛び立ち、空を舞いながら広範囲を見渡し始めた。

 俺たちは神殿の周囲を手分けして調査することにした。

 

 ――数時間後。

「レク! こっち、こっち!」

 風を切るように飛んできたセフィアが、丘の向こうを指差す。

「小さな石碑があったの。風碑じゃないけど……あたしの羽根が反応したの!」

 案内された場所には、苔むした低い岩があった。

 しかし、その表面には、かすかに“あの人”と呼ばれた人物の名前らしき痕跡がある。

「……ライア……?」

 俺が声に出した瞬間、セフィアがぴくりと震えた。

「……あっ……その名前……知ってる……! あの人の名前、ライアだった……!」

 風が強く吹き、セフィアの身体が光に包まれる。

 第二の記憶の封印が、解かれようとしていた――。

✳✳✳

 風が舞い、光が弾ける。

 セフィアの小さな身体が風に抱かれ、空中でくるくると回転する。

 まるで時を遡るように、羽根のひとつひとつが淡い光を帯びて、彼女の記憶を再構成していく――。

 

 ――昔々、まだ風の神殿に人間が自由に出入りできた時代。
 そこにひとりの青年がいた。

 名は、ライア。

 風を読む力に長け、精霊とも心を通わせる稀有な存在。

 そして何より、セフィアと――とても仲が良かった。

『ライアはね、いつもあたしに言ってたの。“風の声が聞こえるから、怖くない”って。どんなに強い嵐でも、風が友達だからって……』

 

 神殿の中で笑い合っていた二人の記憶が、次第に暗転していく。

 ――神託の間。

 突如として訪れた王都の使者と共に、風の神殿は“管理下”に置かれる。

 人間の都合で精霊の地が荒らされ、神殿の力を奪おうとする者たちが現れた。

 ライアは、それに抗おうとした。

 だが、裏切られた。

『……あたしは、ライアを守れなかった。あの時、もっと強く止めていれば……』

 記憶の終わりは、神殿の封印と同時に、セフィアが深い眠りについたところで途切れた。

 

 光が収まり、セフィアがふわりと地に降りる。

 目には涙が浮かび、だが、その顔には確かな“決意”が宿っていた。

「――思い出したよ。あたし、ここを守ってたんだ。風の神殿と、ライアの願いを」

 

 すると、先ほどまで反応のなかった神殿の石柱が、重々しく音を立て始める。

 風が収束し、封印がゆっくりとほどけていく。

「……開いた」

 俺たちは、ようやくその入り口に立った。

 

「この先が……神殿の本殿?」

「うん。きっと、“選ばれし者”が最後に残した記憶もある」

 俺はセリューナとフェリスに目配せし、全員で扉の中へと足を踏み入れた。

 

 内部は、風によって守られたままの神聖な空間だった。

 床には風文字の紋様が描かれ、中央には風晶石が浮かぶ祭壇がある。

 その周囲を囲むように、いくつもの記憶の石が配置されていた。

「……これが、“風の記録”か」

 セフィアが手を伸ばすと、石がひとつ光りを放ち、映像のように過去の情景が浮かび上がった。

 

 ――そこには、“選ばれし者”と呼ばれる男がいた。

 だが、彼の目は狂気に満ちていた。

『精霊の力……神の代行者としてふさわしいのは我だ! 風の理など、我が意志でねじ伏せる!』

 そう叫びながら、彼は風の祭壇に手を伸ばす。

 直後、神殿が崩壊し、セフィアたちが封印の中に取り残されていく様子が映る。

「……これが、あたしの知らなかった最後の記憶」

「選ばれし者が、精霊の力を……奪おうとした?」

 セリューナが厳しい顔で呟いた。

「もしかすると……今の“嵐祓い”たちは、その男の意志を継いでるのかもしれないわね」

 

 そのとき――

 神殿の奥、空気が急に張りつめた。

 警戒して進むと、そこには“風の試練場”と呼ばれる空間が広がっていた。

 風の刃が交錯し、神殿に訪れた者の力を試す場。

「ここを越えなければ、風の加護は完全には得られない」

 セフィアが告げた。

「やろう。ここまで来たんだ、全部受け止めて、前に進むしかない」

 

 俺たちは、風の試練に挑むため、再び武器を構えた。

✳✳✳

 風が唸る。

 神殿の奥に広がる試練の間――そこはまるで、風そのものが意思を持ち、侵入者を拒むような異空間だった。

 床はなく、足元には幾重にも重なる風の層が渦巻いている。
 一歩でも足を踏み外せば、風に飲まれ、奈落へと落ちていくだろう。

「“風の歩み”を知らねば、ここは渡れぬ――そういうことね」

 セリューナが呟きながら杖を構える。

 セフィアがレクの肩に乗りながら、説明を続けた。

「この空間は、“風の道”を感じ取って歩かないとダメ。でも、力だけじゃ突破できない。“共鳴”できるかどうかが試されるの」

「共鳴、ね……」

 俺は一歩踏み出し、風の波に身を預けた。

 途端に、足元の気流がふっと緩み、そこに“踏める道”が浮かび上がった。

「感じた……?」

「ああ、確かに、風の導きが……」

「よしっ、それが正解! レクならいけるよ!」

 セフィアの声に導かれるように、俺たちは“見えない橋”をひとつひとつ渡っていった。

 

 やがて、試練の空間の中央にたどり着く。

 そこには、巨大な“風晶の獣”が鎮座していた。

 姿は狼に似ているが、身体は透明な風で構成され、常にその輪郭が揺れている。

「“風守獣《ガルアヴィス》”……!」

 セフィアの声が震える。

「神殿の守護者だよ。本来は精霊を守る存在だった……でも、今は……」

 風守獣は、ゆっくりと目を開き、風の言葉を語り始めた。

 

――資格ナキ者に問う。汝は、風を理解するか。風を裏切らぬと、証明できるか。

 

「答えは、行動で示すしかないな」

 俺は剣を抜き、守獣の前に立った。

「セフィア、支援頼む」

「うん!」

 

 次の瞬間、ガルアヴィスが咆哮し、風の刃が縦横無尽に吹き荒れた。

 まさに暴風の嵐。一本の軌道すら見えない。

 だが、セフィアがその全てを読み解いていく。

「レク、右三歩先! そこ、安全!」

 彼女の指示に従い、俺は跳躍。風の壁をすり抜け、守獣の懐へ――!

 

「喰らえっ!」

 俺の斬撃が、風の核を打つ。だが――

 霧のように形を変え、再構築されていく風守獣。

「物理攻撃だけじゃ無理! 風との“共鳴”が足りない!」

 

 そのとき。

「じゃあ、共鳴しよう! あたしと、レクで!」

 セフィアの身体が強く光り、俺の背にぴたりと張り付く。

「風よ――彼に、力を!」

《スキル連携:精霊共鳴・風撃解放》

 風の加護が俺の全身を包み、剣に風属性の刃が宿る。

「うおおおおおっ!」

 再び跳躍、今度は回転する突風を纏いながら――真っ直ぐ風守獣の核へ。

 

 ――ズガァァン!

 空間が爆ぜるような轟音。

 守獣が吠え、そしてゆっくりと、風に溶けていった。

 

 静寂。

 風だけが、穏やかに神殿を撫でる。

「……やった、のか?」

 その問いに応じるように、神殿全体が薄らと輝きを放ち始めた。

 床に刻まれていた風文字が淡く光り、再び“守られた聖域”として息を吹き返していく。

 

 セフィアは、そっと俺の肩から離れて空へ舞い上がる。

「レク……ありがとう。あたし、ようやく思い出せた。ここは……私たち精霊の、故郷だった」

 

 風は、静かに語っていた。

 過去に失われたものと、今、繋がり直した絆を。

✳✳✳

 風の神殿は、再び“生きている”ようだった。

 空気は清らかで、風の流れは穏やかで柔らかく、さっきまでの戦闘の名残など微塵もない。

「すごい……これが、本来の風の神殿……」

 セリューナが思わず感嘆の声をもらした。
 床に刻まれた風の文様が脈動し、まるでこの場所自体が呼吸しているようだった。

 俺は剣を納め、振り返る。

 セフィアが、風晶の祭壇の前に立っていた。

 彼女の髪は光を帯び、まるで新たな存在として再誕したかのような雰囲気をまとっていた。

 

「これで……神殿は元に戻ったのか?」

「うん。まだ全部じゃないけど、風の理は少しずつ再構成されてる」

 セフィアはゆっくりと頷いた。

「だけど――それだけじゃダメなんだ。これから“私たち”が、風を守らないと」

「“私たち”?」

「うん。レクも……もう、ただの人間じゃないよ」

 

 その言葉と同時に、祭壇の風晶石が強く輝いた。

《ユニークスキル解放:風との共鳴・第一段階》

《新スキル獲得:「風律掌握《ウィンド・コントロール》」》

《スキル効果:周囲の風の流れを感知・操作する能力。精霊との連携時、威力上昇》

 

 俺の視界に、システムメッセージが次々と流れていく。

「……新スキル?」

「神殿を解放したことで、レクは風の理に触れた。あたしとの共鳴が深まったから、風の力の一部を使えるようになったんだよ」

 

 スキルログの中に、もうひとつ見慣れないメッセージが流れていた。

《スキル進化フラグ獲得:精霊との深度Lv.1 到達》

《一定条件下で、スキル進化「風律掌握・改」への派生が可能になります》

 

「……進化するスキル、か」

 俺は深く息を吐く。

 この力の意味を、まだ全部は理解していない。

 けれど、それでも――

「やれることがあるなら、やる。これが、精霊たちの願いと繋がる道なんだろ?」

 そう言った俺に、セフィアは嬉しそうに笑った。

「うん、やっぱりレクって、あの頃のライアに似てるかも。あたし、ちょっと期待しちゃうなぁ」

 

 そんな会話の最中、神殿の奥から再び風が吹いた。

 それは、精霊だけが感じる“呼び声”。

 セフィアの表情が引き締まる。

「……感じる。次の地が、目覚めようとしてる」

「次の地……?」

「“土の神殿”だよ。あたしの記憶によれば、あそこはもっと深く閉ざされてる。精霊戦争の“中心”に近い場所だし……」

 

 俺はふと、セリューナとフェリスに目を向けた。

 二人とも、もう腹は括っているような顔をしている。

 どんな困難が待ち受けていようと、進む覚悟ができていた。

「なら、向かうしかないな」

「うん。でも、その前に……」

 セフィアがそっと手を伸ばし、俺の額に触れる。

《精霊との契約深化:セフィア》

《信頼度+20/現在Lv:親密(高)》

《新たな選択肢:精霊の願い・派生ルート解放》

 

「レク……あたし、もう一度風を信じてみる。人と精霊が、ちゃんと向き合える世界を作るために」

「……ああ。俺も、信じるよ。風も、精霊も、そして――お前自身も」

 

 風がふわりと流れる。

 神殿を後にする俺たちを、まるで見送るような優しい風だった。

✳✳✳

 風の神殿を後にして、俺たちはリュース高原の尾根を南へと進んでいた。

 神殿の外に出ると、空はすっかり晴れていて、風は心なしか柔らかく――
 いや、確かに“歓迎されている”と感じる、そんな空気に包まれていた。

「セフィア、大丈夫か?」

「うん! 身体も軽いし、記憶もだいぶ繋がってきたよ」

 セフィアはにこにこと笑いながら、俺の肩に乗り直した。
 あの激戦を経て、彼女の瞳の奥には、今まで以上の覚悟と光が宿っているようだった。

 

 小高い丘に出たところで、俺たちは一度腰を下ろした。

 遠くには風の神殿の尖塔が、薄く霞んで見えている。

「これで、風の神殿の解放は完了……か」

「そうね」とセリューナ。「でも、これからが本番よ。次の神殿は“土”でしょ?」

「ああ。セフィアが言ってた。“精霊戦争の中心に近い場所”って」

「場所は……セフィア、分かる?」

「うん、たぶん……《ルグナ湿原》の奥、“石の断層地帯”にあると思う。あそこには、精霊の力が封じられた“石像の守り手”がいたはず……」

「石像の守り手……」

 その響きが、妙に胸に引っかかった。

 風の守獣・ガルアヴィスのような存在だろうか?
 それとも、もっと違う――“語りかけてくる何か”なのか。

 

 すると、突如として俺の視界に光が走った。

《特別クエスト発生:大地の目覚めと、試練の門》

《目的地:「ルグナ湿原」への進行が推奨されます》

《報酬:スキル進化素材・精霊覚醒アイテム・???》

 

「……またシステムか」

 セリューナが画面を覗き込む。

「スキル進化素材って、たぶんセフィアとの共鳴を強化するアイテムよね」

「そうっぽいな。にしても“???”ってのが気になる」

「えへへ、ワクワクしてきたね!」

 セフィアが嬉しそうに肩の上で跳ねた。

「次の場所もきっと、私たちのことを待ってるよ。レクなら、きっと乗り越えられる」

「頼もしいな、お姫様」

「だ、誰が姫よー!」

 そう言って、セフィアはくすぐったそうに笑う。
 その声が、風に乗って、高原に優しく響いていった。

 

 ――そうして、俺たちの次の目的地は決まった。

 《ルグナ湿原》。
 大地の精霊が眠るとされる、試練の地。

 そこには新たな出会いと、封じられた記憶。
 そして――“もうひとつの真実”が待ち受けている。

 

 さあ、行こう。

 この世界のすべてを知るために。
 精霊たちと共に、未来へと歩むために。

 

 風が吹く。

 俺たちの旅路を、静かに、そして確かに、後押しするように――。

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