転生実況はじまりました ～異世界でも仲間と一緒に～

第5章《新たな目覚め》

目が覚めると、
KILOは見慣れない緑の森の中に倒れていた。
頭の奥で鈍い痛みが続き、
周囲の静けさが妙に耳に残る。
濃密な緑の香りと、
高く伸びた木々の間から差し込む木漏れ日。
現実から切り離された風景を目にして、
彼は深く息を吐きながら空を仰いだ。
二つの太陽が天上でじんわりと輝いている。

KILO
「……これが、本当に異世界か。」

疑念とも感嘆ともつかない声を漏らしながら、
彼は重い体をゆっくりと起こした。
頭が冴えていくにつれ、
白い空間で出会った神、
転生の瞬間、そして異世界
「アレクトノス」への旅立ちが朧げに蘇る。

KILO
「状況確認から始めるか……
何もない、なんてことはないだろ。」

周囲を見回すと、木々が幾重にも生い茂り、
その向こうに視界が遮られている。
聞こえるのは鳥の鳴き声と風が揺らす葉の音だけ。
彼はポケットを探り、
小さな石ころが一つだけあることを確認した。

KILO
「……これだけとは。
いや、せっかくだから試してみるか。」

冗談交じりに石に向かって鑑定スキルを発動する。

――――――――――――――――――
【鑑定結果】
普通の石
分類: 無機物
効果: 特になし。投擲用として使える程度。
――――――――――――――――――

KILO
「はい、役立たずっと。まあ期待してないけど。」

石をポケットに戻しながら、少し苛立ちを覚える。
それでも手がかりを探さないわけにはいかない。
彼は足元の湿った土を踏みしめ、慎重に歩き出した。

森の奥へ進むと、
次第に耳に静かな水音が届き始めた。
その音に導かれ進むと、
澄んだ小川が緩やかに流れる場所に出た。
水を掬い上げてみると、冷たくて心地よい。
KILOは喉の渇きを癒しつつ、
改めて周囲を観察する。

水辺の植物の中に、鮮やかな青い花が目に留まった。
陽の光を浴びて青く輝くその花は、
この世界独特の何かを感じさせる。

KILO
「普通じゃなさそうだな……鑑定してみるか。」

――――――――――――――――――
【鑑定結果】
名称: ルフルの花
分類: 草木
効果: 解毒剤の材料として使える。
乾燥させて粉末にすると効果を発揮。
備考: 保存性が高く、高価で取引されることが多い。
――――――――――――――――――

KILO
「解毒剤か。いざって時には役立ちそうだな。」

慎重に花を摘み取り、
小石と同じくポケットにしまう。
生きるためには、この世界のものを
最大限活用しなければならない。
改めて空を見上げると、
木々の隙間から二つの太陽が輝いている。

さらに森を進むうち、
奥に開けた場所が見えてきた。
抜けるように続く道、
その先に立ち昇る薄い煙――人の気配だ。
KILOは足を止め、しばらく観察する。

KILO
「煙……キャンプ？いや、集落か。」

人間かどうかも分からない相手を前に警戒するが、
ここで後退するわけにはいかない。
村らしき場所への道を、慎重に進むことを選ぶ。

木造の建物がいくつか見え、
周囲には小規模な畑が広がっていた。
日常の喧騒を感じさせる風景に、
KILOは内心で少しだけ緊張を和らげる。

KILO
「住人……普通の村人だろうか。」

入り口まで来た彼は深呼吸をして、
なるべく穏やかな顔で声をかけた。

KILO
「すみません。誰かいませんか？」

数人の村人が手を止め、こちらを向く。
作業着姿の彼らは明らかにKILOの服装に注目し、
不思議そうな視線を投げかけてきた。

一人の年配の男性が前に出てくる。

村人
「どうした。迷い人か？」

KILO
「ああ。森で目が覚めて、
ここがどこなのかも分からないんだ。」

村人は首をひねりつつも穏やかな声で尋ねる。

村人
「迷い人とは珍しいな。
まあ、詳しい話を聞こうじゃないか。」

手招きする村人に従い、彼は村の中へと進んだ。

村人に案内された木造の家は、
どこか懐かしさを感じさせる素朴な造りだった。
木製の家具が並び、
壁には乾燥した薬草が吊るされている。
香ばしい植物の匂いが漂う中、
KILOは椅子を勧められ、そこに腰を下ろした。

村人は湯気の立つ木製のカップを差し出す。

村人
「ここに来た以上、腹が減ってるだろう。
これでも飲んで、落ち着きな。」

KILO
「ありがとうございます。」

KILOは手に取ったカップの中身を軽く嗅いでみた。
薬草を煮出したような独特の香りがする液体だが、
特に毒性は感じられない。少し飲んでみると、
口に広がるのは
ほんのり甘みのある柔らかな味だった。

村人は対面の椅子に腰掛け、顎に手を当てる。

村人
「さて、改めてだが……
お前さん、一体どこから来た？」

KILOは少し考え込みながら、
森の中で目覚めた事実を正直に伝えた。

KILO
「自分でも、どこからか正確には分からない。
ただ気がついたら、あの森に倒れていました。」

村人
「そうか……最近、迷い人の話は
ちょこちょこ聞くようになった。
特にその格好――随分変わった服装だな。」

KILOはちらりと自分の服を見下ろす。
普段着の現代風スタイルは、
この村の衣服とは明らかに異質だ。
返す言葉に困りつつも、話を聞く姿勢を示す。

KILO
「この場所について教えてもらってもいいですか？
 たとえば、この村がどこに位置しているのか。」

村人は小さく頷き、語り始める。

村人
「ここは『スプレンディル村』だ。
この大陸ではいくつかの国家が競い合っていて、
俺たちは『ラクリスタ王国』の
西端にある小さな村だよ。」

ラクリスタ王国。
KILOは新たな単語を頭に刻み込む。

KILO
「競い合っている、というと？」

村人
「この辺りはそうでもないが、
中央の帝国あたりと小競り合いが
起きてると聞いたことがある。
まぁ、俺たち農民にはあんまり関係ねぇ話だ。」

農村らしい考え方だな、とKILOは内心納得する。

村人
「お前さんも長くここに居座るつもりなら、
『ハンター』ってやつになった方がいい。
モンスターを狩ったり、
素材を集めたりして稼ぐのが普通の手だ。」

KILO
「ハンター……なるほど、
それがこの世界の職業というわけですか。」

村人
「そうだな。ただ、都会に行くと
闇ギルドや錬金術ギルドなんてのもあるそうだ。
俺にはさっぱり分からん世界だけどな。」

KILOはさらに数個の質問を投げかけ、
村人から簡単な回答を引き出していった。
ラクリスタ王国の広大な領土、各都市を結ぶ商隊、
そして周辺に生息する主なモンスター情報。
全てが今後の冒険に役立つ内容だ。

会話が一区切りした後、
KILOの中で好奇心がふと芽生えた。

KILO
「……試してみるか。」

目の前の村人に、鑑定スキルを使うことを決断する。
内心では少し罪悪感を覚えたが、
スキルがどこまで通用するか
試してみる必要があった。

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【鑑定結果】
名前: オース老人
種族: ヒューマン
職業: 農民
年齢: 58歳
健康状態: 軽度の腰痛あり
スキル: 園芸Lv.2（E級）、薬草知識Lv.1（E級）
――――――――――――――――――

KILO
「……なるほど。」

老人の健康状態や所持スキル、
そして「ヒューマン」という
種族表示まで分かる情報に、
KILOは少し驚きを隠せなかった。
だが、何も言わずに鑑定を終わらせる。
情報を扱うことで住人の信頼を損ねてはいけない、
と自分に言い聞かせた。

村を出る前、ふと思いついて彼は呟いた。

KILO
「……ステータスオープン。」

目の前に半透明のパネルが広がり、
自分自身の情報が浮かび上がる。

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【ステータス】
名前: KILO
種族: ？？？
職業: 無職
レベル:Lv: 1
称号: 異世界人

【スキル一覧】
E級: 投擲入門Lv.1、体力強化Lv.1
S級: 鑑定Lv.1
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KILO
「無職に異世界迷い人。
なんともまぁ、しょぼいな。」

だが、確実に新たなスタート地点に立っている。
そのことを思いながら、KILOは道を選び直した。

この世界を生き抜くには、情報と経験が不可欠だ。
それを自分自身で証明するために、
彼は新たな一歩を踏み出す。