転生実況はじまりました ~異世界でも仲間と一緒に~

緋月よる

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第4章《新しい仲間?》

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するめんは初めての戦いを終えた余韻の中、
草原をひとり歩いていた。
ポケットにはいくつかの小石、
近くで跳ね回るスライムの姿に
少しだけ安心感を覚える。

するめん
「ふぅ……これでやっと一息つけるね」

広大な草原には鳥のさえずりが響き、
風が心地よく体を包む。
それでも、仲間と離れ離れのまま
この世界で一人生き抜くという現実は、
気の休まるものではなかった。

するめん
「……ねえ、スライムさん」
「もしかして、あんたも一緒にいたいってこと?」

スライムは跳ねながら
小さく傾き、無邪気に近寄ってきた。
するめんは、そんな動きを見て小さく苦笑する。

するめん
「お返事してくれるわけじゃないけど……
なんとなくわかる気がするよ」

彼女がこのスライムと戦闘で
手を取り合ったときから、
心のどこかで“仲間”として
意識していることに気づいていた。
もう少し時間が経てば、
今のこの状況も悪くないと思えてくるかもしれない。

ふと空を見上げると、
二つの太陽が白々と輝いていた。
その光景に思わず立ち止まり、しばらく見入る。

するめん
「きれいだよね……
こういうの、地球では見られなかったな」

ぼんやりとした独り言に
スライムが返事をするように跳ねた。
その仕草があまりに可愛らしくて、
自然と笑みがこぼれる。

するめん
「……ありがとうね。なんか、気が紛れるよ」

ふとした温かな時間が流れる中、
遠くからかすかな影が見えた。

その影は、どうやら小さな馬車のようだった。
進んでいくと、荷物を乗せた
木製の馬車を必死に引いている男が見える。
男の横には穏やかそうな女性が立ち、
彼の手を支えている。

するめんは、
彼らがこの世界の住民だとすぐに気づいた。
服装からして冒険者ではなく、
むしろ旅人や商人のように見える。

男性
「うっ……ちくしょう、
ここで馬がダメになるとは……!」

女性
「落ち着いて。少し休めば動けるかもしれないわ」

二人の会話から察するに、
馬車を引いていた動力――
馬が調子を崩してしまったようだった。
するめんは草むらから慎重に様子を伺い、
彼らに声をかけるべきかどうか迷っていた。

するめん
(……どうしよう。知らない人だけど、
見捨てていいわけじゃないよね)

スライムが少し前に出て、
不思議そうに首を傾げたように見える。

するめん
「ん……もしかして、行けってこと?」

返事があるわけではないが、
スライムの動きを見て決心した。
草むらをかき分けて二人の前に現れると、
男が驚いたようにこちらを睨む。

男性
「誰だ……!」

するめんは手を上げて、できるだけ穏やかに応える。

するめん
「……えっと、危害を加える気はないから大丈夫。
私はただ、散歩してたっていうか……
通りすがりです!」

女性は警戒しながらも、
何か事情を察したように夫へ声をかけた。

女性
「待って。この人、本当に悪い人ではなさそうよ」

男性
「このタイミングでこんな辺境に
一人でいるなんて……怪しすぎるだろ!」

するめんは引きつりそうになる表情を
なんとか抑えつつ、
できる限り友好的に接する方法を模索した。
下手な言葉を重ねるより、
彼らの困っている状況に触れるのが早い
――そう考えた。

するめん
「その……馬、調子が悪いみたいだね。
もしかして、手伝えることあるかな?」

男性は怪訝そうな顔をしながらも、
妻が穏やかな表情で促した。

女性
「……助けてくれるなら、とてもありがたいわ」

男性
「おい、リリア!」

女性――リリアは夫に
優しく微笑みかけると、小さな声で呟いた。

リリア
「少しでも力になってもらえれば、それで十分よ」

するめんは、少しだけ肩の力を抜き、馬の方へ近寄る。
この馬がどんな状態なのかを
「鑑定スキル」で調べてみることにした。

するめん
「えっと……“鑑定”」

――――――――――――――――――
【鑑定結果】
荷馬
分類: 家畜種
状態: 疲労困憊、軽度の脱水症状。
特性: 安静にして十分な水分と餌を
摂取すれば回復の見込みあり。
――――――――――――――――――

するめん
「うん……疲れてるみたいだね。
それと、少し喉が乾いてるみたい」

男性は少し険しい表情を浮かべたままだが、
リリアの方は感心したように目を丸くした。

リリア
「すごい……見ただけでそんなことが分かるの?」

するめん
「……まぁ、なんていうか、
ちょっと便利な技が使えるだけです」

バレないように答えたが、
内心ではこの“鑑定スキル”の便利さに
改めて感謝していた。

するめんが助力を申し出たことで、
二人との距離が少し縮まった。
馬車の脇に腰を下ろし、
彼らと簡単に会話を交わし始める。

リリア
「こんな遠い草原で会うなんて奇遇ね。
あなたも旅をしているの?」

するめん
「え、えっと……
まぁ、そんな感じかな。迷い込んだっていうか」

男性
「迷い込んだ……か。
そんなんで生き延びられるのかよ、この世界を」

するめん
「そ、それは……」

返答に詰まったするめんの言葉を救うように、
スライムがぴょんと跳ねる。

リリア
「このスライム、もしかして君の“連れ”かしら?」

するめん
「うん。最初は偶然出会っただけなんだけど……」
「今は、まぁ、一緒に旅をしてるみたいな?」

リリアはスライムに向けて柔らかく微笑みかけた。

リリア
「可愛らしいわね……なんだか頼もしい気がするわ」

男性は少し呆れたように肩をすくめながらも、
頷くように同意する。

男性
「……確かに、
この辺の獣を威嚇するくらいには役立ちそうだな」

そうして互いに会話を交わしているうちに、
少しずつ緊張感が解けていくのを感じた。
するめんは、この偶然の出会いが新たな扉を
開くきっかけになり得るかもしれないと
思い始めていた――。

するめんは馬車のそばでリリアと話し込みながら、
少しずつこの世界のことについて聞き出していった。
リリアは夫――名前をガルフという――とともに、
旅の商人として各地を回っているのだという。

リリア
「私たちは、リリグという小さな村から出てきたの」
「道中でトラブルに遭うこともあるけれど……
それでもこの旅が好きなのよ」

するめん
「旅が好きって……すごいなぁ。
私なら毎日家にこもっちゃいそう」

リリアの柔らかな微笑みが、
するめんの緊張をほぐしていく。

リリア
「君もそのスライムと一緒に、
この世界を旅してるんでしょ? 
それはそれで勇気があると思うわ」

するめんは思わず照れたように笑い、
話題を変えるために少し声を弾ませた。

するめん
「……で、ここら辺ってどんな場所なの?
 まだ全然わからなくてさ」

ガルフは目を細め、少し考え込むように言った。

ガルフ
「この辺りは“草原地帯”と呼ばれる場所だ。
安全な場所といえば聞こえはいいが、
そんなに甘くはない。ウルフやゴブリンが
ちょくちょく出るんでな」

するめん
「ゴブリンって、
もしかして小っちゃくて緑色したやつ?」

ガルフ
「ああ、それだ。
初心者向けのモンスターって言われてるが……
油断してると簡単にやられるぞ」

彼の警告を聞きながら、
するめんの頭には転生直後に遭遇した
グレイウルフの姿がよぎった。改めて、
この世界が危険に満ちていることを実感する。

馬の休養が進む間、
リリアは荷車の中から
いくつかの食べ物を取り出し、
するめんに勧めてくれた。
丸いパンと干し肉の組み合わせはシンプルだが、
腹持ちがよさそうだ。

リリア
「食べられる? お腹空いてるでしょ?」

するめん
「ありがとう……ちょっと遠慮なくもらっちゃうね」

パンを手に取り、一口齧る。
硬めのパンだったが、
味わい深さがしっかりと感じられる。
こんな簡素な食事でも、
するめんにとってはこの世界で
初めての「食事」だった。

スライムは足元でぴょんぴょんと跳ねている。
するめんは小さく笑って、
干し肉の小片をちぎって差し出した。

するめん
「スライムさんもお腹空いてるかな?」

リリアが不思議そうな顔で尋ねる。

リリア
「スライムって、食べ物を食べるのかしら?」

すると、スライムはするりと
肉片を飲み込むように体内へ吸収し、
少しだけ跳ねて喜びを表現したようだった。

するめん
「……なんか、満足してそうだね」

彼女がそう呟いた瞬間、
スライムの体がふわりと淡い光を放つ。

リリア
「な、なに!? どうしたの?」

驚きの中、するめんは慌てて鑑定スキルを使った。

――――――――――――――――――
【鑑定結果】
スライム
分類: スライム種
状態: 満腹。好意的な感情を持っている。
備考: 状況次第で進化やスキル習得の可能性あり。
――――――――――――――――――

するめん
「……これ、なんか凄いかも」

スライムが彼女との間に
深まる絆の兆しを示している――
その事実に気づき、
するめんは心が温かくなっていくのを感じた。

それからしばらくして、
休息を終えたガルフとリリアは
馬を連れて旅を再開する準備を始めた。
荷車にきちんと荷物を積み直し、
馬の具合を確認するガルフの表情は
少しだけ柔らかくなっている。

リリア
「君がいてくれたおかげで助かったわ。
本当にありがとうね」

するめんは慌てて手を振りながら答える。

するめん
「あ、いやいや! 私は何も大したことしてないよ。
むしろ、私の方が助けられたくらいだし」

リリアの温かな微笑みがするめんの胸に刺さる。
そして、それに続くように
ガルフも彼女に軽く頷いた。

ガルフ
「ま、お前も生き延びられるようにしっかりやれよ。
道中で死んだら縁起が悪いからな」

彼なりの冗談めかしたエールに、
するめんは照れ笑いを浮かべながら手を振った。

するめん
「うん! 次会うときも元気でね!」

二人を送り出した後、
するめんは深呼吸して振り返った。
隣には、いつものように跳ね回るスライムの姿。

するめん
「さて、次はどうしようか。
仲間たちもどこかで頑張ってるはずだよね」

空に浮かぶ二つの太陽を仰ぎ見て、
新たな一歩を踏み出すために歩き出す。
まだ長い道のりが待ち受けていることを感じながら。
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