転生実況はじまりました ~異世界でも仲間と一緒に~

緋月よる

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第3章《一人の戦い》

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転生者たちの一人、
するめんが目を覚ましたのは、広大な草原だった。
空は晴れ渡り、二つの太陽が
じんわりと熱を注ぐように輝いている。
風に揺れる草の音が耳に心地よい一方で、
状況の異常さが胸をざわつかせた。

するめん
「……ここ、どこなんだろう?」

彼女はゆっくりと起き上がり、辺りを見渡した。
果てしなく続く青い空と緑の草原のコントラストは、
異様な静けさを纏っている。

するめん
「えーっと、まずは状況整理……
あれ、そうだよね。確か……」

思い出すのは、あの白い空間と女神の謝罪、
そして異世界への転生という説明。
胸をなでおろす暇もなく、この草原の真ん中で、
自分はたった一人だと悟った。

彼女は足元に転がっていた小石を拾い、
半信半疑であのスキルを試すことにした。
女神に与えられたと説明された、
転生者の特権である「鑑定スキル」。

するめん
「えーっと……『鑑定』、これでいいのかな?」

緊張した声で呟くと、
彼女の目の前に鮮明な
情報の文字が浮かび上がった。

――――――――――――――――――
【鑑定結果】

分類: 無機物
効果: 普通の石。何の特性もない。
――――――――――――――――――

するめん
「すごっ……
これ、本当にゲームのステータス画面みたい」

思わず口元に笑みが浮かぶ。
この世界が未知の場所であることを忘れるほど、
そのシステム的な表現に少しばかり感動を覚えた。

するめん
「やっぱ鑑定って便利だね……
何でも情報が見れるってこと?」

初めての鑑定に少し高揚しながらも、
状況が不明瞭なままでは不安が大きかった。
彼女はとりあえず目の前の草原を歩き出した。

すると、数十メートル先の草むらが
何かに動かされたように見えた。
「誰かいる?」と呼びかけたい気持ちと、
同時に込み上げる警戒心。

草むらから現れたのは、人ではなく、
小さな透明なゼリー状の物体だった。

するめん
「なに、これ……? スライム?」

見た目とサイズ感から、それが彼女の知識にある
「スライム」のようなモンスターだと直感した。

するめん
「……試しに鑑定!」

――――――――――――――――――
【鑑定結果】
グリーンスライム
分類: スライム種
危険度: E級
特性: 弱点は物理攻撃と火。
草食性で人間には積極的に危害を加えないが、
危機を感じると反撃する。
――――――――――――――――――

鑑定結果を見て、するめんは少しだけホッとする。
人間には基本的に危害を加えないと明記されていたからだ。

するめん
「そういうタイプなんだ……良かった」

スライムは特にこちらを意識する様子もなく、
草をぺたぺたと舐めるようにしている。
仕草の平和さに、一瞬警戒心が解けた。

草むらからの脅威
その時、不穏な気配が空気を変えた。
遠くの草むらに新たな動きがあったのだ。
次に現れたのは、体長が腰ほどもある
4つ足の生物――ウルフだった。
鋭い牙をむき出しにし、低い唸り声を上げている。

するめん
「やば……絶対ヤバいやつでしょ……」

静かに呟きながら、スキル発動を試みる。

――――――――――――――――――
【鑑定結果】
グレイウルフ
分類: 獣種
危険度: D級
特性: 群れで行動し、標的を囲む習性を持つ。
鋭い牙で攻撃し、身体能力も高い。
――――――――――――――――――

危険度D級――この段階で倒すには
厄介そうな相手だと、
鑑定結果が警鐘を鳴らす。

するめん
「スライムと違っておとなしくしてなさそう……」

瞬時に距離を取り、
逃げ出したい衝動に駆られるが、
草原は遮蔽物に乏しい。

するめん
「これ、本当に私ヤバくない?」

ウルフたちは次第にこちらへ向けて
間隔を詰めてきている。
冷や汗が滲む中、
彼女は必死に状況を打開する方法を模索した。

勇気ある一投
どうにか丘の陰に身を隠したするめんは、
ポケットに入れた小石に視線を落とす。
ごく普通の石。それが唯一の「武器」だった。

するめん
「当たるかわかんないけど……やるしかない」

ウルフの中でも比較的小さい個体を選び、
目線を合わせながらも石を振りかぶる。
「やってやる!」と思ったその瞬間。

ヒュン――ゴッ!

石はウルフの鼻先にヒットした。
痛みに怯んだ個体は小さく吠え、
他の個体がその後ろに下がった。

するめん
「……効果あり、ってこと?」

だが完全には諦めていない他のウルフを見据え、
まだ気を抜くことはできない。
緊張に震える手で、もう一度石を構えた。

草原でウルフの群れに立ち向かうするめん。
普通の石を武器に投げて怯ませたものの、
それだけでは脅威を完全に
排除するには程遠い状況だった。

するめん
「さすがに無理あるでしょ……
石ころで全部追い払えなんて……。」

彼女のつぶやきは、かすかに震えていた。
とはいえ、この場を切り抜ける方法を
考えなければ確実に命の危機だ。

草むらに身を伏せながら、
ウルフたちの様子を観察する。
鼻先に石を当てた一匹は
未だにこちらを睨んでいるものの、
他の個体は次の行動を決めかねているようだった。

するめん
「まだ慣れてない……? それなら……」

そろりと動き、彼女は手を再び草の中に伸ばす。
今度は普通の石ではなく、
鋭利な形状をした小さな岩のかけらが手に触れた。

追い詰められる中で
突然、遠方で鳥が舞い上がるのが見えた。
自然界の小さな反応は、
ウルフたちの行動の予兆でもあった。
彼らの中で指揮役と思しき大柄な個体が、
低い唸り声を発するや否や、
群れ全体が再び警戒を強め始めたのだ。

するめん
「うわ、絶対きてる……やるっきゃないか。」

「鑑定スキルでどうにか弱点がもっと分かるかな?」
彼女はそう考えると、
目の前の指揮役ウルフに集中する。

――――――――――――――――――
【鑑定結果】
グレイウルフα
分類: 獣種
危険度: D級
特性: 指揮を執る個体。足の骨がやや脆いため、
動きを封じれば他の個体の士気を削ぐ。
ドロップアイテム: 狼の牙、狼皮(価値: 中)
――――――――――――――――――

するめん
「足狙い……いけるか?」

それでも怖いものは怖い。
身体中に冷や汗が滴り落ち、
足元の地面が微妙に揺れている錯覚すら感じた。

「怖いんだったら逃げればいいじゃん」
と頭の片隅で誰かが囁く。

いや、違う。こんなときだからこそ、
自分に課した小さな挑戦を
クリアしなければ――それこそ、
あの女神が言った“自由に生きる力”を
本当の意味で得られない気がする。

するめん
「オーケー……踏ん張るだけ踏ん張るよ!」

岩のかけらを握る手にギュッと力を込めた。

反撃の瞬間
するめんの初めての投擲スキルもどきは、
今度こそ最大限の集中力を込めたものだった。

スローモーションのように感じる時間。
投げつけた石は一直線にウルフαの右前脚を狙った。

パキン!

見事に骨へとヒットし、
ウルフαは瞬間的に体勢を崩す。
大柄なウルフが不安定な姿勢で吠える姿は、
他のウルフたちにも明らかな動揺を生み出していた。

すると、不意にスライムが
横から飛び出してきてウルフに張り付いた。

するめん
「ちょ、何あれ……!」

スライムは意外にも意図があるように
ウルフを絡め取る動きで動き回った。
単純に草を食べるだけだと
思っていたあの弱そうな存在が、
少しだけ強気を見せたことで、
するめんはふと心が楽になるのを感じた。

するめん
「わ、応援してくれてるの?
 スライムさん……ありがと。」

震えていた身体が落ち着き始め、
もう一投行けそうだという自信が込み上げる。

勝利の兆し
さらなる石を探し、
短い間で確保した小石を手に投げる。
狙いは、傷ついたウルフαの頭部。

コツン、と音を立てた衝撃で、
ウルフαは倒れる寸前に陥る。
それを見た群れはついに完全に
退却を決めるかのように、
一斉に駆け出していった。

するめん
「勝った、のかな?」

身体をぐったりと地面に預ける。
全身の筋肉が緩むのを感じながら、
心の奥底から安堵の吐息が漏れる。

「初めて」の後に訪れるもの
しばらくの間、無言のままで草原を仰いだ。
彼女の目の前にはスライムがぺたりと近づいている。

するめん
「よく頑張ったね……
なんか、一緒に乗り越えた気がする。」

スライムは何も言わない。
ただ、少し愛嬌のある仕草で
跳ねているように見えた。

そんなスライムを見ながら、
ふとするめんは自分の手を振り返った。

初めてスキルの恩恵をしっかりと受け、
武器にもならない小石だけで敵を撃退した。
その達成感が胸いっぱいに広がっていた。

するめん
「これが“冒険”ってやつなのかな……?」

だが、それと同時に心の中で、
残りのカラヴィブメンバー達のことがよぎる。

するめん
「ねえ、みんな元気にしてる?……
きっと次はどこかで会えるよね。」

小さく言葉を漏らしながら、
彼女は歩き出す準備をする。
この先に待つものを、
少しの期待と共に迎え入れようと決心して――。
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