転生実況はじまりました ~異世界でも仲間と一緒に~

緋月よる

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第23章《迷子スライムと昔話》

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街の喧騒が耳を満たす。石畳の道を歩く
三人の冒険者――アポストロフィ楼酢、
なぎ、そしてするめんの目には、
露天商や屋台のカラフルな布が
次々と映り込んでいた。

なぎ
「ここ、めっちゃ賑やかやなあ。
お祭りみたいやん!」

アポストロフィ楼酢
「ははっ!確かにそうだな。
けど、なぎ、財布の紐は締めとけよ?
これ全部、討伐の報酬だぞ」

なぎ
「分かっとるわ!……と言いたいところやけど、
あそこの串焼きめっちゃ美味そうやん!」

そう言いながら、
なぎは屋台へ一直線に向かった。
焼き鳥が串に刺さり、香ばしい煙が立ち上っている。
彼女は手を伸ばしかけたが、楼酢に腕を掴まれた。

アポストロフィ楼酢
「おい!今、忠告したばかりだろ!」

なぎ
「ロスさん、ほんま細かいなあ。
ええやんか、一串ぐらい!」

アポストロフィ楼酢
「えっこれ俺が悪いの!?」

するめんは二人を見ながら微笑んでいた。
彼女の足元ではスラちゃんが跳ねている。
街の子供たちがその姿に気付き、歓声を上げた。

子供たち
「見て!スライムだ!かわいい!」

するめん
「スラちゃん、人気者だね」

スラちゃんはぴょんぴょんと跳ねて、
子供たちの輪の中に飛び込んでいく。
その様子を見たするめんは、
ふと隣の露店に目を向けた。
そこには小さな薬瓶や草の束が並べられている。

するめん
「……これ、何の薬だろう?」

アポストロフィ楼酢
「お、いい目してるじゃねえか、
するめん!これ、買おうぜ!きっと役に立つ」

彼が手に取ったのは、
謎の模様が刻まれたガラス玉だった。
店主は嬉しそうに頷きながら、
それが「呪術的な装飾品」だと説明する。

なぎ
「ロスさん、それ何に使うん?」

アポストロフィ楼酢
「いや、見ろよ!かっこいいだろ?
こういうの持ってると、
強そうに見えるじゃねえか!」

楼酢は自分の発言がツボに入ったのか、
またゲラゲラ笑い出した。

アポストロフィ楼酢
「はははっ!おい、なぎ、どうだ?
俺、これ持ってたらボスに
睨まれるくらい威圧的に見えねえ?」

なぎ
「……はあ。ほんま、
ロスさんのセンス、どこで道外れたんやろ」

するめんはくすくす笑いながら、
スラちゃんを呼び戻すため手を振った。

露店をひと通り回り、
三人は広場に戻ってきた。
なぎが串焼きを片手に、
満足そうに笑っている。

なぎ
「やっぱりあの串焼き、食べて正解やったわ!
ほんま、いい匂いやったし!」

アポストロフィ楼酢
「お前、結局買ったんかよ!
まあ、確かにうまそうだな……」

彼が手を伸ばしそうになるのを、
なぎは素早く避ける。

なぎ
「ロスさんにはやらへん!
自分の分は自分で買うんや!」

するめんは二人のやり取りを眺めながら、
足元のスラちゃんに目をやった。
スラちゃんは、
近くの屋台の方をじっと見つめている。

するめん
「スラちゃん、何か見つけたの?」

すると、スラちゃんは急に跳ね上がり、
人混みの中へと飛び込んでいった。

するめん
「あっ、ちょっと待って!」

するめんはスラちゃんを追いかけて駆け出したが、
街の賑わいに飲み込まれ、
楼酢たちから離れてしまった。

一方、その頃
なぎが串焼きを食べ終え、
するめんの姿が見当たらないことに気付いた。

なぎ
「ロスさん、るめさん、どこ行ったんや?」

アポストロフィ楼酢
「え?……嘘だろ。
スラちゃんが暴走でもしたのか?」

彼は苦笑しながら首を振る。

アポストロフィ楼酢
「まあ、迷子ってことだろうな。
よし、探すぞ!……って、おい、なぎ。
串焼きの残り持って行く気かよ!」

なぎ
「だって、探しながら食べる時間節約やん!」

アポストロフィ楼酢
「……お前、どこまでもブレねえな!」

二人は人混みの中をかき分けながら、
するめんとスラちゃんを探し始めた。楼酢はふと、
するめんが興味を示していた薬屋の屋台を思い出す。

アポストロフィ楼酢
「あのへんだな、
するめんが立ち止まってたのは……」

なぎ
「スラちゃんがおるとしたら、
みんなが注目しとる場所やと思うんやけどなあ」

二人は広場を一巡するも、
するめんの姿は見つからない。

アポストロフィ楼酢
「くそっ、あいつ、どこまで行ったんだ……
スラちゃんが気まぐれなもんだからさ」

なぎ
「ロスさん、ここで愚痴っても始まらんで。
もっと細かく探すんや!」

するめんは、人混みをかき分けながら
スラちゃんを追いかけていた。
周囲の声や足音が反響し、
目の前には次々と知らない人の背中が現れる。

するめん
「スラちゃん、どこ行っちゃったの?待ってよ!」

焦る気持ちのまま駆け抜けると、
やがて喧騒が遠のき、静かな空気に包まれた。
見上げると、白い石造りの教会が目に入る。
その高い鐘楼からは穏やかな鐘の音が響き、
緑の蔦が建物の側面を彩っている。
周囲は広場になっており、
いくつかの木製のベンチが並び、
老若男女が思い思いの時間を過ごしていた。

するめん
「ここ……教会の近くかな?」

その時、近くから聞き慣れた音がした。

ぴょん、ぴょん――

するめん
「スラちゃん!」

振り向くと、スラちゃんは教会前の広場で
子供たちに囲まれていた。小さな手で触られたり、
追いかけられたりしているが、スラちゃんは
嫌がる様子もなく楽しそうに跳ね回っている。

子供たち
「わあ、すごい!ぷにぷにしてる!」
「こんなにかわいいスライム、初めて見た!」

するめんは胸をなで下ろし、
子供たちに歩み寄った。

するめん
「もう、スラちゃん。
勝手にどこか行っちゃだめだよ」

スラちゃんを優しく抱きかかえたするめんに、
子供たちは目を輝かせながら寄ってきた。

子供
「お姉ちゃん、このスライム、
どうやって仲良くしたの?」

するめんはしゃがみ込み、微笑んで答えた。

するめん
「スラちゃんは私の仲間なんだよ。
テイマーっていうお仕事をしてると、
こうやってモンスターと仲良くできるんだ」

子供たちは目を丸くして驚く。

子供
「モンスターと仲良し!?すごい!」
「ねえ、スライムって強いの?」

すると、一人の子供が急に
声を張り上げて歌い出した。

子供
「遠い遠い昔の話~、異界からやってきた~、
転生者を名乗る物が~、魔神を封じた~」

周りの子供たちもそれに続き、
まるで遊び歌のように歌を口ずさむ。
するめんは首をかしげた。

するめん
「え?それ、何の歌?」

別の子供が元気よく手を挙げた。

子供
「これね、教会で教えてもらったお話だよ!
魔神アザリアっていうすごく悪いやつを、
昔、異世界から来た人が封印したんだって!」

するめん
「魔神……アザリア?」

子供たちはそのまま歌を続けながら、
スラちゃんと遊び始めた。一人が説明を続ける。

子供
「転生者っていうのが、
すっごく強い人だったんだって!
仲間と一緒に戦って、魔神を封じたんだよ!」

するめんはその話に耳を傾けながら、
目の前の光景をじっと見つめた。
子供たちが輪になり、
無邪気にスラちゃんを追いかけている。
その中心でスラちゃんが跳ね回る姿は、
どこか心を和ませる。

するめん
(この世界に、
私達みたいな転生者が昔にもいたんだ……)

彼女の胸には、かすかな引っかかりが生まれていた。
それはただ漠然とした感覚だった。
「転生者」という存在が、この世界で何かを
成し遂げたということ。その事実が、
するめんの中で軽い疑問を生む。

するめん
(私たちも、何か同じような事をするのかな
……いや、まずは生きることが一番だけど)

その時、子供たちの明るい声が
するめんの思考を遮った。

子供
「スライムさん、すごいジャンプ!」
「ねえ、お姉ちゃん、また来てくれる?」

するめんは微笑みながら頷いた。

するめん
「もちろん。また遊びに来るね」

彼女はスラちゃんを抱き上げ、周囲を見回した。

するめん
「さて……みんなのところに戻らなきゃね」

するめんが教会の広場から戻ろうとしたその時、
遠くから聞き慣れた声が聞こえてきた。

アポストロフィ楼酢
「おーい!するめん!どこにいるんだよ!」

声の方に目を向けると、
楼酢が手を振りながら広場に入ってくる。
その後ろでは、なぎが少し疲れた様子で
ついてきていた。

なぎ
「るめさん、ほんま、どこまで行っとったんや。
私らめっちゃ探したんやで」

するめんは少し申し訳なさそうに笑った。

するめん
「ごめんね。スラちゃんが
急に飛び出しちゃって……
でも、無事に見つけたから」

アポストロフィ楼酢
「ははっ、まあ、無事ならそれでいいさ。
けど、探すの大変だったんだから、
次からは気を付けてくれよな!」

するめん
「うん、ありがとう。二人とも」

なぎはスラちゃんを見つめながらため息をついた。

なぎ
「スラちゃん、ほんまやんちゃやなあ。
るめさんの仲間やし、もっと落ち着いてほしいわ」

スラちゃんは跳ねながら、
ぴょんぴょんと明るい音を立てて
自己主張しているようだった。
その様子に楼酢がまた笑い出した。

アポストロフィ楼酢
「はははっ!スラちゃんはそれでいいんだよ、
なぎ。むしろ、そのおかげで俺らもこうやって
楽しい思い出が増えるんだからな」

なぎ
「……ロスさん、ええように解釈しすぎやろ。
ほんま楽観的すぎてびっくりやわ」

楼酢はなぎの言葉にさらに笑いを深め、
肩をすくめた。

アポストロフィ楼酢
「まあまあ、そんなこと言わずにさ。
するめんが見つかったんだし、
ほっと一息つこうぜ。
ほら、次の冒険の準備もあるんだからな!」

するめん
「うん、それがいいね」

三人は広場を後にし、
再び街の通りへと戻った。
夕方の光が差し込み、
石畳に柔らかな影を落としている。
子供たちの笑い声や、
露天商の呼び込みが聞こえる中、
三人の足取りは少しだけ軽くなった。
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感想 2

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みんなの感想(2件)

おにうぉん
2024.12.27 おにうぉん

ひとりひとりの喋り方とかキャラ設定、ストーリーの構成とかとても好きです!なぎさんの「オマガッ」もちゃんと再現されてて面白すぎます笑

解除
おにうぉん
2024.12.27 おにうぉん

ちゃんとみんなのキャラが成り立っててとても好きです!!!

解除

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